オンラインゲーム殺人事件あなざーその5・魔王探偵の事件簿_1

探偵死す(13日目)


色とりどりのマカロンにフィナンシェ、プリン、その他、これでもかと並んだお菓子の山。
普段ならそれらを目を輝かせて頬張っているアーサーも、今は緊張した面持ちでソファに座ってプルプル震えていた。

「まあ…大丈夫だと思うぜ?
うちの学校、飽くまでボンボン達を集めたってだけの学校で、トップは本当に日本のトップくれえの勢いだけど、馬鹿は果てしなく馬鹿だから、成績の平均は中の上くらいだしな。
特に特待生試験は、成績だけじゃなくて人望や運動神経その他、色々な面で学校のレベルをあげてくれる生徒しかなれねえ寮長様が実質身元引受人だから、よほどふざけた点数取らない限りは落ちる事はねえ。
公立とはいえ、学年トップでオール5取ってる優等生ならまず受かる。」

だから気楽に結果を待て、と、ポンポンと肩を叩くギルベルトの手の感触も全く感じないくらい、アーサーは緊張している。

午前9時から国数英。昼を挟んで理社のテストを受け、現在3時。
アントーニョは推薦者という立場なので、今結果を聞きに職員室だ。

こんなに色々してもらって、もう荷物すら運び込んでもらっていて、これで不合格だったらどうしよう…。

不合格になってトーニョと一緒に暮らせないのもショックだが、それ以上にせっかく推薦してくれたトーニョに手間暇だけかけただけでなく、顔を潰す結果になったらと思うと居た堪れない。

「あ~、もう、坊ちゃん、そんな思い詰めた顔しないの。
ほら、お兄さん特製のマカロンでも食べて……」

不安でだんだん目が潤みかけたアーサーの肩に手をかけて、もう片方の手にマカロンを持ったフランシスがそう言いかけた瞬間……ブンッ!!!!!と何かが飛んできた。

粉々になるマカロン。
反射的に避けたフランシスの真後ろの本棚の本にクルミがのめり込んでいる……。


「自分…何をアーティ泣かせとるん?
二度と涙出せへんようにしたろか?」
と、氷点下の笑み。

ドアの所に立つのは魔王様。

校舎に行っていたため、スタンドカラ―の白いシャツに黒いベスト、リボンタイまでしっかりと制服を着用している。
夏服なのでそれでも冬服よりはラフな感じだが、これで冬の制服の黒のロングコートでも身に着けていれば、本当に魔王そのものだ。

「ち、違うからっ!お兄さん、ただ慰めようとしてマカロン渡してただけだからっ!!!」
真っ青になって首をブルンブルンと横に振りながら両手をあげるフランシス。

アントーニョは確認するようにアーサーに視線を移し…一瞬目を丸くし、そしてふわりと微笑んだ。

「アーティ、顔真っ赤にしてどないしたん?」
隣にいたフランシスを片手でグイっと押しのけ、アントーニョがソファに座るアーサーの前に膝まづくと、アーサーはますます顔を赤くして俯く。

…トーニョの制服着たとこ…初めて見たな…って……

と言う蚊の鳴くような細い声で呟かれる言葉に、今度はアントーニョが無言で頭を抱えてうずくまった。

…っ…わええぇぇぇ~~!!アーティ可愛すぎやっ!!!!
と、心の叫び。
もちろん根性で声には出さない。

その反応に不思議そうな視線を向けるアーサー。
事情を察して思わずクックッと笑いをもらすギルベルト。
フランもここは笑いたいところだが、今笑ったら命が危ない気がして、必死にこらえた。




「あの…もしかして、試験の結果良くなかったとか?」

それぞれの反応の意味がわからず、不安にかられたアーサーがおずおずと問いかけてくるのに、アントーニョはハッとして、慌ててそれを否定する。

「そんなんやないよ?
いや…制服で思いだしてん。
中学のはベストとかパンツが白なんやけど、アーティが着たら似合うやろうなぁって…」
「じゃあ?」
ホッとした顔で少し身を乗り出すアーサーに、アントーニョは満面の笑みで答えた。
「おん。当たり前やけど、合格やで。
ていうか、この成績やったら学年でもトップレベルちゃうか?って先生達も言うとった。」
「ほぉ~、そんなに良かったのか?」
と、勉強関係なので興味をひかれたのか、ギルベルトが笑うのをやめて聞くと、アントーニョは
「5教科の平均98点。同じ学年やったらギルちゃんも主席危なかったんちゃう?」
とにやりと笑ってみせる。
「そいつぁ…確かにな。俺様もゲームやってる暇なんかなかったかもな。」
「せやろ?」
と、自分の事のように自慢げに嬉しそうに言うアントーニョにアーサーも嬉しくなって、顔に少し笑みが浮かぶ。

「制服はもう用意しとるから、着てみ?」
と、アントーニョはソファに座るアーサーの手を取って立ち上がらせると、寝室へと連れて行った。


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