青い大地の果てにあるものオリジナル _3_6_呼び出し

「いったい何が...起こったのかな?」

ホップが重傷のコーレアを、トリトマが同じく重傷のアニーをかつぎ、真っ青な双子がお互いを支えあうように戻ってくるのを迎え入れて、シザーの顔から血の気がひいた。

「ホップ君、説明してもらえる?」

重傷者2名を医務室に送ったあと、まだ一番冷静に話しができそうなホップにシザーは声をかける。
ふられてホップは困ったような顔でうつむいた。


「わかんないさ。
最初は俺が雑魚一掃してアニーと楽勝だなって話してたんだけど、アタッカーの様子がおかしくてアニーとフォローに走ったんさ。
そしたらファー抱いたトリちゃんが撤退してきて頼むって言われたからイヴィルに銃向けたんだけど、その時すでにアニーの様子おかしくて、やめろって言われたんだけど間に合わなくて。
んでコーレアの方はジャスミンが動揺して動けなくなってコーレアにしがみついてたところにアニーまで止めに入ってまともに攻撃くらって...
最終的にはジャスミンに攻撃がいきかけたところでアニーが倒したんだけどさ」


「...今度はアニー君か」
言いながらシザーは受話器を取って電話をかけた。

「フェイロン、ごめん、助けて」
言って電話を切る。

それからホップと双子とトリトマに
「あとで事情きくかもだから、とりあえず医務室の隣の部屋に待機してて」
と言いおいた。



「シザー、平気か?!」
1分もしないうちにブレイン本部にフェイロンがかけこんでくると、シザーは
「悪いね、ちょっと時間いい?」
とフェイロンに手をあげる。

その尋常ではない様子に、フェイロンはうなづくと、
「別室借りるぞ」
とスターチスに声をかけ、シザーの腕をつかんで手近な所にドアのあった録音室に場所を移動した。


「こっちの問題なのに本当にごめん」
パタンとドアが閉まるなり青い顔でまず頭を下げるシザーの肩に手をやるとフェイロンは
「いや、とりあえず座って事情を話せ」
と椅子にうながす。
シザーは素直にうなづいて椅子に座ると、ホップに聞いた事をそのままフェイロンに話した。


「この前コーレアからあった話が実際に起こったんだと思うか?」
話を聞き終わって言うフェイロンにシザーは青い顔でうなづいた。

「たぶん...ね。アニー君の妹だったんじゃないかな。
確認取ってフォローいれないと駄目だって思ったんだけど...僕さ、自分がその立場だったらと思うと目眩しそうで...
それに普通に人間関係とか築いてこなかったからどうフォローいれていいのかわからないんだ。
コーレアさん意識不明の重傷だし、ひのき君部屋だし、もうどうして良いかわからなくて...
ごめん、他に頼れる人いなかったんだ。
フリーダムの君にふる事じゃないのわかってるんだけど...」

小さく肩を落としてうつむくシザーに
「...充分ふる事だ。馬鹿野郎」
フェイロンはそう言ってシザーの頭に手をやってクシャクシャっとかき回した。

そして不思議そうに見上げるシザーに
「ダチなんだから困った時は言えって言ったろ?」
と少し笑いかける。

「ま、自主的にちゃんと言ってきた事はほめてやる」
と続くフェイロンの偉そうな言葉に、
「さすがフェイロン、俺様だね」
と、シザーも小さく吹き出した。


「とりあえず俺が人の手配はしてやるから、お前は回収したイヴィルと魔道生物の調査してろ」
フェイロンの言葉にシザーは立ち上がって
「ありがとう。...君がいてくれて良かったよ」
とコツンとフェイロンの肩に額をぶつけると、
「じゃ、研究室にこもってくる!」
とクルっときびすを返した。

