アーサーと魔法のランプ_お姫様とコンキスタドール

「新大陸の若造から宝モン奪取なんて、ほんまコンキスタドールやな」

こうしてどうする事もできないままどのくらいの時間がたったのだろうか…。
いい加減疲れて半分放心していると、急に重い体をどかされた。
ハッとして顔をあげると、そこにはなんと太陽の国が立っている。

何故よりによってこいつがここに?
そう思う前に、自分の事を嫌いなこいつなら少なくとも、馬鹿にしたり後々あざ笑われたりするかもしれないが、性的になんちゃらはないだろう…そう思ったらホッとしすぎてポロポロ涙が零れ落ちた。

ああ、もう馬鹿にするならしやがれっ!
養い子にレイプされそうになったなんて経験したらお前も絶対に泣くからっ!!
やけくそな気分でそんなことを思いながら見上げると、驚いたことに太陽の国、スペインは随分と優しげな…気遣わしげな表情で、自分の上着を脱いでよこす。

「怖い思いしたな。もう大丈夫やで?
これ上から羽織っといてな。
ここから脱出して家ついたらもう少しマシなもん用意したるから。」

そんな事を言いながらさらに頭をなでてくる手にイギリスはぽか~んと呆けた。

何故こんなに優しいのかという疑問がぐるぐる回る。

もしかして…こいつは自分をイギリスと認識して無いのか?
そんな考えを肯定するように、スペインは少し身をかがめてイギリスに視線を合わせると、
「俺はスペイン。ロマの身内やで。自分はアリアやんな?」
と、いつもが嘘のように優しい声音でそう聞いてくる。

そこでイギリスがコクコクうなづくと、そうか、ほな行こか、と、手を差し出してきた。

自分が女になって全体的に小型化しているせいか元々なのか、随分と大きくがっしりとしているように感じる褐色の手。
イギリスがそれをつかむと、しっかりと助け起こしてくれた。

「それ…歩きにくそうやな。
なあ、自分が嫌やなかったら親分抱えていきたいんやけど…。
もちろんあんなんされたあとやし、知らん男に触れられるんが怖かったら言うてや?」

飽くまで穏やかに優しくそう告げてくるスペイン。
いつものKYさはどこに行った?と一瞬思い、しかし今はそんな事考えている場合ではないなと思い直す。

「別に…怖くは無いけど…」

本当は自分より大きな相手が怖いと久々に感じてはいるが、強がりはイギリスのアイデンティティのようなものだ。

思わずグッと睨み付ける様にイギリスがそう言うと、スペインはそんな事も見越したように

「お姫さん、見かけだけやなくて性格までイギリスに似とるなぁ」
と、クスリと笑って
「ほな、失礼するなぁ」
と、イギリスの膝裏に手を入れて、横抱きに抱き上げた。

「じゃ、ちょっと急ぐさかい、舌かまんように少し口閉じとってな。」
そういって、抱きかかえるイギリスの重さなどないかのように疾走するスペイン。

最近はすっかり丸くなって子分に罵られドイツに怒られて情けない表情をしていることが多いが、今ひどく真剣な顔をして走っている姿は、かつて欧州でも苛烈な軍事国家として世界に君臨していた頃を思いだすような精悍さをうかがわせる。

イギリスとてスペインと同じく一時は覇権を持つ軍事国家として名をはせたことはあったが、本体自体はやはり小さな島国なので、どちらかというと策を弄して従わせる事を得意としたが、スペインは正面から叩き潰すタイプだった。

敵は正面から完膚なきまでに叩き潰し、味方は手の内で盲目的に可愛がる…ラテン民族の人当たりの良さ、調子の良さで見落としがちだが、本来は体育会系のノリのある男、まさに親分なのだ。

その昔幼い頃は、太陽のように燦々と輝くその姿に憧れたものだ。

まあ…裏で画策して覇権から追い落とさざるを得なくなった時点で、ひどく嫌われたので視線を向けることすら怖くてできなくなってしまったが……。

そんな事もあって、今のこのとてつもなく近い距離は新鮮で、思わずマジマジと凝視していると、
「なん?気分悪くなってきた?つらかったら言いや?」
と、これも優しく問いかけられる。

そんな普段イギリスに対するのと全く違うスペインの態度に、これ…俺が女だったら落ちるかも…と、ついついそんなことを思ってしまう。

イケメンということなら、不本意ながらどこぞの隣国のヒゲ野郎もその類なのだろうが、危険な状況でも大丈夫、守ってもらえるという頼りがいのようなものが奴にはない。

伊達に国土の大半を異民族に侵略されて消えかけたところから腕一本で覇権国家までのし上がった男ではないというところか。

すがりたくなるくらい頼もしいのに、甘く優しいなんてちきしょう、どこの恋愛小説の登場人物だよっ!といいたくなる。

イギリスが脳内でそんな葛藤をしていると、反応のないことが少しばかり気になったのか
「堪忍な。もうちょっとで車やさかい。それまで我慢したって?」
と、両手がふさがっていてなでることが出来ない代わりなのか、コツンと軽く額に額をぶつけた。

うあぁあああ~~~!!!!
さすがラテン、やっぱりラテン、腐ってもラテン民族の男だ~!と真っ赤になって額を押さえるイギリスに、スペインはちょっと目を丸くして、次の瞬間くすくす笑った。

「お姫さん、なんや反応かわええなぁ。」
なんて甘い声で言ってんじゃねえっ!!
しかたない、こいつは年上の…しかもラテン男なのだ。
そういう類のことで適わなくてもしかたないのだ。
イギリスはそう思って諦めることにした。

決して優しく甘やかされるのが心地いいとか、そんな理由からではない。
そう、違うのだ。


「たわごとはいいから、いそげよ、コンキスタドール?」
悔しいからあえて上から偉そうに言ってみたが、スペインはまるで子どもの癇癪かレディの我侭を流すように
「了解。早急にお城にお連れしますよって、待っといてくださいな、お姫さん」
と、笑って額に軽くキスを落とし、また駆け出した。





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