青い大地の果てにあるものオリジナル _4_11_友人

「タカ、俺だけどいい?」
ホップはひのきの部屋をノックした。

「ああ、入れよ」
ひのきは月明かりのみが唯一部屋を照らす薄暗い部屋で一人で日本酒を傾けている。

「姫は?奥?」
ホップは自分も冷蔵庫の上に並んだグラスを一つとってその横に座った。

「ああ。今ツツジがついてる。少し疲れが出たみたいでな」
片膝をたてて冷酒のグラスを傾ける横顔はかなり疲れているように見える。

「タカってさ、日本に来ると背中にどっぷりとお館様って看板背負って歩いてるみたいに見えるよな」
ホップは自分も日本酒を注いで旧友の横顔に目をやり小さくため息をついた。

「少しさ、肩の力抜いたら?俺ら所詮18のガキよ?なんでもかんでも背負えねえって」

「背負いたくて背負ってるわけじゃねえ」
ひのきは口を尖らせてくしゃっと前髪をつかむ。
その仕草にホップがぷっと吹き出した。

「あんだよ?」
不機嫌に自分の方をふりむく旧友に、ホップは笑いながら首を振る。

「いやいや、今の仕草がさ、不機嫌な時のタマそっくりで」
「鉄線かよっ」
「うん。正確にはさ…考えたくない事を考えてる時の、な」
ホップはふと笑うのをやめて、何かをうながすようにひのきの顔をのぞきこんだ。

その視線に気付いて、ひのきは少し複雑な表情を見せる。
それでも言葉が出ないひのきに、ホップは気楽な口調で言った。

「愚痴るくらいはいいんじゃね?
俺はタマに聞いて知ったくらいで一族でもなければその心情もわからんけどさ、逆に何言われても感情的に何かあるわけじゃないしな」

「…俺も正直心情なんてわからんから…」
ひのきはちびちびグラスの中身を舐めながら片手で顔をおおった。

「みんな何考えてんだか。特に一位なんてマジわかんね。
前にも言ったけどさ、生まれてこのかた2回しか会った事ねえんだぞ?」

「ああ、言ってたねぇ。んで?その時になんか乙女心をげつするやりとりでもあったん?」
並んで日本酒を飲みながら聞いてくるホップに、ひのきは顔を覆ったまま首を横に振る。

「たぶん…二人きりになったのなんて1回だけで1分ほどだし」
「んじゃ、一目惚れ?」
「ありえねえ」
ホップの言葉をひのきは即否定する。

「これも前にも言ったが、一位は”お館様の正妻”になるべく生まれた時からしつけられてるからな。
一目惚れなんかするようには育ってない。
しかも…そういう意味で言うなら、俺ら3兄弟の中では誰が見ても貴景が一番ツラいいし」

「そうなん?」
クスっと笑うホップにうなづくひのき。

「なんつーかな、俺ら一族は一族の間での婚姻繰り返してるせいか皆どこか似てて、俺達兄弟もしかりなんだが下に行くほど柔和な女っぽい顔になってるんで、真ん中の貴景が一番整った顔してる。
性格は…たぶん俺が一番保守的で貴景は革新的で末の貴行が丁度バランス取れてるけど、女は革新的な方が好きだろ。
ぶっちゃけ…俺には貴景差し置いて一目惚れされる要素はかけらもねえぞ」

「面白えな、タカ達兄弟。3人揃ったとこ見てみたかった」
「ああ、俺もできれば見せたかったけどな」
ひのきはぐいっとグラスの中身を飲み干して、また注いだ。

「まあさ、タマは思いのほか一族に対して思い入れないみたいだし、実家の鉄線もほぼこっち側についてるからそれほど心配もいらなさそうだから俺は結構余裕あるし、愚痴くらいきくからさ。
ダチっしょ?
たまには姫以外にも言ってよ。
タカ自分はやたらと背負い込むくせに相手には一切弱み見せねえから」
ホップもグラスの中身を飲み干して立ち上がった。

「んじゃ、そろそろ飯だから。姫も起きれそうならコーレアの部屋一緒に来てよ」
言って戸口に向かうホップの後ろ姿に
「おい、」
とひのきは声をかける。

そして
「うん?」
と振り向くホップにひのきは言った。

「さんきゅー。まあ…言う努力はする」

「努力しないと言えねえん?」
ひのきらしい言葉にホップは小さく吹き出す。

「…言うなって育ってきてるから…な」
その言葉にふと以前のなずなとの会話を思い出してホップは言った。

「男は黙ってやせ我慢?」
ひのきはあまりに的を得た言葉に感心した視線を一瞬ホップに向けた後、
「まあ、そういう事、だな」
と苦笑した。








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