ローズ・プリンス・オペラ・スクール第十一章_11

覚醒


最初に迷い込んだ時には薄暗い灰色だった世界は今は真っ白になっている。
何にも染まってない無の色…。

そんな中でアーサーはフランシスが戻ってくるのを待っていた。

自分は無事元の世界に戻れるのだろうか…。
時間が経つにつれだんだん不安になってくる。
アーサーが不安になると世界はまた少しずつ暗く色を染めていった。
どうやらここはアーサーの精神状態によって色が変わるらしい。

ともすれば黒く染まってしまいそうになるので、アーサーは必死に考えた。

ここを出られれば…元の世界に戻れればアントーニョに会える。
目を覚まさない自分をとても心配してくれているとフランシスが言っていた。
もし目覚めたらどんな顔をするだろう…。

アーサーは目を閉じて想像してみる。

きっとあの綺麗なエメラルドの瞳を嬉しそうに輝かせて抱きしめてキスしてくれる…。
アントーニョのキスは情熱的なのにどこか優しい。
大切に大切に気遣ってくれているのがわかる。

――アーティ、俺の大事なお姫さん、ずっと側にいたってな。

愛おしげにそう言ってキスをしたまま抱き上げてベッドに運ばれ、横たわらされる。
普段ハルバードを振り回したり鍬を握ったりする逞しい手が、その時だけは本当に繊細な優しさを持ってアーサーをゆっくり愛してくれるのだ。
魔物の性交のようにただ精を吐き出させる事が目的ではない…優しく心を交わす行為。

身体だけでなく心が交じり合う。
強く温かなものがアントーニョから溢れでてアーサーを満たし、優しい涼やかなものがアーサーから溢れだしてアントーニョに流れていく。
そうしてクルクルとお互いの全てが融け合い一つになる

――アーティ、好きやで。世界中の誰より好きや。親分と一緒におろう?
身の内にアントーニョを感じて安心感で満たされて、アーサーは目の前の太陽に抱きついた。




「おはようさん。よう寝とったね、お姫さん」
急にリアルに聞こえる声に目をぱちくりするアーサー。

しかし状況を把握する間もなく、身体が慣れた快感に嬌声をあげながら昇り詰めて意識が遠のいた。

次に意識が戻ったのは温かいお湯がはられた風呂の中で、どうやらアントーニョに身を清められている最中のようだった。

「えっと……」
キョロキョロとあたりを見回すが、何度見ても見慣れたバスルームだ。
コテンと首をかしげるアーサーをアントーニョはぎゅうっと後ろから抱きしめた。

「目、覚まさんくて、めっちゃ心配した…」
アーサーの首筋に顔をうずめたまま、アントーニョはくぐもった声で言う。
後ろから抱きしめるようにアーサーの腹に回した手がかすかに震えていた。

「倒しきれんほどの敵に囲まれて死にかけた時より、よっぽど怖かったわ。
アーティの精神を引っ張っとる奴より強くアーティの心を身体の方へ引っ張らなあかんて聞いて、他に思いつかんくていつもみたいに愛し合って親分の愛をめっちゃ感じてもろたら引っ張れるかな~とか思うてやってみたんやけど、これでダメでアーティにこのままなんかあったら親分も一緒に死んだろ思うとった。」

ここは恥ずかしがるところなのか感動するところなのかよくわからず、それでもなんとなくアーサーは赤くなってうつむいた。

ただひとつだけわかるのは、自分は愛するパートナーのいる世界に戻ってきて、愛するパートナーの腕の中にいるという事である。

ああ…幸せだ…と本当にしみじみ思う。

「あの…な」
「…うん?」
「なんか…トーニョの腕の中に戻ってこれて…嬉しい。幸せだと思う…」

叶わぬ思いを抱えたまま意にそまぬ経験をして、そのまま死んでいく…そんな人生を見た直後だからか、素直に思った事を口にしただけなのだが、アントーニョはピタっと硬直したあと、
「あのなぁ~~~」
と、大声をあげた。

「ふえ?」

「自分…目、覚ました早々煽っとるん?気ぃ失うまで抱き潰されたいん?
もうあかんっ!あかんわっ!」

ザブンと立ち上がるとアントーニョはそのままアーサーを抱き上げてバスローブで包むとベッドに直行した。

こうして…アーサーは再び半日ほど気を失い、次に意識が戻った時にはギルベルトと話し合いを終えた理事長に呼び出される事になったのだった。




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