青い大地の果てにあるものGA_8_1

「ホントにやりやがったな..」
本部に戻るとロヴィーノが目を丸くした。

「ホントにって...お前できねえかもと思いつつ送りこんだのよ」
呆れたようにつめよるギルベルにロヴィーノはさすがに青くなって手を顔の前で振った。


「いや...ちゃんとやってくれるって信じてたけどなっ!
ただまあ...もしかしたら撤退する事もあるかもしれねえなぁと...色々未知数だったしな…」

「まあええやん、アーティもこうして無事やった事やし」

アントーニョはそういってアーサーの頭を撫でようと手を伸ばすが、ギルベルトに阻止をされて

「なんなん?狭量な男は嫌われんで?ギルちゃん」
と口を尖らした。

そんな和やかにして全員がホッとした空気の中、今回の報告が行われる。



「羅刹常時発動可はすげえ大きいな」

「せやなぁ。
まあそれすんのにアーティの方も無理するとかないみたいやし?」

ギルベルトの報告した書類を覗き込んで話すブレイン&フリーダム両部長。


「アーサーのこいつは第一段階で発動できるって考えて良いんだよな?」

と、仕組みを理解しておこうと聞いてくるロヴィーノに、アーサーは頷いてギルベルトにしたのと同じ説明をすると、さらに追加した。


「一応…俺の第二段階は薔薇のウィップな。
攻撃力はガンと落ちるけど、振れば魔力で作られた薔薇が出て若干目くらまし機能もあるから、雑魚程度相手ならなんとか盾役も出来る。
で、第三段階は薔薇そのもの。
能力は…まあ秘密?」

にこりと唇に指をあてるアーサーに

「かっわかわええ~~!!」
とアントーニョは叫ぶが、ロヴィーノはそれを制して

「秘密?」
と、聞き返して来る。

それに対してアーサーは軽く肩をすくめる。


「桜付きじゃないと死ねるから。
俺がポチと組むってことは、戦力的に桜までこっちに組み込めないだろうし、桜が一緒ってことはすなわち全員集合なんだろうから、それなら俺が第三段階使ってる間桜独占してるよりは、俺が第一段階でポチに羅刹発動させてた方が良い。
俺のは第三段階でも単体攻撃だし」

「…なるほどな。
ま、確かに第三段階は事故あったら怖えし、ギル以外は出来ても極力使わない方向だな」

と、その言葉で納得したらしい。
ロヴィーノもそれについては追及しない事にして終わらせた。




「あ~、アーサー達も帰って来たんだね~。
ちゃおちゃお~♪
ね、俺これからおやつ食べに行くんだけどアーサーも行く?」

ブレイン本部を出ると、フェリシアーノがアーサーに抱きついてくる。
その一歩後ろにはルート。

「お前は…後衛とは言っても少しは鍛練を……」
と、苦い顔をして苦言を呈するが、フェリシアーノは

「ん~新しい友達と交流を深めるのも大事だよ?
戦場では個々の能力より信頼関係ってルート言ってたじゃん?」
とにっこり。

「というわけで、ギルもこれから鍛練室でしょ?
アーサー借りて良い?
今日は新作スイーツ入ったし、1人じゃ全部食べきれないから」

他だとついつい警戒してしまうギルもアーサーも、どうもフェリシアーノだとそんな気も起きない。

「新作の…スイーツ!」
と目を輝かせるアーサーにギルベルトも苦笑。

「おう、制覇してくれば?
俺様はルッツと鍛練したら部屋帰るから感想きかせてくれ」

と、軽く頭を撫でて、まだ何か言いたげな弟の腕を取った。


「やった~♪」
とその場でぴょんぴょん飛び跳ねるフェリシアーノ。

「じゃ、行こう!とびきりのケーキが俺達を待ってるよっ!!」
と、そのままの勢いでアーサーの腕を取って食堂方面へと消えて行った。



「…兄さん……」
と、それを見送って諦めて2人で鍛練室へと足を向ける道々、ルートがため息交じりに口を開いた。

「おう?」

「知ってたか…?豪州支部が壊滅したの…」
「ああ、極東もだぞ?タマ達がこっちきた翌々日だったらしい」

「そうなのか?!」
「ああ、俺もつい今朝知ったばかりだけどな、極東の方は…」

「…そう…か……」

ひどく気落ちした様子で肩を落とす弟に、ギルベルトは自分よりも上背は大きくなったその頭をくしゃくしゃと撫でまわした。

「どうした、ルッツ。
何か悩んでんのか?」
と、ことさらいつも通りに笑ってみせると、

「本当に…兄さんはいつも変わらないな」
と、ルートも小さく笑みを浮かべる。

そして言う。

「兄さんは…考えた事がないか?」
「あ?」

「俺達は前衛で…パートナーは後衛だ」
「おう、そうだな」

今までは特別な相棒とかペアとかはいなかったが、アーサーが来て、さらに今回羅刹との相性もわかって、おそらく恒久的な相方になったこともあってギルベルトが迷う事なく頷くと、ルートは片手で口元を塞いで俯いた。

「たまに…思うのだ。
俺は後衛を…フェリシアーノを死守する。
俺が生きている間は絶対にあいつのところまでは敵を向かわせん」

「…だろうな。
お前はタンクとしてはジャスティス一だと思うぞ?
最強の俺様だってタンクとしてはお前に敵わない」

と、それは別に元気づけるとか慰めるとかのためではなく、ギルベルトは本当にそう思っている。

なにしろ硬さが違う。

矛盾…という極東の言葉は何でも貫く矛(武器)と何でも防ぐ盾から来ているものだが、その言葉のように攻撃力としてはおそらく最強のジャスティスの剣のギルベルトでも、本気で守りに入ったルートを倒せるかどうかは謎である。

