オンラインゲーム殺人事件_葵_7章

第二の殺人(9日目)


日々楽しくない…ってか怖い。
真面目に怖いよっ。

とりあえず私はまだ生きている…。
でも怖くて怖くてたまらない、みんなに会いたい。



もちろん会うって言ったって実際に会ってる訳じゃなくてネット上でなわけでアクセス中に私に何か起こったって助けにきてもらえるわけじゃないんだけどね…。

昼間…何もしてないとすごく怖くて、頭に全然入ってこないんだけどテレビをぼ~っと見ている。

でも…考えてみれば可能性が高いってだけで、絶対ではないんだよね。
鈴木大輔君が殺された理由…リアルの何かの可能性もなくはないよね…。
そうだといいな……そうだといいのに……
そんなニュースやってないかな……

カタカタと震えながら藁をもつかむ気持ちでチャンネルをニュース番組に変える。
丁度お昼のニュースが始まった。
画面を凝視する私の期待とは裏腹に、別の高校生が誰かに殺されたみたいなニュースはあったけど、鈴木大輔君の事件の新しい情報は何もない。

不安を抱えたまま一日が過ぎていく。

夜…食事を終えて部屋に戻って時計を見るとようやく19時。
そこからはひたすらカチカチ動く時計の針を凝視して過ごした。
思わず叫びだしたくなるような不安。
みんなこんな時を過ごしてるのかな…。

40…50…55…59…0!
時計の秒針が12を指すと同時に震える手でゲームのアイコンをクリックする。

PCが画面を読み込む時間すらもどかしい。
早くこの押しつぶされそうな不安な時間から解放されたい。

読み込みが終わって画面が明るくなる。
始めてアクセスした時と変わらぬ光景が安堵の涙でにじんだ。

涙を拭うと目の前にはもうすっかり馴染んだヒョロッと背の高い男の子のキャラクタが笑顔を浮かべている。
『おはよっ!』
と、いつものように言ってパーティに誘ってくれるその態度になんだかホッとした。
続いてちょっとキツい顔立ちのベルセルクが姿を現し、いつものようにパーティーに加わる。
最後にきたのはふんわり癒し系のお姫様キャラ。
『ごきげんよう♪』
とパーティーに入る。
いつものメンバーが揃ってなんだかホッと一息つけた気がした。

『レベル上げいこっか』
音声じゃないし、あくまでディスプレイの中のキャラクタなんだけど、なんとなく柔らかい雰囲気を感じるユートの言葉。
『そうですねぇ。私、海岸行きたいです~♪』
やっぱりおっとりまったりした空気のにじみ出るフロウちゃんのキャラ。
そこでいつもなら、
『じゃ、行くぞ』
と先に立って歩き始めるコウが、今日は
『あ~…ちょっと今日は待ってくれ』
と、なんだかいつもと違って歯切れが悪い感じで言った。

なんていうか…少し厳しい表情してる気がする。
もちろんゲームの中のキャラクタがそこまでリアルな表現をするわけじゃなくてあくまで私の想像なんだけどね…。
そしてそう感じてたのは私だけじゃないらしい。

『コウ…?どした?』
ユートも聞いてくる。
『いや…悪いな、リアル事情で30分ほどキャラ放置するから。なんなら3人で先行っててくれ。』

……なんか…うそ…ついてる予感。
根拠はないけど女の直感っ。

『じゃ、ここでおしゃべりでもしてお待ちしてますねっ。みんな一緒の方が楽しいですし♪(^-^』
一人何も気付いてないぽいフロウちゃんがいつものニコニコマークでそう言ってさっさと噴水の端に腰をかけた。

その後欲しいおしゃれ装備や行ってみたい狩り場とかの話を始めるフロウちゃん。
離席宣言のコウはともかくとして、ユートも全くの無言なのも全然気にならないらしい。

どう見てもコウの離席って嘘で、ユートはそれをウィスで問いただしてる気がするんだけど……
ある程度確信を持ってユートにウィスで聞いてみたら、案の定
『ごめんね、今ちょっと取り込み中。あとでちゃんと話すね(^^;』
とのこと。
やっぱりね。

