青い大地の果てにあるもの2章_1

『恨みつらみより、どういう奴なのかをまず知ろうとしてみろ。』
叔父のローマからそう言われた二日後…極東支部のジャスティス二人組が本部へとやってきたらしい。

らしい…というのはまだ会っていないからだ。
朝について、そのままフリーダム本部にいると聞いた。
本部長のギルベルトはそう言えば一諜報員時代に極東支部にも行った事があるので、面識があるからだろう。
一瞬自分もフリーダム本部に乱入しようかと思ったが、やめておく。
夜には歓迎会があるので、その席で十分だ。
心の準備は必要な気がする。

ロッドを武器として攻撃魔法を使うアーサー・カークランドとウォンドを武器として支援系魔法を使う本田桜。
極東支部のジャスティスは二人とも立ち位置は後衛だ。
本来は武器的にはあまり相性が良くはない。
それでも支部一広範囲の極東から中東部くらいまでをたった二人だけで長年受け持ってきたのが極東組のすごいところである。
ただ、そのすごさは能力のみにとどまらず、味方の犠牲者の数にも反映されていた。

後衛コンビで盾がいない…。本来盾を必要とする後衛ジャスティスである二人に何かあればもう誰も何もできない…となれば、その盾役は一般人がやるしかない。
そうなると当然、現場に出るブルーアースのメンバー…諜報部隊のフリーダムがその任を請け負う事になる。

攻撃をしてくる敵に対して、自分達はなんら有効な攻撃手段を持たない…さらに言うなら、アーサーの攻撃魔法は味方だけを器用に避けてくれはしない。

結果…盾役フリーダム部員はアーサーが詠唱中に敵がそちらに行かないように文字通り身体を張って防ぎつつ、最後はその守っていた相手の攻撃で死ぬと言う運命をたどる事になる。
アーサーが死神の使いの異名をとるのはそのためだ。
絶大な魔力で敵も味方をも滅ぼす極東の魔術師…白い悪魔。

その悪魔に魅入られて自ら業火に焼かれて死んでいった弟を持つ身としては複雑な思いをぬぐえないが、フリーダムとなって極東支部に配属された時点でそれは変えられない運命ではあったのだろう。

それよりアントーニョ個人としては、いつか自分を殺すであろうその相手に生前弟が随分と親しみを感じていたらしいメールを受け取っていたため、そちらの方に興味をより惹かれないでもない。


今日は空気を読んでいるというわけではないだろうがイヴィルも現れず、それぞれが夜の極東支部組の歓迎会の支度でバタバタとしている。

とくに女性陣は普段なかなかおしゃれをする暇もないという事で楽しそうだ。
ええことやんな、と、そんな浮かれた空気を少し微笑ましく思いながら天気も良いことだしシェスタの場所でも…と、テロテロと廊下を歩きながら外に目をやっていたアントーニョは、ふと足をとめた。

大きな桜の木の下、少女が二人たたずんで桜の木を見上げている。
黒と白…そして桜のピンク色に目が引き寄せられた。
漆黒の髪に漆黒の瞳の少女が白く細い指先で桜の花をさししめし、金色の髪に緑の瞳の少女がそのさししめす先に視線をやる。
そうして二人何か楽しい話でもしているのか、クスクスと笑いあっているのが見えた。

なんとも可愛らしい光景に、アントーニョは足を止める。
楽園やんなぁ…と、こちらまでほわほわと暖かい気分になった。

今までこちらでは見かけなかった顔に、今日、極東のジャスティス達と一緒に極東のブレインも配属されるのだろうか…と、ふと思う。
基本的にブルーアースの入隊資格はジャスティス以外は20歳以上だが、ブルーアースの指定した4つの大学のいずれかを卒業すると16歳から入隊できる。

あの子達もそんな秀才組か、もしくは、極東の人間は若く見えるというから、実際の年齢より若く見えているのか…。

「トーニョ、鼻の下伸びてるわよ。」
そんな少女達にかなりの時間見とれていたのか、気付けば戦友がすぐそばに来ていた。

「エリザその言い方はひどいわぁ」
苦笑するアントーニョ。

「だってホントの事でしょ。あら、可愛い。極東支部の子達かしら?今回ブレインも配属される予定だっけ?」
エリザはアントーニョの視線の先に目を向けて、二人の見慣れぬ顔ぶれに目を止めると、少し首をかしげた。

「あ~。どないやろ?俺聞いてへんのやけど、もしかしたらそうなのかもしれへんし、もしかしたら新しいジャスティスの手続きだけしたら帰ってまうのかもしれへんなぁ…」
心の底から残念そうなその声音に、エリザはクスリと笑みをもらす。

「トーニョってあの手の子供好きだもんねぇ。でも見るだけにしときなさいよ。あんたみたいなのが手だしたら本当に犯罪だから。」

「自分…俺の事なんやと思ってるん?」
なさけな~い表情を作って肩を落とすアントーニョに、エリザは人差し指をあごにあてて、にっこり断言する。
「う~ん……天然のふりした腹黒タラシ?」
「エリザ~。それはないわぁ~」
「あら、ホントの事でしょ?人の良さそうな顔して、本命いるけどいい?って逃げ打ちながら頂いちゃうんだから。」
「いつそんな…」
「ブレインのユリアちゃん…だっけ?あと…医療班のエミリーちゃん?他には…」
「うあ~なんで自分そんなん知っとるん?」
「そりゃあ、あんたが本命いるなんて大ウソつくくせに相手の名前言わなくて、すっかりその本命とやらと間違われてるから?」