試してみたい気がしないでもないが、そうなると手加減なしの真剣勝負になるため、おそらく万が一ギルベルトが勝った時には間違いなくルートを殺してしまうので、試せない。

だが、まあそういうレベルでルートは優秀な盾だ。

そう伝えるとルートははぁ~っと大きく肩を落とした。


「でも…豪州支部は壊滅した。
それぞれ攻防に優れた2人のジャスティスがいて、なおだ」

「…何が言いたい?」

「俺が…万が一にでも倒れた時に、あいつも少し身体を鍛えて自衛できるようにしておいた方が良いと思うのだが…」

「あー、そこに行くのかっ!!」
パン!と自分の額を片手で叩いてギルベルトは吹きだした。

「兄さんっ!俺は本気で悩んでいるんだっ!笑い事じゃないぞ!!」

と、赤くなって怒る様子は身体は大きくなってもまだ16歳の子どもだと思う。
俺様の弟、可愛すぎるぜ~!!と思いながらも、それを言ったらさらに怒られるだろう。

「悪い。でも安心しろ、大丈夫だ、ルッツ」
と、ギルベルトはなんとか笑いを止めて、弟の肩をポン!と叩いた。

「大丈夫…なのか?」
自信満々に言う兄に聞きかえす弟に、ギルベルトはきっぱり言った。

「お前が倒れるような相手なら、フェリちゃんが少しくらい体鍛えたところで瞬殺されっから!」

「それは安心要因ではないだろうっ!」

さぞやすごい対処法でも知っているのかと思えば返ってきた答えがそれで、ルートは思わず叫んだ。

が、兄もふざけているわけではないらしい。
さらに付け加えた。

「フェリちゃんが鍛練をしないって言う悩みなら、それはやる必要がねえって言う意味だ。
そんな無駄な事に使う脳みそがあるなら、お前は覚悟を決めろ」

「…かく…ご?」

「おう!ルッツ、お前はコンビ組む時にちゃんと覚悟したか?」
「…何の覚悟だ?」

「…相棒を殺してやる覚悟だよ」
「…え……」

思ってもみなかった言葉にルートは凍りついて、足まで止まった。


「おい、何してんだよ?行くぞ?」
と、兄の方は何を言ったのかわかっているのかいないのか、何でもないことのように振り返る。

そして、はぁ~っと息を吐き出しつつ苦笑した。

「その様子じゃ出来てねえな。
ま、しょっちゅう口にするような事じゃねえから、この機会に言っておいてやる。
俺らは敵に殺される立ち位置の人間だ。
刺されようと切り刻まれようと生きて生きて一体でも多くの敵を倒して…出来る事なら後衛を逃がす活路を見いだせればよりベターだ。
でも後衛は普段は攻撃受ける位置にいないからな?
守る相手がいなくなった時に耐えられねえだろ?
即死させてもらえればいいが、そうじゃない場合俺らの非じゃねえ苦痛を味わうし、下手すれば生け捕られて死んだ方がマシな目に遭う事もある。
だから、もう逃がせないし自分も持たない…後衛1人敵のただなかに残す事になる…そんな状況になったら、俺らがする事は後衛を一息に殺してやることだ。
トーニョに聞いたところによると豪州支部の後衛も死因は敵の攻撃じゃねえ。
前衛の武器だったらしいぜ?」

「…そんな……」
ルートはさらに固まった。


ジャスティスになって3年。

元々武道家の家で鍛練はしていたとは言っても、異形の敵と実際に命のやりとりをした事は到底なく、慣れるまでに1年かかった。

先にジャスティスになっていた兄のフォローを受け、ジャスティスになったのは12歳の時だがずっと本部で育ってきたフェリシアーノに慰められながらも、しばらくは戦闘に出て戻るたび吐いていた。


それでも乗り越えられたのは兄はもちろんだがフェリシアーノがいたからだ。

死守すると言う事はいつも思っていても、自分が刃を向けるなどと言う事は考えた事もない。

そう言うと兄はいつもの弟を労わる兄ではなく、絶対者のお館様の顔で

「慣れろ」
と言った。


「今までは本部は余裕があったからな。
半分演習気分のぬるい戦いで済んでたが、たぶんこれからは色々覚悟が必要になる」

「兄さんは……じゃあ、アーサーを自分で手にかけられるのか?」

そう、兄は今回極東から来て自分のパートナーになった少年を溺愛と言って良いレベルで可愛がっているように思える。

それでも彼に対してもそんな事を考えられるのか?と思って聞くと、ギルベルトは何をいまさら?と言ったような不思議そうな顔で

「当たり前だろ」
と言った。


「タマにそんな辛い思いなんてさせるくらいなら、俺様が苦しんだ方がマシだ。
絶対に…手をかけた感触なんて、きっと何度生まれ変わっても忘れられない。
生を受けるたびに自分を呪うかもしれねえけど…タマを苦しませるくらいなら、俺様が全部苦しみを背負って死んだ方がいい」

…そう…覚悟したんだ……

と、兄は最後に本当に辛そうにそう呟いて、

「ということで、お前もパートナー持った前衛なら覚悟しておけ。
行くぞ」
と、ふたたび鍛練室へと歩き始める。



「…フェリシアーノを……殺す…覚悟……」

できるわけがない…でもしてやらないと…

そんな風に葛藤をしながら、それでも重い足をなんとか動かしつつ呟くルートに、ギルベルトはもう兄の顔に戻って

「ちげえよ。苦しませないために自分が苦しんでも相手を楽にしてやる覚悟だ」
と笑みを向けた。


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