青い大地の果てにあるものオリジナル _3_13_かけめぐる誤解の輪

ブレイン本部につくとまずシザーのデスクに向かう。

シザーはいつものように書類の山に埋もれていたが、目の前に現れたヒョロッと背の高い影に顔をあげた。

「ホップ君、今日はどうしたの?」
忙しくても笑顔をたやさないシザーに内心感心しながら、ホップは
「ちょっと大事な話があるんだけど...時間もらえない?」
と、チラっとスターチスに目をやった。

シザーはその視線の先を追って苦笑する。

「ここじゃ駄目な話...なんだね?」
「さすがシザー、話早い」
「んじゃね~、どうするかな。そこの録音室でいい?
一応防音なんで秘密の話には結構重宝するんだ」

「うん、どこでも♪」
ホップが言うと、シザーはさきほどからこちらをチラチラ伺っているスターチスに、
「というわけだからね。ジャスティスの要望聞くのはお仕事のうちでしょ?」
とにっこり微笑むと、ホップを伴って録音室に入っていった。



「狭くて悪いね~」
シザーは言って椅子を二つ持ってきてその一つをホップに勧めた。

「いやいや、こちらこそいきなり来て悪かったな。
でもどうしても聞いて欲しい事あってさ」
ホップは椅子に腰をかけると言う。

「いや、それも仕事のうちだしね、で?何か要望なのかな?」
シザーがうながすと、ホップはどう切り出そうか少し迷う。

「あのさ、シザー」
「ん?」
「今な、もしジャスティスが一人戦線離脱したら、やっぱりまずい?」

ホップの言葉にシザーは一瞬驚いた顔をしたものの、すぐ笑顔で
「ホップ君が?理由は?」
と聞いた。

「いや、俺じゃなくて...理由は...う~ん、言いにくいんだけど...妊娠、出産?」
思わぬホップの言葉にシザーは目を丸くする。

「ユリ君では...ないよね?」
の言葉にはホップは
「もちろん!」
と大きくうなづいた。

「とすると...なるほど、そういう事ねっ」
シザーは小さく噴出した。

「いいんじゃない?ひのき君が良いんなら」
と、こちらもすっかり勘違いしているわけだが...まあホップからして勘違いしているのだからしかたない。
しかしそれにしてもあっさり了承するシザーにホップは拍子抜けした。

「ホントにいいん?」
「うん」
シザーは柔らかく笑ってうなづいた。

「ここんとこ暗いニュースばかりだったしねぇ。
姫ちゃんに赤ちゃん生まれたりしたら、すごくね、本部全体が明るくなるんじゃないかな。
任務だってボイスは別に外でなくても、この前みたいに内組が怪我して帰ってきたりしても医務室とかでかけてもらえるしね。
可愛いだろうなぁ。姫ちゃんの赤ちゃん」

「俺もそう思うさ」

「いや、実は6日前ね、僕レン君に用があって医務室行ったら姫ちゃんが点滴してベッドで寝ててね、用が終わった時にひのき君に検査終わったって伝えてくれってレン君に頼まれたんだよね。
んで、安静にさせたいしメンタル面のこともあるからひのき君も一緒に一週間の休みくれってレン君が...」

「あ、そうだったん。じゃあシザー知ってたんか」
どうりで驚きもせずあっさり了承するはずだ、とホップが言うと、シザーは苦笑して首を横に振った。

「いや、その時はプライバシーだからってなんの検査か教えてもらえなかったんだけどね、今思えばそういう事だったわけね。
まあデリケートな時期だしつわりもあるし少し体調崩してたのかな。
でもレン君も水臭いよね。
それならそうと言ってくれればもうちょっと気の利いた対応もできたのに」
シザーの言葉にホップは言う。

「いや、俺だって絶対に反対されるって思ってたからさ。こういう時期だから」

「うん、こういう時期だからさ、精神的に明るくなる話題はね、大歓迎だよ。
何かお祝いしたいなぁ。
あと6日くらいでひのき君も任務行っちゃうしね。
まあまだ不安定な時期だからあんまり大げさにはしない方がいいかもしれないけど、内々だけでもね。
とりあえずフェイロンとコーレアさんには教えておきたいね。
あとジャスミンには言っておかないと後で恨まれるかも...」
シザーはウキウキしながら指を折る。

「ん、そのあたりは任せるさ。俺は愛でる会かな。
ネリネあたりが側にいてくれれば医務だし安心だからさ」
すっかり勘違いまっしぐらな二人は意気投合してそれぞれ録音室をでると、目的の人物に連絡を取るべく動き始める事にした。