しかたなく了解して小鳥のさえずりのように響き渡るフロウちゃんの可愛いおしゃべりに加わってみる。

そうしてる間にもみんな続々とインしてきた。
そしてそれぞれの目的の場所に消えていく。

やがてもう少しで30分という時、コウが動き出した。
『待たせて悪い、行こう。』

いつもみたいに先に立って歩き出すコウの後を勝手についていく追尾設定にして、私はユートにウィスを送った。

『んで?結局なんで離席のふりしてたの?』
取り込み中ってだけではっきり断言されたわけじゃないけど、そうと断定して話を進める私に、ユートは自分が言ったのコウには秘密ねと念を押しつつ話してくれた。

『今日ね、昼にまた高校生殺害のニュース流れたの知ってる?』
あ~そいえば鈴木君の情報ないかとニュース見てた時流れてたな。
『秋本翔太君ね』
『そそ。』
聞いてないつもりだったんだけど…なんだか名前まで覚えちゃってたよ。
『んで?それが何か?』
聞き返す私にユートは一瞬沈黙。
『なに?』
もう一度聞き返すと、他にはわからないように後ろでこっそりため息をついた。
『気に…なってなかったんだ?』
『へ?』
『いや…あれももしかしたら参加者の誰かなんじゃないかなと思ってみたわけで…』
『あ~~』
そういう可能性あるんだ…考えてみれば。
『でね、ある程度参加者ちゃんとインしてくるか、確認しようと思ったらしいんよ、コウ。』

なるほど…
ま、今日はちゃんと死んだゴッドセイバーと辞めたショウ以外の10人みんなインしてたよね。

『ふ~ん、理由はわかったけど…コウもそれならそうって言えば良いのに。』
別に隠す様な事じゃないと思って言うと、ユートは続けた。
『この前の事があるからね、コウもやり方変える事にしたっぽい』
『この前の事?』
『うん。結局さ、俺が教会でアオイに言った通りでさ、悪気があるとかじゃなくてアオイの気持ちとか本当にわかんないらしい。
んで、コウにしてみたら普通に可能性も話して事態が深刻なんだってなるべくわかって欲しかったらしいんだけど、それでアオイが怯えてパニックになるなら姫に対するのと同様、ある程度必要のない事は言わない方向で進めようと…』

『フロウちゃんと?』
聞き返すと、ユートはうなづいた。

『うん。コウは姫には必要な事しか言ってないらしいよ。
初めて会った時にさ、攻撃受けてパニック起こしてたじゃん?
それで最初から無理だと思ったんだってさ。
だからもう不安にさせるから経過とかも一切伝えないで、自分の言う事だけをきちんと守ってくれれば絶対に安全は守るからって、リアル話さない事、呼び出しは絶対に受けない事、自分がいないところで俺とアオイ以外の参加者と話をしない事を約束させてるらしい。』

そう…だったんだ…。
だからフロウちゃんはあんなに落ち着いちゃってるのね。

私は先頭を歩くコウと、その後ろをテケテケついていくフロウちゃんに目を向けた。
確かに…全く怖くないわけじゃないだろうけど、コウに任せちゃえば楽だよね…。
私はその頼らせてもらえる組に入れてもらえた事に正直ホッとした。
これでもうどうしようって思いながら過ごさずにすむんだ…。

コウが先頭で敵を警戒しながら進んで、フロウちゃんが何かあったら即コウにフォローに入ってもらえるようにそのコウのすぐ後ろを隠れるようについていく。
さらにその後に私がいて、後ろで何か起こったときの事は最後尾を歩くユートが警戒してくれる。

そんな狩りの時の立ち位置のまま、ゲーム終了までは前後の二人に守られるようにすごす事になるのかな。

不安がだいぶ減ったところでちょっと気分も軽くなって、私が二人の後を追いかけようと駆け出し始めた時、またメッセージが送られてきた。
今度は…アゾット…って誰だっけ?
『アゾットって…男プリーストだったよな?』

みんなの所にも同じくメッセージがきたらしい。
コウが足を止めて振り返った。

『だね。いかにもヒーラーって感じのあたりが柔らかい奴だった気がする。』
ユートが答えて、戻る?と聞くと、コウは、そうだな、と答えて反転した。

『こんばんは。参加者のアゾットです。
なんとなく気にしていらっしゃる方もいるとは思いますが、今日の昼過ぎに秋本翔太君という高校生が殺害されたというニュースが放映されました。
参加者の一人、イヴさんによると、殺された秋本君は元このゲームの参加者のショウさんらしいです。
親しかった相手が二人とも殺害された事でイヴさんも非常にショックを受けていますし、犯人の男の次のターゲットが自分なのではと、とても怯えてもいます。
もちろん、僕を含めて全ての参加者がそのターゲットになりうるわけですから誰しもが他人事ではありません。
そこで下手に相手の事を知らないまま不安を抱えるよりは、一度全員街の広場に集まってどういう参加者がいるか顔合わせをしませんか?
現在僕はイヴさんと共に街の広場の噴水前にいます。
来られる皆さんはぜひ、噴水前までお願いします』

