青い大地の果てにあるものGA_7_1

「なあ、タマ…」
「ん~?」
「なんでこの体勢なんだ?」
「あ~…せっかくお集まり頂いてるレディ達に対するサービス?」


いつもの鍛練室。

棒術と筋トレとそれぞれ鍛練の方法は違うものの、同じ部屋でトレーニングをしていると、わらわらと部屋の入口にはカメラを構えたレディ達。


最初はその勢いに驚いていたアーサーもだいぶそれに慣れたらしい。
今では鍛練の合間にリラックスして寛いでいる……ギルベルトの足の間に座って……


ペタンと座ったギルベルトの身体を背もたれ代わりにして、ギルベルトの手からギルベルトが飲んでいたミネラルウォータのボトルを奪い取って一口。

ギルベルトが首から下げていたタオルを引っ張って当たり前に自分の額の汗を拭く。


「なあ、タマ…」
「あ?」

「タマってさ、パーソナルスペース広い方かと思ってたんだけど…意外に他人が側にいるの平気だったりすんのか?」

ギルベルト的には別に拒む理由もないのでしたいままにさせている。

だが、そもそもがギルベルト自身も極東の出身で、極東という地域自体があまりスキンシップが密な地域ではない事も知っているので、余計に不思議に思って聞くと、アーサーは、ん~…と、視線を天井に向けて考え込んだ。

「くっついてるって意味で言うと、ちっちゃい頃から桜といつもくっついてたからな。
気になんないな。ただし相手による。
世界中の男の9割くらいは半径2mの範囲内に近づいて欲しくないくらいで…」

「9割かよっ!」

「敵意にしても欲望にしても、勝手に気持ちを募らせてぶつけてこられて楽しくはないだろ?」

「まあ…そうだけど……」


どうやら自分はその勝手にぶつけてくる男に入っていない事にホッとしながらも、女なら良いのか?と少し疑問に思う。

本部だとエリザを始めとして女性の方がテンションが少しばかりアレな奴が多い。


「本部は…女もアレだぞ?」
と思わず言うと、

「レディは少なくともハグさせてくれって言ってハグならって言ったらいきなり押し倒してきたりしないだろ?」
などと恐ろしくもありえない発言をされて、

「男でもそれはねえよ、普通」
とギルベルトは絶句した。


「とりあえず…男でも女でも、タマにそんな事しようとする奴いたら、マジ俺様に言えよ?!」
割合と真面目にそう言うと、

「はいはい。期待してるぜ?ジャスティス最強のお館様?」
と、軽く流された…ところに、それを証明する機会が訪れたようだ。


「ギルちゃん、み~つけ♪そっちの坊ちゃんが噂のアーサー?」

と、入口のあたりに固まるお嬢さん達をかきわけて寄って来た男の姿を見るなり、ギルベルトはサッと立ち上がって、アーサーを背に隠す。

このギルベルトの旧友フランシスは本当に綺麗な男だ。

ギルベルトも整った顔をしているが、どちらかと言うと精悍でキツイ印象を与えるような容姿であるのに対して、フランシスはいかにも優男と言った、柔らかい雰囲気の美しさで、しかし綺麗過ぎる顔にはやしている髭が、ともすれば女性的な方向性の美しさに男くささを醸し出している。

フランシスはそんな綺麗な顔に

「ちょ、ギルちゃん、いきなりそれひどっ!」
と、なさけない表情を浮かべるが、ギルベルトは容赦なくジュエルをアームス化して剣を突きつけた。

「な、なんなの?!ギルちゃん!!お兄さんイヴィルじゃないよっ!!」
と、焦る男に対して

「ギルちゃんが正しいわ~。自分すぐケツ揉むしな」

と、棒っきれを抱えていきなり現れたアントーニョが突っ込みをいれて、その後、鍛練つきあったって~っと、アーサーに向かってニコリと微笑みかける。


それに対して

「ペドってるお前に言われたくありません~!
お兄さんは確かに老若男女、美しければOKだけど、うちの医療本部のお嬢さん達に、
『アーサー君はギルベルトさんのものだから手を出したらオコですよ?』
って言われてるから、この子に関しては自重するもん。
お嬢さん達にストライキされたら、お兄さん色々終わっちゃうし…」
と、フランシスは口をとがらせつつ言う。

