オンラインゲーム殺人事件_葵_9章

ミッション(10日目)


私達が海岸につくと、フロウちゃんが一人で釣りをしていた。
そそ、このゲームではなんと釣りもできる。
釣った物は雑貨屋さんでそのまま売ってもいいし、解体屋さんに持って行くと有料だけど解体してくれて、鱗やら魚肉やら牙やらにしてくれる。
それをまた雑貨屋さんで売ってもいいし、合成屋さんで何かに合成してもらえる事もある。



『フロウちゃん、コウは?』
私達が来た事にも気付かず一心不乱に釣りにいそしんでたフロウちゃんは、私達に背を向けたまま
『ん~~わかんないです~』
と答えた。
まあ…フロウちゃんから有力な情報を引き出そうなんて無謀な事考えちゃいけない。
私は
『そっか…』
と流して、そのまま砂浜に腰を下ろした。ユートもそれに続く。

しばらくフロウちゃんは釣りをしてたんだけど、数分後ピタっと動きを止めた。
『フロウちゃん…どうしたの?』
『餌…なくなっちゃいました…』
不審に思って聞いた私に答えるフロウちゃん。
『んじゃ、こっちきて座ったら?』
と言うと、フルフル首を横に振った。
『コウさんが…ここから一歩も動いちゃだめだっておっしゃったので…』
『………』

たぶん…放置すると毎回迷子になった挙げ句とんでもない行動に走るフロウちゃんのこと、遠くに行くなじゃコウも安心できなかったんだろうな。
釣り竿をかまえたまま棒立ちするフロウちゃんに、ユートが苦笑する。

『えと…ね、俺ら姫から3歩後ろくらいに座ってるだけだから、そのくらいは無問題だと思うよ』
『でも…それだと3歩も動いちゃうのでっ(>_<)』
言ってフロウちゃんは断固としてそのまま立ち続けた。

『ま…いっか。』
実際に立ってるわけでもないから疲れるとかいうこともないし、放置決定。
そのままコウを待ち続けた。

『そう言えば…』
餌がなくなって退屈になったんだろう。
フロウちゃんがいつものようにおしゃべりを始めた。
『ふざけるって動作…』
『はい?』
『結局わからなかったんですよね……』
『はいぃ??』
フロウちゃんの言葉をまともに聞いちゃ駄目だって…。
私はスルーしてたけど、人の良いユートはまともに聞いて首をかしげてる。

『コウさんに聞いたらそんなのないって言うから、今日アオイちゃん待ってる間にイヴちゃんに聞いてみたんですよぉ…そしたら何の事?って言われちゃいました…しょぼ~んです(._.)』
ああ~~~、あれかっ!
イヴちゃんの名前がでたところで、私はようやく思い出した。

以前イヴちゃんがコウ引き抜こうと私達に嫌がらせウィス送って来たときの事だね。
ウィスって機能を知らなかったフロウちゃんが、ウィスに対して通常会話で返事をしてたんでこっそり嫌み言ってた事がバレバレでイヴちゃんすごく焦ってたっけ…。
懐かしいなぁ…。

そういえば…ショウが殺された日を境に、イヴちゃんはガラっと人が変わった。
きつい女王様だったのが、か弱い姫に大変身。
確かに色々あったしねぇ。一緒にいるアゾットの影響もあるのかなぁ…。
とにかくホントにこれがあのイヴちゃんと同一人物?って疑ってみたくなるくらい一日で180度性格がかわったよ。

そんな事を考えつつ数分後…ふと気配を感じて振り向くと、ベレー帽をかぶった男の子がチラリと視界に入る。
背中には大きな弓。これは…ヨイチ?!
『ね、あれヨイチじゃない?!!』
私は海岸を見下ろす木陰からこちらを見ている人影を指差してユートに声をかけた。
『え?マジっ?!』
しかしユートの視界に移る前にサッと消えるヨイチ…。
『あ…いっちゃった…』
私が言うと、
『見損ねた~』
とユートはがっくり肩を落とす。
ほとんど珍しい野生動物みたいノリだな~。

