オンラインゲーム殺人事件_葵_8章

なりすましメール(10日目)


謎が謎を呼んでいて犯人はまだ捕まってないわけなんだけど、その日はゴッドセイバーが殺されて以来、久々によく眠れて、すっきり目を覚ました。



ユートとの会話でどうやらコウに丸投げしておけば守ってもらえるっぽい事がわかったし、昨日ログアウトしちゃったメグにメルアドの一件を聞けば、なんとなく犯人が割れるのかな~なんてちょっと光が見えてきた気がした。

そんな状況を彩るように晴れやかな良い天気だし♪

そいえばここ数日まるで引きこもりみたいにカーテン閉め切った部屋に引きこもってたから、久々に買い物でも行こうかな~♪
せっかく10万も臨時収入はいったんだし、美味しいものでも食べて、服でもみよっか…

でも学校の友達はアヤは休みいっぱいバイトいれてるし、エリは豪華にヨーロッパ旅行中なんだよな~。

こんな時に彼氏でもいれば……

デートなら…コウよりユートかなぁ。
買い物でもなんでもつきあってくれそう。服とかも一緒に選んでくれそうだし♪
でもコウなら変な奴きても毅然とした態度でおっぱらってくれそうだよねっ。
道とか歩く時でも女の子に車道側歩かせたりとか絶対にしなさそう。

……って、何考えてんだろ、私///
ちょっと我に返って恥ずかしくなったけど、それでも想像が止まらない。

彼女…いるのかな、二人とも。
私みたいに自分のイメージに合わせてキャラ作ってるなら見かけは10人並み以上どころかかなりカッコいい。
性格は男らしいコウと優しいユート、どちらもそれなりにモテそうだ。

そんな馬鹿な想像に没頭してたら、いきなりメールの着信音。
例のフリーメールのメルアドにメールが届いてる。

フロウちゃんのメルアドからだっ♪

『おはようございます♪
なんだか色々怖い事ばかり起こって大変な時ですけど、お天気も良い事ですし気晴らしに一緒にお買い物しませんか?
ご都合がよろしければ11時頃吉祥寺の駅ビルLonLon内2階の切符売り場のあたりで○○という雑誌を持ってお待ちしてますので、いらして下さい♪
やっぱり怖いので念のため人通りが多い所で人が多い場所を選択してみましたっ。
これから外に出ちゃうので、携帯のメルアドの方に連絡お願いします♪
私の携帯ネットつなげなくてPCのメルアド見られないのでっ(>_<)』

という事で携帯メールのメルアドが添えられている。

フロウちゃんもあれかな、やっぱりちょっと事態が落ち着きかけて周りの子のリアルとか想像してみたクチかなっ。

私はすぐ自分の目印を添えて了承のメールをフロウちゃんの携帯に送った。

楽しみだな~♪どんな子なんだろうフロウちゃん♪
キャラのままのイメージだと…サラサラの黒髪ロングヘアの小柄な女の子。
すごぃ可愛い感じだよねぇ…

そんな彼女と並んであまりに自分が可愛くない引き立て役だとちょっとやかも。
楽しみなんだけど、ちょっと心配。

ブス…ではないんだけどなぁ…
せいぜい10人並かぁ…
鏡の中の自分とにらめっこしながら服を選ぶ。

ああでもないこうでもないと取っ替え引っ替えしてるとあっという間に時間が過ぎて、結局ロクに化粧もしないまま家を飛び出す事になった。

吉祥寺まで電車で一本。
時間は……11時ジャスト!ギリギリセーフ!
フロウちゃんらしき子は……まだ来てない、かな。
11時"頃"って言ってたもんね。

………
11時半…遅いなぁ…何かあったのかな……
時期が時期だし少し心配になって教えてもらった携帯のメルアドにメールを入れようとした瞬間、メールの着信音が鳴った。
フロウちゃんからだ。

『ごめんなさいっ(>_<)
急に貧血起こして倒れちゃって、連絡遅れちゃいましたっ。
ちょっとさすがに行けそうにないので、ホントにドタキャンで申し訳ないんですけど、今日キャンセルさせて下さいっ』

うあああ…
即了承の旨を伝えるメールを返す。

このところの騒ぎでフロウちゃんも体調崩しちゃってたのかなぁ…。
たいした事ないと良いけど…。

なんとなく…ぶらつく気分でもなくなっちゃって、そのまま家へ直帰して、また引きこもりもどき。

残念だけど…しかたないよね。
でもまた機会があれば今度こそ会ってみたいな~。
ゲームが終わった後なら安全になるし、コウやユートも一緒に同窓会みたいな感じで♪

もうほとんど習慣で意味もなくテレビをつけると、ニュースでまた高校生殺人事件が…
被害者は…赤坂めぐみ…めぐみ…メグ…???
まさか…ね…
考えてもどうしようもない…てか、考えたくない…考えるのよそう。

