アーサーと魔法のランプⅨ-新大陸の野望

目が覚めたら知らない部屋のベッドの上だった……ご丁寧に両手を縛られた状態で……。

「お前…なんのつもりだ?
これはなんだ?嫌がらせか?
女の姿を思い切り笑っても反撃を食らわないようにか?」
イギリスはそう言いながらなんとか身を起こすと、目の前の見慣れた顔をにらみつけた。

そのイギリスの反応に、目の前の元弟は肩を落として
「本当に…君って人は……」
と呆れたように息を吐き出した。

「ねえ、単に笑いたいだけなら日本の家で指差して笑えばいいだけだよ?
こんな所まで非合法に連れてきたら国際問題だってわかってる?
ただ笑いたいだけでそこまでのリスクを犯すほど俺が馬鹿だと君は思ってるのかい?」

そう言われればそうなのだが……

「…あのな、か弱そうに見えても女のほうが苦痛に強いんだぞ?」
「…君…今度は何が言いたいんだい?また脳内暴走してる?」
「いや…女だったら脅せば機密の一つでもしゃべると思ってるのかと思って」

他にアメリカがわざわざ国際問題になるようなリスクを犯してまでこんな行動に出る理由が思い当たらない…と、真顔で言うイギリスに、アメリカはOh,my god!!!と、叫んで天井を仰いだ。

「ねえ、君の脳内ではどれだけ俺は悪逆非道な人間なんだいっ?!」
「いや…他の奴に対してはとにかくとして、お前、俺のこと嫌いだから…」

第一悪気がないなら薬で眠らせて拉致した挙句に手を縛ったりしないだろ?
と、そこはもっともな意見を述べるイギリスに、アメリカは少し考え込んだ。

そして、イギリスの方に近づくと、
「逃げないでくれよ?君逃げ足だけは速いから嫌なんだ。」
と、両手の縄を解く。

それから改めてベッドに座るイギリスの前に膝をついて、その顔を見上げた。




「ねえ、イギリス。
もし自分を愛している相手が欲しいと思うのなら、君はまず俺のところへくるべきだったんだ。」

そう言う綺麗な空色の瞳は特にからかいの色などなく澄んでいる。

もしこれがアメリカが子どもだった時代ならイギリスも素直に喜べただろう。

『ありがとう。そうだよな、お前がいたよな。』と、笑って抱き寄せ、頬にキスの一つでもしていたはずだ。

が、いまの日々自分をあざ笑いからかってくるアメリカの言葉だと思うと、何を言いたいのかが正直わからない。

それこそ“裏の意味”でもあるのだろうか…。

「何が言いたいのかわかんねえ。」
イギリスが正直に言うと、青空が少し曇った。

「まあ…俺も少し意地を張ってた部分もあるからね…好意に鈍い君がわからないのも仕方ないか…」
アメリカのそんなつぶやくような言葉にイギリスはカチンと来た。

「結局やっぱりひとを馬鹿にしたいだけじゃねえかっ」
はき捨てるように言うと
「違うってっ!」
と、アメリカも若干いらだって言う。

「ああ、もういいよっ!
君に言わずにわかってもらおうなんて甘い考えは捨てるべきだね。
いいかいっ?よく聞いておくれよ?!
アメリカはそう言うと、普段より一回りは華奢になったイギリスの両肩を両手でつかんで、身を乗り出してきた。



「俺はね、君のことがずっと好きなんだ!
ああ、勘違いしないでくれよ?家族愛なんてもんじゃないからっ。
恋愛って意味のねっ!○ックスしたいほうの好きだよっ!
独立前から自分よりも大きくなった俺を傷だらけになりながら必死に守ろうとする自分よりもちいさい君を見て思ってた。
逆に俺の方が君を守るべきなんだって。俺にはその力があるんだって。
愛する相手は守られるより守りたいじゃないかっ。
俺が独立したのはそのためだよっ。
君は耳をふさいでそんなこと言わせてもくれなかったけどねっ。
いくら俺がもう子どもじゃないって言っても君は聞き入れてくれないし、俺も意地になってキツイ事ばかり言ってたけどさ、あの日草原で君に出会ってからは、君を嫌いどころか俺の人生の中で君を一番に愛してなかった時期なんて一時たりともなかったよっ。
君があんな怪しげな魔法のランプだかなんだかを使ってまで愛されたいなんて思ってるなんて知ったら、もう耳を塞いだ手を引き剥がして告げるしかないじゃないかっ!」

「ちょっと待て……」

アメリカがそこまで一気に言った時、イギリスがストップをかけた。

「もうっ!告白の言葉を途中でさえぎるなんて、相変わらず君は仕方ない人だねっ!」
と、不機嫌になるアメリカを完全スルーで、イギリスは自分のほうも身を乗り出した。

「お前の言い分はわかった。まあ、信じるか信じないかは別にしてな」
「そこは信じるって言うべきじゃないかいっ?!ホント空気を読まない人だなっ!」
「お前にだけは空気読めとか言われたくねえ。」
「君もたいがい失礼な人だね」
「いや、失礼とかそんなことはこの際どうでもいいんだ。」
「普段礼儀礼儀うるさいくせに」
「黙れっ!」
「………」