そんなこんなで30分ほど待ってると、後ろからコウの声がした。
『姫…餌きれてないか?』
『はい、きれちゃいました~;;』
『で?餌つけずに釣り竿持って何してるんだ?アオイ達と座ってればいいのに』
『だって…それだと3歩も歩いちゃうのでっ。コウさん一歩も動くなっておっしゃってたから』
『………』

………

『……悪かった』

しばらく沈黙した後、謝罪するコウ。
なんというか…いつもこういうパターンな気が…。
私とユートは電話口で吹き出した。

『ね、絶対コウってフロウちゃんに勝てないよねっ』
『うんうん、いつもこのパターンだよなっ』

私達が携帯でそんな会話を交わしてる間に、ようやく後ろを振り返ったフロウちゃんが小首をかしげた。
『コウさん……ボロボロ?』
『ああ、回復してくれ。状態回復も頼む。』
HPゲージが真っ赤なコウにフロウちゃんがピュルルンと回復魔法をかけてMP回復のために座る。
そしてフロウちゃんのMPが満タンになると、コウは
『行くぞ』
と、先に立って歩き始めた。

『どこ行くんですか?』
ピョコンと立ち上がると、トテトテとコウの真後ろの自分の定位置にかけよるフロウちゃん。
コウは一瞬止まって私達3人がちゃんと付いて来てる事を確認すると、
『魔王の所。今ちょっと行って来てみた。』
と言ってまた歩き始める。

「コウでも…冗談言うんだね…」
「まあでも…あんまセンスあるとは言えないのがミソだけど…」

携帯でやっぱりボソボソ話すユートと私。
しかし…そこでお約束。フロウちゃんが目を輝かせる。

『魔王の所?もしかして魔王に会ったんですか?どんな感じなんですか?』
『えっとな…緑のタコ』
もう…やめといた方が……

普通…この言葉でいい加減嘘だと気付くはずなんだけど…フロウちゃんをそんじょそこらの凡人と一緒にしちゃいけない。

『緑のタコなんですか?確かに海で出るタコって茶色ですもんねっ。きっとタコの王様なんですねっ。
でも緑のタコなんて面白いですよねっ、とっても楽しみです♪o(^-^)o』

本気で楽しみにされてますが?
ええ、フロウちゃんがとぼけてるわけでも冗談言ってるわけでもないのは、いい加減全員がわかってますよ…

『……………悪かった…冗談だ』
『ええ?!嘘だったんですか~。……すっごくすっごくすっご~~く期待してたのにぃ;;』

いや…普通嘘だって気付くし…。最後の魔王がタコってありえんでしょ。
光の神が天使みたいなのにそれに対するのが緑のタコなわけが………

『タコ見たいなら…その辺から引っ張ってくるか?』
歩く足を止めずに横の海を指さすコウに
『緑じゃないと駄目ですっ;;』
と、きっぱり断言するフロウちゃん。
『緑のタコさん……楽しみにしてたのに………』
『………悪かった…』
『……会ってみたかったのに……』
『………』
ため息一つ。
『とりあえず……ないものは無理だから、この後3人でミッションクリアの報告してる間にこの前欲しいって言ってたエンジェルウィング取って来てやるから。それで許せ』
『エンジェルウィングですかっ♪あれとっても可愛いんですよね♪』
とたんに機嫌がなおるフロウちゃん。

「なんかさ…現実社会の縮図?」
「っていうか…コウっていつも自爆してるよね…」
裏で苦笑するユートと私。
「でもさ聖堂の奥行く自信あるってとこがコウってすごいよな」
ユートが感嘆のため息と共につぶやく。

ちなみにエンジェルウィングっていうのは文字通り天使の羽根の形の髪飾り。
お城のお姫様がつけている、女の子なら垂涎のオシャレ装備。
イヴちゃんとかも欲しがってて、ショウやゴッドセイバーをせっついてた。
まあ…取れなかったわけなんだけどね。