ブチっとテレビの電源を切る。

朝はあんなに爽やかで楽しい気分だったのに、また鬱々とした嫌な気分に………
あ~なんか楽しい事ないかなぁ…

まあ…それでも昨日ほどの恐怖心はない。
コウに任せておけばなんとかしてくれるんだよね、きっと。

ホントに無意味に貴重な高校の夏休みを浪費してるとは思うんだけどダラダラと雑誌をめくったりとかしながら私は夜を待った。

そして8時。
もう習慣通りにゲームにログインする。
今日は私がのんびりしてたせいか、コウとユートだけじゃなく、フロウちゃんももうインしてた。
貧血…大丈夫なのかな?
『ちわ~(^^』
『よぉ!』
『ごきげんよう(^-^』

コウに誘われてパーティに加わると3人がそれぞれ挨拶をしてくる。

『こんちゃっ(^o^)ノ』

それに挨拶を返したあと、私はちょっと気になってフロウちゃんに声をかけた。
『フロウちゃん、身体もう大丈夫なの?無理しないで休んでた方が良くない?』
私の言葉にコウが振り返った。
『どこか悪いのか?なら無理するなよ。ログアウトして早く寝とけ。
レベル開くの嫌なら今日はレベル上げ行かないで金策でもしながら待ってるから。』
『そうだよ、先は長いんだしね。無理しないで?
まあ…それでも色々あったし不安だったりとかして一人嫌なら、街でまったりおしゃべりでもしてようか(^^』

ユートも言うが、フロウちゃんはハテナマークを振りまきながら私達3人の周りをクルクル回った。

『えっとぉ…私どこも悪くないんですけど……』
『え?だって今日貧血起こして倒れたって………』
『…?…なんの話です???』
あ…もしかして…そうだよね、リアルで会おうなんて話してた事バレたらコウが大激怒だよね…。

私は納得して今度はウィスをフロウちゃんに送った。
『ごめんね、リアルで会う約束してたなんてコウに知れたら大激怒だよね…。
でもホントもう大丈夫なの?』
私のウィスに目を通したのかクルクル回ってたフロウちゃんがピタっと止まった。
『あのぉ……リアルでって??』
『え?メールくれたじゃない?今朝一緒に買い物をって』
『ええ??私がです??送ってませんよぉ??』
『え?だってフロウちゃんのメルアドからメールきたよ?』
『えええ???私ホントにぜんっぜん覚えがないんですけど…』

どうなってんの???
いきなり無言になる私とフロウちゃん。
もう裏でウィスしてるのは見え見えなわけで…

『お前ら!裏で話進めるなっ!』
と、コウがキレた。

ピョンと一歩とびのくフロウちゃん。
その反応にコウが語尾を和らげた。

『悪い…怒ってるわけじゃなくて…。
女同士の方が話しやすいのはわかるけど、体調悪いとか隠されると心配になるだろ…。
なんかあるなら言ってくれ。時間調整とかして無理させないようにしたいから。』

すると今度はフロウちゃんとコウがいきなり無言……
ウィス中な予感。

そして数分後…
『アオイ、お前なぁ!』
いきなり怒鳴りかけるコウの言葉に、フロウちゃんが
『コウさん…怒らないってお約束したのに……』
とかぶせる。
それで一瞬沈黙するコウ。
そこで3人の中で唯一蚊帳の外でも我慢強く待っていたユートが、
『えっと…俺だけ何にもわかってないっぽいんで、説明してもらえると
嬉しいかなぁ…なんて思ったりとか…(^^;』
と、遠慮がちに口をはさんだ。

ため息をつくコウ。
『今朝…な、アオイんとこに姫のメルアドから一緒に買い物しようってメールが届いたらしい。』
『あらら…好奇心が勝っちゃった訳ね(^^;』
というユートにコウはまたため息をついた。
『それですめば良かったんだがな……』
『何か問題でも?』
『大問題だ。姫はそのメールを送ってない。』
『どういう事??』
私とユートが同時に聞く。
『たぶん…なりすましメールだ』
『なりすましメール??』
私は聞き慣れない言葉に首をかしげた。

『えとな…最近詐欺とかでよく使われるんだけどな…他の人間のメルアドでメールを送れる方法があるんだ。
例えば…実際は俺が送ったのに、送られた側の方にはユートのメルアドから送られたように表示されるみたいな感じだな。
本当のユートのメールを使ったわけじゃなくてあくまで偽装だから、ユートの側のメールには送信履歴とかも残らない。』