こちらも就任して間もない医療本部長で、新米のトップよりは古参の部下の方が立場が強いと言うのはいずこも同じらしい。

しかしそんなフランシスの実感のこもった自重発言はどうでも良いらしく、アントーニョは自分の事に関してのみ

「親分、ペドちゃうわっ!
子どもは好きやけど、ケツ触ったりせえへんもんっ!!
子どもっちゅうのはな、手ぇ出したらあかんねんっ!
相手に必要な時以外は適度な距離を置いて観察させてもろて癒されるんが、親分を始めとするほんまもんの子ども好きやっ!」
と訂正し、哀れな医療本部長を後ろからどついた。

「まあ…優秀な医療本部の部下達が見張ってるっつ~んなら良いけど……」

と、それでもまだ半分警戒をしながらも、ギルベルトはちらりと後ろにかばったアーサーに紹介をする。

「あの髭男が本部の医療班のトップのフランシスな。
俺やトーニョの悪友。
老若男女OKな変態だけど、タマに関しては医療班の優秀な部下が見張っててくれるらしいから、医療行為の最中、なんかおかしな行動したら即叫べよ?
まあ俺様もタマが医療本部にお世話になる時は極力一緒に行くようにはするけどな」
と、やはりしっかりと男とアーサーの距離を近づけないようにして言った。


男…フランシスはそんな2人に対して、

「2人ともひどいわっ!」
とよよっとハンカチを噛みしめるが、それでも医療本部長と言うのは本当らしい。

「もう!良いけどねっ!
医療本部には来なければ良いなら来ない方が良いわけだし…。
でも来る必要が出来たら遠慮なくおいでね?
お兄さんが嫌ならお兄さんの優秀で美人揃いの部下のお嬢さん達がちゃんと診てくれるからね?
特に極東はデータ見せてもらった限りでは無理しすぎ。
サボりまくるのもよろしくないけどね、戦闘には休む時は休んで万全のコンディションで臨もうね?
本部はそれでも回るくらいの数のジャスティスいるから、大丈夫だからね?」

と、悪友2人の事をスルーして、そうアーサーに伝えて来た。
悪い人間ではないらしい。


そしておもむろにちょいちょいとギルベルトとアントーニョに手招きをする。
そのまま何事か相談…。
3人揃って難しい顔をしていると言う事は、良い話ではなさそうだ。

…例の件なんだけど……誰が伝えるの?
…あ~、親分、このあとちょお棒でやりあって、それから呑みにでも誘ってその時と思うててんけど……
…なんのことだ?
…こういうことな……

おそらく遠隔系で聴覚の優れているアーサーの耳に聞こえる事を考慮してのことだろう。
アントーニョがギルベルトの手を取って何か書いた紙を渡す。

それを見て顔色を変えるギルベルト。
そして沈痛な面持ちで

…タマには俺様が2人きりで伝えるから…桜にはエリザに伝えるように頼んでくれ。
…お兄さんは?いなくていい?
…あー…フランは今後ヒーラーの桜とは連携あるかもしれねえし、エリザと同席だな
…親分は?
…トーニョは……あー…むしろあとのジャスティスに?
…おん、わかったわ…
…じゃ、そういうことで…な…

と、そこで話を打ちきって、ギルベルトはアーサーの元へ戻って来て

「タマ、今日はこれで鍛練終了して、食堂で菓子でも貰って俺様の部屋で食おう?」
と、ぎゅうっとアーサーの身体を抱きしめる。

「…良いけど……お前、大丈夫か?」
どこか辛そうなギルベルトを見あげてアーサーが言う。

「ああ、大丈夫…だけど、ちょっと休みたい気分なんだ」
アーサーを抱きしめたままその黄色い頭に顔をうずめた。


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