街の教会の奥から行ける聖堂の奥で取れるんだけど…辿り着くのに失敗するとレベルが1下がっちゃうんだ。
ちなみに…レベル3からチャレンジ可能。
もちろん…辿り着くまでにはすごぃ難関が…

最初のフロアの床は一定の間隔であちこちに落とし穴ができる。
いったんピカっとタイルが光って次の瞬間穴があくから、すごく反射神経良ければ超えられなくはないんだけど、その後が無理。

落とし穴のフロア抜けた後のドアに、ここの主催ってホントは教育委員会の回し者?って疑いたくなるような仕掛けがあるんだ。

高校レベルの試験問題20問中19問正解しないとドアが開かない。もちろん時間制限あり。
高校生ばかりを集めたのってそのため?それだけのため??
反射神経がめちゃ良いだけじゃなくて頭も超良くないと取れない。
だからイヴちゃんの従者二人が失敗して諦めて以来、チャレンジした人いないっぽい。

ま、それはおいておいてだ、
『ね、ミッション報告って?もしかしてこれから行くの?』
『ん。ミッション3な。とりあえず中ボス倒すだけだからものの5分で終わる。
俺は以前お前ら待ってる間にレベル16ソロで倒せたから馬鹿な真似しなきゃいけるだろ』

コウは…基本的にミッションはいつもソロで行ってる。
それは私達を待ってる時間だったり、私達3人が金策してる時間だったり色々なんだけど、ソロでいる時はいつもミッション。
で、自分がまず下見して情報とか実際の強さとか試してみて、だいたいの事がわかってから私達を連れて行ってくれる。
たぶん…今ズタボロだったのはミッション4の下見。

『ミッション4はどうだったん?』
同じ事を考えてたらしいユートが前を歩くコウに声をかけた。

『ん~、少なくともソロ無理。というか…プリーストいないと絶対に無理だな。レベル高くても無理。
2体…なのは良いにしても状態異常すごすぎてな…逃げ戻った。
状態異常の種類は毒と暗闇。毒はHP尽きるまでになんとかすればいいとしても暗闇がやばい。
今俺22だけど戻る道々にいたレベル5の敵とかにすら攻撃が全く当たらなくなったぞ。
いくらなんでもバランス悪すぎだ。あっちの攻撃も当たらないからなんとか逃げ切ったが、もうちょっと敵とのレベル差少なければ格下の敵に余裕で殺されてる』

『うあ…すごいね(^^;』
『ん…だからミッション3終わって報告終わったら即ミッション4の依頼受けて来い。みんなで行くぞ。』

私達はそれから軽く、コウに倒すの手伝ってもらったから本当に軽々とミッション3の中ボスを倒すと街に帰った。

『んじゃ、そう言う事でミッション3の報告終わったらそのままミッション4受けて門前集合な』
すでにミッション4受ける所まで終わってるコウは一人教会の方へ消えて行く。

ホントにあれやる気なのか……。
呆れつつもすでにミッション報告をしにお城に足をむけているユートとフロウちゃんを追いかけようと前を向いた時、少し前方の建物の影からまたチラリと大きな弓が目に入る。

まさか…ヨイチ?!
私はあわてて建物にかけよったが、弓が見えたあたりに目をやった時にはもう誰もいなかった…。
………今まで全く姿を見せなかったのに、なんでこのタイミングで?2回もって…偶然?
ゾクリと背筋が寒くなる。

「アオイ?どうしたの?まさか姫じゃあるまいし迷ってないよね?」
そんな事とは知らないユートが電話ごしに少し笑いを含んだ声で聞いて来た。
「ユート…あのね……」
私が説明すると、電話の向こうのユートから笑いが消える。
「でも…さ…」
それでもユートが口を開いた。
「逆説的に考えると、アクセスしてるって事はヨイチが犯人なんだったら今は安全って事だよね」
なるほど…そういう考え方もできるのね。
「ユートありがと。なんだかユートの言葉でちょっと気が楽になったよ」
私はユートにお礼を言うと、お城に急いだ。


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