『え~っと…つまり…』
そこで一旦言葉を切るコウをうながすユート。
『今回で言えば…誰かわからない第三者が姫のアドレスを使って姫になりすましてアオイにメールを送ったってことだ。
で、そこで問題だ。
二人とも今回のためにメルアドを”新しく取った”という事は…二人のメルアドを知ってるのは今回メルアド交換をしたこのゲームの参加者だけって事だ。
いいか?このゲームの参加者だけって事なんだぞ?!
ここまで言えば…いくらなんでも何を言いたいのかわかるな?』

う…あああああっ!!!!!
全身が総毛立った。
今日…犯人があの場にいたってこと???
すぐ側に??!!!
こ…殺されないで良かったぁぁ………。
それでもマウスを握る手がカタカタ震えてる。

『またなりすましが発生する可能性は充分あるからこれからは仲間3人にメール送る時、合い言葉というか本人同士しかわからない暗号みたいなものをいれる事にするぞ。
例えば…文章の3行目の終わりに必ず@いれるとか…そういうのをそれぞれ特定の相手ごとに作る。
だから…一人につき3種類な。
お互いしか知らなければ、誰かが暗号もらしてもあとの二人に被害が及ばないからな。』

コウ…相変わらず頭いいってか、冴えてるなぁ…
なんてのん気に感心してたら、話はそこで終わらなかった。

いきなりまた核心をつかれる。

『じゃ、成り済まし対策はこれで良いとして…終了っ。
んで、アオイ…あれほど注意したんだから、よもやお前それでノコノコでかけて行ったりはしてないよな?』

………コウの視線が痛い……

『あ…あの、さ…、一応人通りの多い時間に人通りの多い場所だったから……
人目いっぱいだったから…殺されないで良かったなって事で……あはは…
…次からは気をつけます……』
『行ったのかっ!この馬鹿野郎っ!!!』
怒声は覚悟してたものの、やっぱり怖いっ。
『ごめんなさいっ!』
と言ってリアルでビクっと肩をすくめた私に、コウは沈黙した。

しばらく無言。

もっと矢継ぎ早に罵られると思ってたから少し拍子抜けしたものの、あまりに続く沈黙にちょっと不安になってくる。
言う事聞かなかったから…見捨てられた…のかな…。

『アオイ、確認』
『はいっ』

思い切って声かけようかと思った時に、コウの方から口を開いてきた。

『今ちゃんと窓の鍵かかってるな?自宅のドアの鍵も。あと窓のカーテン開いてたら閉めろ。』
『らじゃっ!』
言ってあわてて確認しにいく。

『大丈夫だったっ』
というと、コウは、
『よしっ』
と短くうなづいたあと続けた。
『携帯は常に充電して、手元においておけ。何かあったらすぐ110番できるようにな。
あと…持ってなければ早急に防犯ベル買って来い。
買いに行く際に人通りない所通るようなら、家族なり友人なりについて行ってもらうか、それが無理ならタクシー使え。命には変えられんだろ。』

『てか…当分家からでない様にするから…』
もうそれこそ命には変えられないんでそう言う私に、コウはまた今日何度目かのため息をついた。

『お前…全然わかってないだろ…』
『え?』
『今回な、犯人がなんで状況的に殺せないのにわざわざお前を呼び出したと思う?』
え~っと………
『犯人の目的は今日呼び出した場所でお前を殺す事じゃない。
待ち合わせ場所にきたお前の後を尾行してお前の身元や家を確認して、確実に殺せる時を伺いたかったんだ。』

……う……そ……
顔面蒼白になる私に、コウがとどめをさす。

『要は……家にいても安全じゃない。
お前には安全地帯がなくなったってことだ』

リアルで悲鳴をあげそうになって、時間を考えてあわてて飲み込んだ。
恐怖のあまり目からボロボロ涙がこぼれる。
ガタガタ震えながら思わず周りを見回した。
こうしてる間にもすぐ後ろに犯人が隠れてるような錯覚に襲われ目眩がしてくる。

どうしよう…どうしよう…どうしよう!!
パパやママの所へかけこもうか、と一瞬思ったが、部屋のドアを開けるのが怖い。

すでに犯人が家の中に入り込んでて、パパとママも刺されてて家中が血の海だったらどうしよう……。

『とりあえずレベル上げ行くか…』
…へ?
パニックで目の前がクルクル回ってる私。
こんな状況であまりにあっさり言うコウを信じられない目で見る。

『コウさんっそんな場合じゃっ(>_<)』
普段はおっとりぽわわんなフロウちゃんもさすがに言葉のでない私の代わりに言ってくれた。

それに対してコウは至極冷静に言う。
『注意すべき点は注意したし、今はこれ以上何もできないだろ。
あとできる事といったら、少しでも早くこのゲームクリアするくらいじゃないか?』

