俺たちに明日は…ある?!参の巻_1

軍師達の休日


「おかえりなさいませ。」
数日後、無事京都のカリエド邸の門をくぐると、笑顔のリヒテンの出迎えを受ける。
それぞれに馬を降り、散っていくなか、アーサーはリヒテンに駆け寄った。

「リヒテン~!ただいま!」
そのままリヒテンにぎゅ~っと抱きついた。
「ん~、京の匂いがする~」
頭一つ低いリヒテンの髪に顔を埋め、芳しい香の香りを思い切り吸い込むと、アーサーはつぶやいた。

「リヒテンの匂い、ほっとするな~」
しみじみと言うアーサーに真っ赤になるリヒテン。
「アーサー様、少しお力をゆるめて下さいませ。苦しゅうございます。」
と腕の中でモゴモゴ言う。
「あ、悪い。」
アーサーは慌ててリヒテンを放した。

「ご膳を用意してございますが、召し上がっていただけますか?」
というリヒテンの言葉にアーサーは歓声を上げる。
「食う!戦に出立して以来、ロクな物食ってないんだ!」
そしてリヒテンとじゃれるように連れ立って離れに帰っていく。

その様子をアントーニョはほっとしたように見ていた。
「帰る場所があるということは良い事やなぁ…」
隣にまだ控えているフェリシアーノにしみじみとつぶやく。

アーサーにとって日常と戦場の切り替えスイッチはどうやらリヒテンらしい。
戦に出て以来、アーサーはあまりに気を詰めていたような気がしていたが、すっかり元に戻っている。
あまりにつらい扱いにこのままでは潰れるかと心配もしたが、そこで息をつける場所があったか、と安堵する。

そういえばギルベルトもリヒテン相手に息抜きをしていたような事を言っていたか。
リヒテンには人一倍緊張を強いられる人種の緊張をほぐす何かがあるのか。

「うちの軍師二人の生命線か…何をおいても守らなあかんなぁ…」
アントーニョは二人の大事な家臣の顔を交互に思い浮かべながら、遠ざかるリヒテンの後ろ姿を見送った。

「旨い!やっぱりリヒテンの作る食事は旨いな~。」
もう何杯目かのポトフをすっかり平らげて、アーサーは満足げに笑みを浮かべた。
「お口にあってようございました。」
リヒテンはいつものように微笑んで食後の紅茶をアーサーの前に置く。

生きて帰ってきたんだ…実感するアーサー。
戦が始まってから戻るまで、ずっと緊張しすぎで頭に靄がかかっているようだった。
リヒテンの姿を見て、リヒテンの香水の匂いをかいで、リヒテンの作った食事を食べて、ようやく靄がはれて、色々な物が見えてくるようになった。

「戦に実際行ってみて…」
リヒテンは何も聞いてこない。
ただにこやかにその場にいてくれる。
それがとても心休まった。
凄惨な戦の様子をリヒテンに聞かせる事はやはりためらわれたが、何か気を使わないで良い相手に話をしたかった。

「ギルベルトの大変さが身にしみて分かった」
アーサーの言葉にリヒテンが少し小首をかしげる。
「なんも考えずに特攻する大将のお守りは本当に気を張るし、大変だった。」
アーサーは差しさわりのない部分で伝えようと考え考え言葉を続けた。
「うちの軍は大将があれだから、みんな防御とか何かあった時の備えとか考えてないからな…その勢いをそがないようにしつつも、暴走させないように、と思うとすごい神経使う。
それをずっと続けてるギルベルトはすごいと思う。俺は今回1戦だけでボロボロになった。」

ボロボロになった、その言葉を言える相手がいるだけで、気が少し休まる。

ギルベルトは…今まで、そして今も一人で抱え込んでいるんだろうか…ふとそんな事を考えて、アーサーははっとした。

「そいえばリヒテン、ギルベルトの所に行かないで良いのか?」

一応リヒテンは所属はギルベルトの下であるはずだ。
アーサーの言葉にリヒテンは軽く首を横に振ってにっこりした。

「ギルベルト様は戦から帰っていらした日は自分は色々事後処理もあるので、恐らく疲れて戻って来られるであろうアーサー様のお世話をするように、と、戦に向かわれる前日に…」
言われてアーサーは下を向いた。

「アーサー様?」

そういえば戦が終わった後もギルベルトには一方的に気を使わせるばかりだった。
一番大変で一番疲れているはずなのに…胃痛で眠れないくらい気を張っているのに出発前日からリヒテンに対してだけじゃなく、自分の事も気にかけてたのか…
なのに自分はギルベルトに並ぶどころか、今の今まで自分の事で手一杯で、他の者の事など気にかける余裕すら持っていなかった。

「リヒテン!」
「はい?」
気遣わしげにアーサーの顔を覗き込むリヒテンに、アーサーは言った。

「今からすぐギルベルトのところに行け。忙しくても食事を取る時間くらい作れるだろうし…何か言ってきたら、俺のせいにしていい。
どうせ飯も取らずにいるんだろうから、もって行けって俺が言ったって言っておけ」

少し悩むリヒテンを見て、アーサーは
「俺もちょっとトーニョの様子見てくる。一応あれの直属の配下扱いになってるしな」
と続けて立ち上がった。


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