とりあえず相手の話を聞くまでは自分の説得も応じてもらえないらしいと悟ったアメリカは大人しくイギリスの言葉を待つことにしたらしい。

そうしてアメリカが黙ったところで、イギリスは言った。

「お前…なんで魔法のランプとか、そのとき俺が話した事を知っている?」
「っ!」
「……俺の自宅で、俺と兄さんしかいないところでした会話なんだが?
そもそもなんで俺が日本の家にいるって知ってたんだ?」
「いや、それは日本から聞いて……」
「日本は俺をイギリス本人だって知らないはずなんだが?」
「いや…だからそれは……」
「盗聴…してやがったのか?」
「…あ、あの……」
「俺は意味もなく個人的趣味で盗聴器しかけるようなストーカー野郎を育てた覚えはないんだが……」

グイっと襟首をつかんでそう言うイギリスに、たら~りと額から冷たい汗をかくアメリカ。

「お前……」
返事が無いことを肯定とみなしてイギリスの視線が冷たくなっていく。

たら~りたら~りとさらに汗をかくアメリカ…が、緊張の限界を超えたらしい。

「だってっ!わかってくれない君が悪いんじゃないかっ!!」
叫ぶや否や、いきなり身を起こした。



「ひょわっ!!」

アメリカが身を起こしたは良いがイギリスの肩に手をかけたままだったため、後ろに倒れこむイギリス。

ボスン!と音をたてて腰から上はベッド、足は床にという体制のイギリスをアメリカは何かキレてしまった目で見下ろした。

「そうだよ、君はいつだって俺の言葉なんて聞いちゃくれなかった。
君から俺に自分の事話してくれないから、盗聴するしかないじゃないかっ!
実力行使するしかないじゃないかっ!」

「ちょ、ちょっと落ち着けっ、な?!」
さすがに異変を感じて慌てて言うイギリス。

なんのかんの言って可愛がられて育ったアメリカは、極度の緊張に弱い。
そして…育ての親に似てしまったのか、暴走気質だったりもして……

「そうだよ。言葉で言ったって通じないんだ。」
グシュグシュと泣くアメリカをイギリスは
「いや、待てっ!話そう!話し合おうっ!」
と、慌ててなだめるが、アメリカはフルフル子どものような仕草で首を横に振った。

「俺は子どもじゃないっ!」
「ああ、そうだな、立派な大人だ。」
「君の恋人にだってなれるんだっ!」
「………それは…ちょっと……」
「そうだよっ。いま君は女の子なんだからっ。」
「いやいや、見かけは女でも中身は俺だぞ?」
「…理想的じゃないかっ」
「ちょ、待てっ!血迷うなっ!世の中可愛い女の子はいっぱいいるからっ!」
「どんなに可愛い女の子より君がいいよっ!」

のしかかられてさすがにイギリスもこれはまずい…と思う。

男の頃でも力では到底かなわなかったが、いまはさらに女性化して筋力など皆無だ。
本当に思い切り押し返してもビクともしない。

「ちょ、待てっ!これじゃあヒールだぞっ!お前はヒーローなんだろうがっ!!」

唯一太刀打ちができるかもしれない言葉を使ってみるが

「もうヒールでもいいよっ!君を手に入れられるならそんなのもういいんだっ!」
と、逆方向にふっきれられる。

やばいやばいやばい!これは本格的にやばいっ!!
拉致された時のまま着物なので、あっという間に着崩れる。

本気でありえないっ!
こんな風に強姦まがいなのもありえなければ、その相手が自分が育てたアメリカだというのも本当にありえなさすぎて、イギリスは半泣きになった。

しかし殴ろうが蹴ろうがびくともせず、それどころか乱れた着物の裾から手を入れられて、それが足の付け根の方に這い上がってきた時には鳥肌がたった。

こんなことなら…どうせ100年後に男に戻るなら女の初めてはロマーノあたりにでもやっておいたほうがまだマシだったかも…などと失礼な事をやけくそのように考えて、ハッと思い出した。

そう言えば……

幸い手は自由なのでロマーノにもらった指輪の石をスルリとスライドさせてみると、飛び出してくる小さな針…。
それをチクッとアメリカの首筋にさしてみると……
ドサっといきなり体重がかかった。

効果抜群である。

「やったっ!」
と、ガッツポーズをとるイギリス。

……が、そこでアメリカの下から抜け出そうとして青くなる。
お…重いっ!!!
くそ~、だからダイエットしろって言ったのにっ!!!
と、毒づいてみるものの、本人を起こすわけにもいかないし、まあ薬が強力な分とうぶん起きないだろう…。

ジタバタジタバタそれでも諦めずにあがいてみるものの、ますます着物が着崩れて露出が多くなるだけで、一向に抜け出せず涙目になった。

どうしよう…これでは助けも呼べない…というか、ここどこだ?
連絡手段とかあるのか?
自分の携帯は日本の家だし、見たところ少なくともこの部屋に電話らしきものはない。
アメリカも馬鹿ではないだろうから、さすがに携帯にパスワードくらいはつけているだろうし、当座の危機は去ったものの前途多難すぎて本気で泣けてきた。




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