不安…だよね、イヴちゃん。
色々トラブルもあったけど、私は今の自分の立場を思い返して彼女に心底同情した。

今私はコウやユートのおかげでずいぶん不安が減ったんだけど、もし頼れる筈の仲間が次々死んじゃってひとりぼっちになったら…始めから一人なより心細いよね。

私達が広場に戻ると、そこにはイヴちゃんが立っている。
そしてその隣にはフロウちゃんと同じく十字架模様の入った服を着た優しげな男プリースト、アゾット。
それと…黒いロングコートの…格好からしてたぶんウィザードかな?エドガー。
あとはでっかい弓を背負った見るからにアーチャーなシャルルが集まっていた。

で、私達4人入れて8人…ってことは…亡くなった二人を抜かしても二人足りない。

『例のメルアド主催者のメグとメルアドスルーのヨイチが来てないな』

横でコウがつぶやく。
よくそんなにすぐ思い浮かぶな~。
やっぱり頭の出来が違うんだろうか……リアル絶対に賢い学校だよね。

「やあっ!君達いつも一緒にいるよね。仲いいの?」
私達の姿を認めると、シャルルがまず近づいてきた。
そしてそのままコウの横にぴったりと寄り添う様に立つ。
スっと即一歩引いて距離を取るコウ。
するとまたシャルルが一歩近づき、またコウが距離を取る。
しばらく二人はそんなやりとりを繰り返してる。

「コウ、いい加減にしなよ、大人げない」
思わず言うと、
「ほっとけ」
と言うコウはいつもの事なんだけど、シャルルもいきなり
「そうだよ、君には関係ないでしょ?馴れ馴れしいな」
となんだか嫌~な言葉を吐いてくる。

なにこの人………
ムッとして黙り込む私に
「いきなりそんな…」
とさすがにユートが言いかけるが、それを最後まで言うまもなく、
「ふざけるなっ!馴れ馴れしいのはお前だっ!気味悪いっ!!!」
とコウがキレた。
「こいつらは俺の仲間だから馴れ馴れしかろうがいいんだっ!
それを見ず知らずのお前にグダグダ言われる筋合いはないっ!!」

コウ……
ちょっと感動した。
こういう時のコウは毅然としてて超カッコいいっ!
もう拍手喝采したい気分だ。

言われてシャルルは一瞬沈黙。
あ…ちょっとショック受けてるかな…って思ったら、またいきなり
「コウってさ、すごぃ男らしいよなっ!そういう奴って僕超好きだよ!」
と、なんだか嬉しそうにまたピタっと距離をつめた。

うあああ…なんだかなんていうかこの人って…絶対に変!!
「リアルもさ、そんな感じ?服とかどんなの好き?
リアルでも背そこそこ高い?体格は?コウって鍛えてはいそうだよねっ。
制服は学ラン?ブレザー?コウのイメージだと学ランって感じだけど、ブレザー着崩したりとかもなんかいいねっ、シャツのボタンはずしちゃったりとかしてさ…
寝る時ってさ、パジャマ?Tシャツ?それとも着ないで寝ちゃったりとか?
あ、でも意外なとこで着物とかも似合うかもっ。
あ~、そだ、トランクス派?ブリーフ派?…………」

と…止まんないよ、この人。
コウはおもいっきりひいてる。てか、リアルで怯えてるよ、絶対…。

珍しく逃げ回るコウと追い回すシャルル。
普段は我が道を行く俺様なコウなだけに端から見てるとちょっと面白い。

しばらくユートと少し遠目にそんな二人を眺めてたが、ふと視線を他に移してみると、怯えきったイヴちゃんを一生懸命慰めてるアゾットが目に入る。

フロウちゃんもだけど…アゾットもホントに優しげな癒し系って感じ。
ユートいわく本来は魔王倒して一億円なゲームでわざわざ周りを癒すプリーストなんてジョブ選ぶ人って、リアルでもやっぱり優しい癒し系な人なのかな…。