「部長!どこ行くんですかっ!仕事して下さいっ!!」
シザーがこっそり抜け出そうとするのを見咎めて、スターチスがあわてて飛んでくる。

「全く油断もすきもないっ!」
怒るスターチスに、シザーは隠し切れない笑顔で
「ごめん、今回だけっ!絶対に直接フェイロン君に伝えたい事が...」

「ダメです!どうせろくでもない事をたくらんでるんでしょう、また」
あまりに楽しそうなシザーの様子に、さすがに仕事のことではないだろうと踏んで言うスターチス。

だが
「頼むよ~。まだ秘密なんだけど君には特別に教えてあげるからさ~」
と、手を合わせるシザーに、好奇心が動かされた。

「まあ...事と次第によっては、ですね」
スターチスが言うと、シザーは、びっくりするよ~とスターチスの耳に口を寄せる。


「ええ~?!ひのき君と姫ちゃんに赤ちゃん?!!!」

「シ~ッ!!君声大きいよっ!!」
驚いて叫んだスターチスの声は、当然部内の皆に聞こえてしまった。

「本当ですかっ、部長?!!」
部内が騒然となる。

「えと...ホント...なんだけど、この事はまだブレイン内だけで収めておいてね?
まだ不安定な時期だしおおげさにすると返ってよくないだろうし。
安定期に入ったら盛大にお祝いの席設けるからさ」

無駄だろうなぁと思いつつシザーは一応口止めをした。
もちろんそれは思い切り無駄なわけだが...

「可愛いでしょうねぇ、姫ちゃんの子なら...」
「ひのき君に似てもハンサムになりますよ」
「どちらに似てもね、あのカップルの子なら...」
「...にしてもあのひのき君がパパねぇ...」
部内はその話で盛り上がりまくる。

もうこれは本部内中に知れ渡るのも時間の問題だ。
その前に...と、シザーは
「じゃ、そういう事で僕フェイロンのとこ行って来るね!」
とシュタっと手をあげて駆け出していった。



「ええ?!!タカとなずな君に子供?!!」
と、こちらはボス自らのでかい声でやはり部内中に知れ渡ったわけで...

「フェイロン...僕秘密って言わなかったっけ?」
とシザーは深い深いため息をついた。

「す、すまん!おいっ!皆忘れろっ!」
とフェイロンはあわてて手で口を覆うが、そんなショッキングな話題が早々忘れられるわけはない。

それどころか
「それホントっすか?ひのきが父親にっ?!」
「姫~、俺の姫が~!(泣」
「子供は絶対に姫にクリソツの女の子だっ!そうに違いないっ!」
「おしっ!俺は子姫ちゃんの親衛隊隊長やるっ!」
「いや、子姫ちゃんこそ俺の嫁っ!
「何を言うッ!子姫ちゃんは独占禁止のみんなのアイドルだっ!!」
と、すでに性別まで断定しての大騒ぎだ。

「まあ...めでたいことだしな、かまわんだろうっ」
脳筋達のボスの脳筋はすっかり開き直ってうなづいた。

「あ~あ、でもあんまり姫ちゃんの周りでははしゃぎすぎないようにさせてよ?
身体に障ったら大変だから」
とシザーは言うが
「うむ、そのへんは...度を越す奴がいたら殺すから任せろっ!」
と、実はボスが一番やばいんじゃないかという発言をするにいたって、シザーも半分あきらめムードだ。


「お手柔らかにね...じゃ、僕あと知らせないといけないあたりに知らせに行くから...」
とお祭り騒ぎのフリーダム本部を後にして廊下に出たシザーの前にジャスミンが現れる。

ツインテールを揺らしてツカツカと兄の前に進んだジャスミンは、グイっと兄の襟首をつかんだ。

「兄さんの馬鹿~~~!!!!!!」
と、いきなりの絶叫。

「どうして教えてくれなかったのよ?!姫に赤ちゃんできたんですって?!」
可愛い顔に鬼のような形相でつめよる妹にビビるシザー。

「もうジャスミンのとこまで話いっちゃったの?」
あまりの情報網のすごさに舌を巻いて言うと、
「当たり前よっ!姫の親友だもん!」
とジャスミンはおもいきりうなづいた。

「えと、実は僕もついさっき知ったばかりで..」
しどろもどろになって言い訳をしていると、今度はコーレアとルビナスが連れ立ってくる。

「もしかして...あなた方のところにももう?」
おそるおそるきくと、二人はやはりうなづいた。

「ああ。このところ暗い話ばかりだったしな。皆明るい話題に飢えてたんだろう」
と、コーレアが
「たぶんもう本部中で知らない人いないんじゃないかしら?でもすごい人気よね、二人とも」
とルビナスがそれぞれ言う。

あ~あ、と思う反面、みんなそれだけ二人の様子を気にしていたんだなぁとシザーはあらためて二人の影響力の強さを実感した。








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