その後ろ姿を見送って、フェイロンは携帯に手をかけた。

(せっかく1ヶ月ぶりにやってたんだとしたら気の毒だけどな...ま、非常事態だ)
ひとりごちて相手が出るのを待つ。


「...非常事態か?」
電話の向こうからは意外に冷静なひのきの声が返ってきた。

「ああ、悪いな。
結論から言うと、コーレアとアニーが重傷負った。まずなずな君のボイスが欲しい。
あとはイヴィルがなアニーの妹達だった可能性があるんでその確認を取りたい、確認が取れたらそのフォローも必要だし、その人選もお前に相談したい。
という事で即レンの仮眠室だな。
医務室の隣は他のジャスティスいるから一般病棟から入ってくれ。なるべく基本方針が決まるまでは秘密裏に動きたい」
「了解。すぐなずな起こして支度するから10分待ってくれ」

電話を切ってひのきは隣で疲れきって熟睡中のなずなに目をやった。
ある程度満足するまでつき合わせたので寝たのはついさっきだ。

体力のある攻撃特化のひのきと違って、最後はほとんど気を失った状態だったし起きられるのだろうかと、少し困った顔でなずなの柔らかい髪をなでる。

「ま、こうしていてもしかたねえか」

ひのきは起きて着替えると、クローゼットの中からなずなのワンピースを出して着させた。
そんな事をしていてもなずなは全く起きる気配がない。

「やばいよな...これでボイス使えるのか?」
やっぱり何事もほどほどに...と今更ながら思いつつ、ひのきは眠ったままのなずなを抱き上げた。



「タカぼん...若いし気持ちはわかるけど何事もほどほどが大事やで?」

なずなを抱いたまま通常病棟からレンの仮眠室に入ったひのきを見て、レンは大きくため息をついた。

「俺もフェイロンから電話きてそう思ったとこなんだから、言うなよ」
ひのきも大きく息をつく。

「ま、ともかくこれ着せとき」
レンは羽織っていた自分の白衣を脱いで放り投げる。

「......?」
受け取って不思議そうにレンを見るひのきに、レンはあきれたように首を横に振った。

「露出高いもん着せとるし、あちこちに痕ついとるのが丸見え。
隣に待機しとる子供組ジャスティスには刺激強すぎやろ」
言われてさすがにひのきは赤くなってレンの白衣をなずなに着せかける。


「う...ん?」
そこでようやく目を覚ましたなずながボ~っとひのきを見上げた。
そして見慣れない景色にあたりを見回して、ピタっとレンで目を止める。

「なんで...医務室?...私倒れた...かな?」
記憶がまったくつながらないままボ~っとした目でみあげてくるなずなに
「確かに...最後気は失ったけどな」
とひのきは苦笑する。

「でもここにいるのは別の用。コーレアとアニーが怪我したらしくてボイス欲しいらしい」

「あ...そうだったの」
その言葉に急に目が覚めたなずなは、
「大丈夫だから下ろしてタカ」
とひのきに言った。

「ん。ゆっくり立てよ」
ひのきはレンの仮眠用ベッドになずなを下ろして座らせる。
そして腕を支えて立つのを補助すると、いまいちまだ力が入らないらしいなずなの体を支えた。

支えられたまま、なずなはそこで初めて自分が白衣を着ている事に気付いて、ひのきをみあげた。

「え~っと...お医者さん...ごっこ?」
ぽつりと口にしたその言葉にレンが大爆笑する。

「いやいや、今度ナース服用意しとくなっ。今回はそれで我慢しといてっ」
笑われて釈然としない表情で、それでも小さく息をついて病室にうながすひのきに連れられてジャスティス用の病室に足を踏み入れた。

そこには並んだ二つのベッドに寝かされているアニーとコーレア、それに付き添っているフェイロンがいる。


「タカもなずな君もこんな時間に悪かったな」
二人の姿に気付いてフェイロンが手を挙げた。

「いや、コーレアまで重傷負う様な状況なんだったらさすがに即呼んでくれて良かったんだが...」

くだらない事で呼び出すなというつもりで言ったのだが、また言葉で失敗したか、とひのきがちょっと表情を曇らせると、フェイロンは首を横に振ってシザーに聞いた戦闘の状況を話した。