「……すんません」
しゅんと頭を下げるアントーニョ。

「まったくよっ!」
とエリザはピンっ!とその下げられたアントーニョの額にデコピンする。

「せやけど、そうでも言わへんと諦めてくれへんのやもん。」
「なら頂くだけ頂くその癖もなんとかしなさいよ」
「いや、それでもええって言うから…」
「最低ねっ!」

「でもほんまに本命作ったら浮気はせえへんで?」
と、アントーニョはまた窓の外に視線を移した。

「だ~か~ら~!ああいう純真そうな子達は間違ってもやめときなさいねっ!可哀想だからっ!」
「まだなんも言うてへんやん」
「目が言ってるっ!」
「そんなアホな…」

そんな話をしているうちに、少女達は連れだって建物内へと入って見えなくなってしまった。
「あ~…行ってもうた~。せっかく目の保養やったのに…」
と言うアントーニョに、エリザは小さく肩をすくめて、
「じゃ、休憩は十分したところで、鍛錬につきあいなさいよ」
と、自分よりも背の高いアントーニョの首根っこをつかむと訓練室までずるずると引きずって行った。

柔軟、屈伸、腕立てを一通りこなすと、
「じゃ、そう言う事で組手と剣術と棒術どれがいい?」
と、エリザは腕を回しながら言う。

「ん~、今日は剣の気分やなぁ…。」
アントーニョが答えると、エリザは練習用の剣を放り投げてきた。

お互いしばらくは無言で打ち合う。
二人は本部では同期で古株。
同じ攻撃特化系ジャスティスという事もあって、お互いが本気を出せるのは唯一お互いだけだ。
ゆえに本気で訓練したい時は大抵お互いに声をかけるし、ベテランと言う事もあって、ジャスティス内の諸々についても二人で相談して進める事が多いので、必然的に一緒の時間は増える。
だからこそ、アントーニョの本命と言うとエリザ、その逆もそう思われるのだが、実は双方とも異性としての情は持っていない。
信頼できる…唯一背中をまかせられる戦友…それがアントーニョとエリザの関係だ。

「ねえ…トーニョ、あんた今回の大丈夫?」
だからこそエリザは相方に確認を取りたかったようだ。
しばらく打ち合って小休止に水分補給をしながら、エリザは口を開いた。

「あ~…それかぁ…」
エリザが言わんとしている事は当然わかる。
「おっちゃんにも散々言われたんやけどなぁ…」
ガシガシとアントーニョは頭をかいた。

正直自分でも漠然としている気持ちを説明するのは面倒くさい。
しかし自分が崩れれば当然全部をかぶる事になるエリザの心配ももっともなので、アントーニョは少し考え込んだ。

「正直会うて見ぃひんことにはわからんのやけどな、今の時点ではそれほど感情的にどうって事はないんや。弟の…カルロスの事が全く気にならんて言うたら嘘なんやけどな、当のカルロス自身が例のジャスティスの事めっちゃ気にいっとって、命を落とす事になるのも本望みたいに思っとったみたいやから…。憎い言うより、あいつがそんなに気にいっとった奴ってどんな奴なんやろなぁって言う気持ちの方が正直強いわ。」

「そう…じゃ、大丈夫ね?」
「絶対とは言えへんけどな」
「それは皆同じ。知らない相手なんだから。」
エリザは少しホッとしたように笑みを浮かべる。

「新人以外の…他所で活動してたジャスティスが合流するのって初めてだからね…。やり方とかも違うでしょうし、最初はどちらにしても混乱すると思うわ。」
「そうやろなぁ…」
「特に本部は魔術系のジャスティスがいなかったから扱いがね…わからないし」
「あ~そうか…」

アントーニョが自分の事で色々迷っていた間に、相方は随分と全体の事を色々考えていたらしい。

「まあ…どういう組み合わせで現場送られるかわからないからね。もめないように調整したいとこなんだけど、そこで本来調整役のあんたに崩れられるとすごく嫌だから…。」
「あ~、その辺は大丈夫やで。仕事に私情持ち込むほどには青くないわ。さすがに」
アントーニョが苦笑すると、エリザも、ならいいけど、と、その話は切り上げた。
そのまま夕方まで鍛錬を続け、お互い夜の歓迎会に備えて部屋に戻る。

その後アントーニョはシャワーを浴びて軽く食事を取ると、軽装にしようと朝に用意していた服を前に少し悩んで、結局タキシードでドレスアップする。
あまり堅苦しい感じもどうかと思うので、タイはアスコットタイ、襟元にはユリの紋章のスワロフスキーのラベルピンをつけてみた。

(別に…下心とかやないで?話するくらいええやんな…)

と、心の中でエリザに言い訳をしながら……。


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