――餅が食べたいっ!
――はあぁ??餅ぃぃ???
ニューイヤーズパーティーの途中での敵の来襲。
そこでかなりキツイ役割を担って若干落ち込み気味だったギルベルトは、
――お前はいっぱい頑張ったから…今夜はお前がしたいようにして…いい……
というありがたい言葉のまま、攻撃特化のジャスティスの体力に任せて随分と無理をさせてしまったので、翌日恋人様はめでたくベッドの住人となった。
それでも自分が言った事だからと恨みごと一つ言わないところが、ある意味男前だと思いつつ、でもさすがに申し訳なくて、何かして欲しい事はないかと聞いて返ってきたのが、冒頭の言葉である。
いや、確かに何か食べたいとかそういう系も予測はしていたわけなのだけれど、そこでいきなり“餅”が出てくるのは想定外だった。
「餅って…あれだよな?びよ~んと伸びる……」
と、一応確認を取ってみると
「正月に食べるアレだ。伸びない餅は嫌だな」
と、こっくりと頷きつつ返される。
「西洋のニューイヤーズパーティも悪くはねえけど、正月って言ったら餅だろ?
ポチだって極東出身だし、絡みにアンコ、きな粉餅…食いたくね?」
楽しそうに指折り数えられると確かにそんな気分にもなってくる。
「よしっ!どうせならちゃんと突くかっ!!」
食堂で言えばおそらく餅くらい用意してもらえるかもしれないが、どうせなら突きたてのお餅を食べさせてやりたい。
なんとなく落ち込んでいたが、思い切り杵を振りあげれば、良い気晴らしにもなるだろう。
そんな風に思ってギルベルトは食堂の方にもち米と杵と臼と蒸し器を用意してもらうように連絡をいれる。
「もち米をつけとく時間があるから、実際に突くのは夜になっちまうけどな。
突きたての美味いのを食わせてやるから、楽しみにしていてくれ」
そう言ってギルベルトは恋人様の額に口づけを落とした。
我儘で傲慢なように見えて、アーサーはすごく気を使う人間だと思う。
今回の要望にしたって、おそらくひどく落ち込んでいるギルベルトに気を使って気晴らしをさせようと思っているのだろう。
わかりやすくベタベタと甘やかして来る事はあまりないが、おそらく今目に見える形で甘やかされたら、自分はダメになる…とギルベルトは思う。
――思い切り発散したんだから、あとはくだらない事に気を取られずせいぜい尽くせよ?
と言うのは、傲慢だからじゃない。
痛みを何度も経験して痛みの癒し方を知っているからこその言葉である。
相手を守ると言う形を取ることで自分の存在意義を確認するギルベルトの性質をとても理解してくれているアーサーは実に出来た恋人様だ。
1人では出来ないので、ルートをも巻き込んでの餅突き。
先日の仲間がイヴィルになっていたという事件で落ち込み気味だったアントーニョを始めとするフリーダムの部員達も加わって、ずいぶんと大がかりなイベントになった。
「あま~いっ!美味しいっ!!」
餅は初めてだと言うフェリシアーノは、ミョ~ンと伸びるきな粉餅を食べ、
「甘いのも美味いけど、とりあえず絡みから行きたい派なんだよなぁ」
と、アーサーは絡み餅に舌鼓を打つ。
ギルとルートが突いた餅をせっせとそれぞれ大根おろし、アンコ、きな粉の入ったボールへちぎってはそれをまぶして配る役割は桜が担い、餅を食べて育った極東地区出身者も、初めて餅を食べるその他の地域の出身者も皆、突きたての餅の味を楽しんでいた。
「餅って…面白いわね」
と、やっぱり食べやすいあたりからと、きな粉餅を堪能しているエリザ。
「お前は突く側まわれよっ怪力女っ!!
フライパン振り回す腕力で突きまくれっ!作る側が全然足りねえっ!!!」
と、叫ぶギルにフライパンをお見舞いする。
「あ~。まだ杵と臼あるん?
せやったら親分突いたるよっ!
てか、面白そうやん、やらせたって!!」
と、突く側の参加表明をするアントーニョの前に、ササッと用意される臼と杵。
「仕方ねえなぁ。じゃあ本部長様がたまにはサービスしてやるよ」
と、餅をまとめる役はロヴィーノが名乗り出る。
そんな本部長組に我も我もとあちこちで名乗りをあげるものが続出。
大急ぎで杵と臼が用意され、ギルベルト兄弟はとりあえず餅突きから解放されてゆっくりと食べられる事に…。
「ぽち、ほら、特別に食わせてやるっ」
と、笑ってアーサーが差し出す餅を口にすると、そのままギルベルトが加えた餅を箸で自分の方へ。
そして伸びた餅の片方を自分の口にぱくりといれていたずらっぽく笑う恋人様の可愛さプライスレス。
こんなことをされたらこうするしかないだろう…と、ギルはもっもっと伸びた餅をどんどん食べ進んでアーサーの唇に到達。
びっくり眼の恋人様の目の前で2人をつなぐ最後の餅を口にして、その唇に自らの唇を重ねた。
……のを、獲物を前にした野獣の目で凝視するお嬢さん達と、餅のちぎり係を早々に放棄してスマホで録画する桜と遠子の極東腐女子…と、さらにいつものようにその様子をオカズに(?)黙々と餅を食べ続ける日和という、カオスな一帯。
敵の襲撃でひどく暗い終わりを告げたニューイヤーズパーティで始まった年だったが、思いがけず盛り上がりを見せた餅突きパーティのおかげで、基地内はだいぶ明るい空気を取り戻したのだった。
こうして食べるだけ食べて満足したあと…ギルベルトが取りだしたのは羽子板。
「やろうぜっ!」
とにこやかに言いだすのに、アーサーはむぅ~っと口を尖らせた。
「勝てない勝負はしたくない」
「あ~じゃあハンデっ!
俺様はルッツ背負った状態でならどうだっ?!」
と、飽くまで羽付き勝負を主張するギルベルトに、アーサーは
「…お前…何企んでる?」
と、眉を寄せる。
そして
「そんなに俺の顔に落書きしたいのか?」
と問えば、ギルベルトはにやり。
――可愛いタマの顔に落書きなんて出来ねえから…代わりに落とした数だけ痕つけてえ…
と、耳元で囁く。
そう、本当に耳元で小声で囁いたはずなのだが、ガバっとこちらを凝視する視線が多数。
「そうよねっ!!正月と言えば羽付きよっ!アーサー君っ!!」
と、すごい食い付きを見せるエリザと、それにまるでヘビメタのコンサートばりの首振りを見せるお嬢さん達。
唖然とするアーサー。
しかし
――お得意のレディ達に対するサービスは?
としたり顔で言うギルベルトを蹴りあげる事は出来ても、日々過酷な状況で働き続けるレディ達の期待を裏切る事はやはり出来ず、羽子板を手にする事になったのであった。
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