「というわけでな、なずな君ボイス頼む。
怪我直したらここはレンにチェンジしてレンの仮眠室でコーレアも含めて今後の打ち合わせだ」
言われてなずなはボイスを発動させる。

青い光が二人を包み、あっという間に傷を塞いだ。

「コーレア、起きてくれ」
傷が無くなった事を確認すると、フェイロンがコーレアを軽くゆする。

「ん。生きているということは...なんとかなったんだな?」
意識を取り戻して即状況を理解できているらしいコーレアは即身を起こした。

そして
「休んでたのに悪かったな、タカもなずな君も」
即ベッドからおりると、二人の肩にそう言いつつ手をかける。

「いや、非常事態だし気にすんな。それより今後だ。場所移動しよう」
ひのきは言って仮眠室へうながした。

レンが入れ替わりにまだアニーが眠っている病室へ向かう。



仮眠室でさらに詳しくコーレアから戦闘中のやり取りについて聞くと、ひのきは小さく舌うちした。

「まずったな。やっぱり俺が行きゃあ良かった。コーレア、悪かった」
「いや、俺達は自主的に行ったんだし、お前が行っても俺と同じだったろ」
「ん~、いや、俺ならガキん頃からのつきあいだからな。
ためらいなくジャスミンを殴ってでも力づくで引きはがせたから。
コーレアはそこまでできんからアニー来るまで引きずったんだしな」

「すまんな...。さすがに女の子殴り倒してっていうのは気が引けて...。
しかしそのせいで結果怪我人を出してアニーに自分で身内に対して手を下させてしまったな...いかんな、俺も...」

「まあ、まだ妹かどうかはわからねえけどな」
肩を落とすコーレアにひのきがいうが、フェイロンは
「いや、確定だろ」
と断言する。

「まあ一応これから確認は取るがな。フォローどうする?」
「アニーは俺行くわ」
ポリポリと頭をかいて言うひのきに、コーレアが言う。
「いや、俺のせいだし俺が行こう」

しかしフェイロンは
「いや、タカお前行っておけ」
と決断をくだした。

「了解。
悪いな、コーレア。
わかってるとは思うけど、やる気とか能力とかそういう問題じゃなくてな、本音を本気でぶつけられるかって事なんだよ。
俺はその点良くも悪くもつきあい長いからな。奴も思い切りやつあたれる。
ま、サンドバッグにある程度気持ちぶつけたらあいつ真面目だからどっちにしても謝りたいって言ってくると思うから、その時は大人として対応してやってくれ」

「すまんな、タカ」
「いやいや。ま、脅しも休みもほどほどにって事だな」
ひのきは苦笑した。それからなずなを振り返る。

「なずな、ジャスミンに言うべき事わかるよな?頼む」
ひのきのそれだけの言葉で理解したらしくなずなは
「うん。任せて。タカが終わってコーレアさんが終わったあたりでインって感じね?」
とうなづいた。
それにうなづいてひのきはなずなの頭を抱きよせて笑う。

「ああ。お前最高っ。マジ助かる」
言ってひのきがその唇に軽く口づけると、なずなは
「私はご主人様の指示に従ってるだけよ?」
とひのきを見上げてにっこり微笑んだ。

ジャスミンの元に向かうなずなの姿が部屋から消えると、コーレアが大きく感嘆のため息をついた。

「以心伝心もここに極まれりって感じだな」
「ああ、すげえな。
頭いいのか勘がいいのかわからんが、あれであくまでサポートに徹してでしゃばってこないのが感動ものだ」
とフェイロンも言う。

「だろ?俺はあれがいれば生きて行ける」
ひのきは機嫌良く言うと、
「んじゃ、サンドバッグになってくらあ!」
と二人に軽く手をあげて病室に戻って行った。







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