「みんな…みんな殺されちゃった…。」
多分リアルでも絶対に泣いてるであろうイヴちゃんのキャラにぴったりと寄り添って
「大丈夫…これからは僕が出来る限り側にいて君を守るから。なんでも相談して?」
と言うアゾット。
ほだされるよねぇ…。
なんていうか…前の二人は女王様イヴちゃんの従者って感じだったんだけど、アゾットはイヴ姫のナイトって感じで、ちょっと素敵。

あとは…その二人の隣にはエドガー。
「ゴッドセイバーの場合…確かに実名言いふらしてたらしいからわかるんだけど…
ショウは…どうして殺されたんだろうね?実名知ってたのイヴだけじゃないのかな?」
とてもとても冷静な口調でつぶやく彼に、アゾットは
「色々聞きたいのはわかるんだけど、彼女も本当に今日起こった出来事ですごく傷ついてるんだ。
せめて今日一日はそっとしておいてあげてくれないか?」
とイヴちゃんをかばうように二人の間に入った。

カッコいいなぁ………

「でもさ、彼はメルアドすら教えてないんだよね?」
と、それでもさらに食い下がるエドガーに、イヴちゃんがアゾットの後ろから顔を出す。

「えと…ね、それに関してなんだけど…気になる事が…」

無理しないでいいよ、というアゾットに、
「大丈夫、今はみんなそのために集まってるんだし…」
と気丈に答えて話しだすイヴちゃん。
けなげだなぁ…

「彼ね…メグちゃんにメルアド送ったって言ってたの。辞めるって話もしてないって。
なのに私の所にきたメッセージでは彼は辞める事になってたから、びっくりしてたわ。
他の誰かと間違えたか何か勘違いしたのかもしれないしメグちゃんに一度確認のメッセージ送ったから返事待ちって言ってた…」

え……

それを聞いてアゾットもエドガーも一瞬固まる。

「確かに…エドガー君が二人と仲良くて色々聞いてた私を疑うのももっともだと思う。
…でもね…私もホントに今怖くて怖くて震えが止まらないの…信じてもらえないかもだけど…」

そこでイヴちゃんの言葉は途切れた。
たぶん…リアルで泣いてるんじゃないかな。

そんなイヴちゃんをかばうように、アゾットがまた彼女を後ろに隠す様にエドガーの前に立ちはだかった。

「仮に…僕が犯人だとしたら、真っ先に自分が疑われる様な殺し方はしないと思うな。
君もそう思わないか?」

まあ…それは確かに……
ゴッドセイバーはともかくとして、ショウは実名とか言いふらしたりしてないわけだから、普通は仲良くしててリアル知ってる可能性が高いイヴちゃんが疑われるよね。
犯人だってそんな事わかるはずだし自分が疑われるような事しないよね……

その言葉にエドガーもさすがにちょっと黙り込んで、それから_あたりを見回した。

「キーパーソンはメグって事かな。彼女に事情を聞けば少しは状況が見えるかも。
だけど…来てないな」

エドガーの言葉にアゾットはちょっと困った様にため息をついた。

「僕がインした時には確かにいたんだけどね…。何故だかログアウトしちゃったみたいだ。
送ったメッセージが届かない。明日事情を聞くしかないね」

確信を握るキーパーソンのメグが来てなくて事情はまだ霧の中だけどとりあえずそれぞれの人物像はわかってきた。

生き残ってるのは12人中10人。

私達4人を除くと、殺された二人と仲の良かった渦中の人イヴちゃん。
メルアド交換を申し出たまま姿を消したメグ。
怯えてるイヴちゃんを慰めてる癒し系の男プリーストのアゾット。
なんだかハイテンションでコウを追い回してるアーチャーのシャルル。
周りから情報を聞きまくって犯人を特定しようとしているらしい男ウィザードのエドガー。
そして……このゲームを始めて以来、他人と一切連絡を取ろうとせずメルアド交換すら
スルーしてる謎のアーチャー、ヨイチ……

その日はとりあえずアゾットが音頭をとって、それぞれ自己紹介をして解散したんだけど、みんなが微妙に全員を警戒している嫌な雰囲気だった。

ショウを殺した犯人がゴッドセイバーを殺した犯人と同一人物だとすると犯人は男で…
たぶんこの中にいるんだよね…。

いったい誰なんだろう……




0 件のコメント :

コメントを投稿