青い大地の果てにあるもの2章_2

「トーニョっ!今日はどうしたの?」
「オシャレして、お目当ての子でもいるの?」
「ね、私と踊りましょっ♪」

滅多にしないドレスアップに思いのほか時間がかかって歓迎会の開始時間ぎりぎりに広間に滑り込むと、待ち構えていたようにブレインや医療班の女性陣に囲まれる。

ジャスティスという選ばれた人材な上、人当たりもよく、鍛え上げられて程よく筋肉のついた褐色の体躯に甘いマスク。
女性陣の気を惹く要素は有り余るほどあり、本人もそれは自覚していて、その時々で適度に割り切った大人のおつきあいもしていた。
周りもそれがわかってて割り切ったお付き合いを求めて寄ってきて、その日限りの関係を築くのが常なのだが、今日は違った。

「オ~ラ、今日もべっぴんさんやね」
と、女性陣の頬や指先に軽くキスを落としながらも、アントーニョの目はせわしなく会場内を見渡して
「今日はちょお先約があるねん。堪忍な~」
と、人の群れをかき分けて行く。

おらへんなぁ…と、あちこちに目をやりながら、アントーニョは首をかしげた。
すでに乾杯の時間になって、ブレイン本部長ローマの音頭で乾杯をする。
一応グラスを手にしてカチンカチンとグラスを合わせながらも、アントーニョは広間中を探しまわった。

あ…おった!!
ふとバルコニーの方に目を向けた時にそちらの方へと走り去る白い影を見つけて、アントーニョは急いで人込みをかき分ける。

ふわふわと跳ねた金色の髪に猫のようなやや釣り目がちな大きく丸い目。
ともすれば整い過ぎていてきつい印象を与えるが、その人形のような容貌に不似合いな太い眉のアンバランスさが、そんな近寄りがたさを緩和して愛嬌を醸し出していた。

白い影はスルリスルリと器用に人込みを猫のように優雅にすり抜け、バルコニーの向こうへと消えて行く。

絶対に捕まえたるで~、子猫ちゃんっ。

届きそうで届かないその距離に焦れながらも、追いかけるのはどこか楽しい。
不器用にぶつかりながら追いかけるアントーニョがようやくバルコニーにたどりついた時には、白い影はどうやってか2階にあるこのバルコニーから下に降りていて、軽やかな足取りで中庭の方へと消えて行く。

逃がさへんわっ。

攻撃特化のジャスティス特有の跳躍力でバルコニーの柵を乗り越えた勢いで1階の地面に着地すると、アントーニョは白い影を追って中庭方面へ。

ほとんど本当に猫でも追いかけている気になってきて、逃げられないようにと気配を消して進むうち、アントーニョは前方から異様な殺気を感じとって、足をとめた。

生い茂った木々の向こう、少し開けた中庭の噴水の淵に立ちすくむ先ほどの白い影。
その周りをグルリと屈強な男達が囲んでいる。

全部で10名はいるだろうか…その男達は全員殺気立った目を眼前の子供に向けていた。
あれ…素人ちゃうやん。…見覚えあらへんから……極東のフリーダムあたりか?
男達の物腰にそうあたりをつけて、
「自分ら、子供相手に何しとるん?!」
と、アントーニョはその前に飛び出した。

男達の視線が一斉にこちらを向けられる。
「あ…本部の…」
と誰かがつぶやくと、ざわめきと戸惑いが広がって殺気が薄れた。

その瞬間

「闇に輝く退魔の光。モディフィケーション」
と、少女にしては低く少年にしては高い澄んだ声が響くと、薄闇に薄緑の光が宿る。
「水の精霊ウンディーネ、風の乙女シルフィー、人の子にしばしの拘束を!」
そう言って緑の光で形作られたロッドを振り上げると、ロッドの先についたペリドットの宝玉から、キラキラとかすかに青みがかった透明な光がサ~っと波のようにアントーニョと男達の足元へと広がった。

キラキラと月明かりに反射する光と、それを繰り出した子供の幻想的な美しさに、アントーニョはしばし見惚れていたが、
「しまったっ!!」
と舌打ちをする男達の声でハッと我に返った。

「自分…ジャスティスやったんか…」
手にしたロッドをペンダントに戻して立ち去りかける子供に声をかけると、子供は一瞬足を止め、ペンダントと同じペリドットの瞳をアントーニョに向けた。

そして
「ばぁ~か!」
と、一言。
クスリといたずらっぽい笑みをこぼして、また、軽やかに走り去って行った。

「あ、待ったって!」
と追いかけようとしたアントーニョは、そこで初めて自分の足元が凍っていて動かない事に気づく。
そして盛大に舌打ちをすると、攻撃特化のジャスティスの怪力のまま力任せに足元を凍りつかせている氷をかちわるが、その時には子供はすでにどこへともなく消え去ったあとだった。

「なんやあれ…めっちゃ可愛ええやん…」

次に会うた時には追って追い詰めて絶対に手に入れたるっ…。
アントーニョの身体に流れる情熱のラテンの血が燃えあがった瞬間だった。



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