勇気を貯めたラテンの本気

「ちょ、おま、何してるっ?!!!」

こうしてどうする事もできないままどのくらいの時間がたったのだろうか…。
いい加減疲れて半分放心していると、急に重い体をどかされた。

続いてチェキっと引き金に指をかける音がしてハッとして顔をあげると、そこにはなんとイタリアにいるはずのロマーノが見たこともないような怖い顔をして銃を構えて立っている。

もちろんその銃口の向く先は床に転がされた元弟。

…というか…ヘタレへタレと言われる割りに、こいつこんな重い奴どけられるんだ…と変な事に感心していたイギリスだが、

「ちょっと待ってろ。こいつ始末したら行こう。」
と、なんだか恐ろしく据わった目のロマーノにそう言われて、慌てて叫んだ。

「す、ストップっ!!大丈夫だからっ!何もされてないし、してないしっ!!!
すぐお前にもらった指輪使って寝かせたのは良いけど、倒れこまれて下から抜け出せなくなってあがいてたら着崩れただけだからっ!!!!」

イギリスの言葉にロマーノは引き金をひきかけていた指を止める。

「な?とりあえずそんな事で面倒になるのも嫌だしっ!
今なら足つかねえからっ!銃とか使ったらそっから足付くぞ!!」

ちっ!しょうがねえっ!と、舌打ちをして銃を降ろすロマーノにホッとイギリスは息を吐き出した。

「本当に…何もされてねえよな?」
と、さりげなく自分の上着を脱いでそれをイギリスに羽織らせると、ロマーノは実に自然な仕草でイギリスを抱き上げた。

「…お前…何してんだ?」

いきなり抱き上げられてイギリスがちらりと上目遣いにロマーノを見上げると、ロマーノは
「そんな格好で走らせるより俺が抱えて走った方が速えだろ。」
と少し赤くなってそっぽを向いてそう言って走り始めた。


意外にしっかりした足取り。
幼い頃にローマに抱き上げられた時にしたのと同じ大地の匂い。

あの能天気なまでの人当たりの良さと運の良さこそ受け継がなかったが、その他はどちらかというとロマーノの方がヴェネチアーノよりもローマに似ている気がする。

なんだか泣きたいような懐かしいような…なんとも言えない気分になってキュッとロマーノのシャツの胸元をつかむと、ロマーノは一瞬足を止めて

「怖い思いしたな。でももう大丈夫だからな。
お前の一人くらいなら俺がなんとしても守ってやっから。」
と、少し笑みを浮かべて言うと、また走り出した。

うあぁあああ~~~と、黙ってイギリスは赤面する。

ホントにこいつはあのイギリス様、イギリス様言って自分を見ると泣き出していたヘタレ男なんだろうか…。

「お前…怖くないのか?」

色々な意味でイギリスが聞くと、ロマーノは
「今はな。」
と、息を切らせながらも答える。

「俺はさ、普通より勇気の容量は少ねえから普段無駄な勇気は使わねえで非常時のために貯めてあんだよ。
だから他の奴らが垂れ流してる何百年分かくらいの勇気使ってっから、安心しろ。
何も心配すんな。今の俺は無敵の男だっ」

汗を掻き、息を切らせていて、決して余裕には見えない。
でもそう言って少し苦しそうな笑みを浮かべるロマーノは世界中で一番頼もしく見えた。

こいつは…確かに世界をまたにかけたローマ爺の孫だ。

「…めちゃ頼りにしてる。」

そう言ってぎこちなくロマーノの首に手を回して軽く頬にキスをするだけで、きっと自分が真っ赤になっている自覚はある。
でもそれに一瞬動きを止めてそれからまた前を向いて走り出したロマーノの顔も真っ赤で、なんだかそれもいいか…と、イギリスは思った。

今この瞬間…自分は誰かに大切に思われている…それをロマーノに教えてもらっている気がした。


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