いや…そうなんだけど……

とてもじゃないけどそんな冷静に考えられないよ…。
こんなんでレベル上げなんて絶対に無理っ!
『ごめん、コウ、姫を連れて先行っててくれる?10分ほどしたらすぐ後追うから』
スタスタと歩き出すコウの後ろ姿にユートが声をかける。

『わかった。海岸の入り口あたりに行ってるな。そこまでならアオイと二人でもこれるだろ?』
と言うコウに手を振って、ユートは
(少し話があるんだけど、いい?)
と私にウィスを送ってきた。
私はうなづいて、噴水の端に腰をかけるユートの隣に座る。

(リアルのさ、アオイの連絡先、聞いちゃだめかな?)
唐突にユートが切り出した。
(まあ俺も普通の高校生だからさ…守りきれるとか言えないんだけど駆けつけるだけは駆けつけられるからさ…)

今朝までだったら二つ返事で教えてたかも知れない…
でも今は…正直何を信じて何に気をつければいいのかわかんない…
返事のできない私に、ユートはいつもみたいにおっとり微笑んだ。

(…っていっても怖いよね、こんな事ばかりあると。)
(…ごめんねっ…ユートの事信じてないわけじゃないんだけど…今どうしていいかホントにわかんなくて…)
正直な所を打ち明けると、ユートは首を横に振った。

(怖くて当たり前。俺だって怖いからさ、アオイ女の子だしね。
だからさ、とりあえず俺の携帯教えるね、良かったら今かけて見て。
番号の前に184ってつけてから番号いれると、俺の側にはアオイの番号が表示されない非通知設定になるから。
アオイが怖くて嫌だと思ったら、今後かけなければいい。
俺にはアオイの番号わからないまま終わるから大丈夫)

なんか…それだと私すごいずるい気するんだけど……
でも現状のあまりの怖さに、心が折れた。

184と入れた後に、教えられた番号を打ち込む。
プルルル~という呼び出し音がなったあと

「もしもし、アオイ?」

と、初めて聞く男の子の声がした。
ユート……なんだ。

「アオイ?大丈夫?」

言葉のでない私を心配するような、柔らかい声。

「うん…ごめんね、迷惑かけて」
嗚咽が漏れる。
「大丈夫、全然大丈夫だからね。」
優しい声。
……ユートだ。

「怖くなったらいつでもかけていいから。だから一人で抱え込まない様にね」
「……うん…」
「まあ…怖くなくても退屈な時とかにイタ電かけてくれてもいいけどね」
ちょっと笑いを含んだ声。
緊張をほぐそうとしてくれてる。
ユートらしいな…。

「どうする?良ければ今日はこのまま話しながらレベル上げやる?
俺はどっちでもいいけど。アオイがしたいようにして?」
「このままにしてて…いい?」
「うん、そうしよっか。アオイの電話代が大変そうだけどね。
いつかこのゲームが終わって安全になってみんなちゃんと会える状況になったら半分渡すからね。
請求書書いといて」
冗談めかして言うユートの言葉にちょっと笑った。
電話の向こうのユートも少し笑ってる。

「少し…落ち着いたかな?ねえアオイ、提案なんだけど…」
ちょっとの間の後、ユートが言った。
「うん?」
「プリペイド携帯って知ってる?」
「ううん。知らない。」
私が答えると、ユートが説明してくれた。
「コンビニとかで買える通話料をプリペイドカードで払える携帯電話っていうのがあるんだ。
今回犯人がアオイに教えたメルアドもそういう携帯のアドレスだと思うんだけどね。
一応契約時に名前とか書かされるけど引き落とし口座とか要らないから本名じゃなくてもわかんないのね。
嫌になってポイしたらもう足もつかない。それ買わない?
そういうのなら身元もばれる事ないから番号教えられるでしょ?
このままじゃ今日は仕方ないとしてもアオイの電話代がマジすごい事になっちゃうから」

………ユート、優しいなぁ。
私の都合なのにそこまで心配してくれるんだ。
「ううん、そこまでしないでもいいよ。一応ミッションクリアした時のお金あるし、これからもクリアごとに入ってくるから。でも私の番号は教えるね。」
ユートならいい、ユートなら大丈夫、そう思って私は言った。

それでもユートはちょっと心配そうに
「無理しないで良いよ?」
と言ってくれるけど
「ううん、無理してない。私が教えたいの。」
と、私はユートに携帯の番号を教えた。

それからユートがかけなおしてくれて、『こんなのコウにバレたら大目玉だね』
とか笑い合いながら先に行ったコウとフロウちゃんを追いかけた。
楽しい…。
こんなに危ない状況でこんなに怖くて不安なのに、私はそれでも自分がまだ笑える事にびっくりした。




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