ちびちびパニック前編2_青い大地の果てにあるもの番外

事の起こりは今朝のこと、最近少し沈みがちだった双子の兄ロヴィーノが珍しく鼻歌まじりにキッチンに立っていた。

物腰がぶっきらぼうなロヴィーノは対人間関係に関しては不器用なのだが、実は手先は非常に器用だ。
スラリとした細身の身体に黒いエプロンをまとい、くるくるとピザ皮を作っていく姿はなかなか様になっている。

いつもならそこに自家製トマトソースにフレッシュトマトとバジルが定番なのだが、今日は珍しくじゃがいもが乗っている。

「ヴェ~。ジャガイモのトッピングって兄ちゃんにしては珍しいよね」
と、兄がそれを釜に入れるのを眺めていたフェリシアーノの前の大きなサラダボールには、やはりジャガイモ料理、ポテトサラダ。

そのボールの後ろを何か小さな影が横切ったように見えたが、次の瞬間、

「おお~、なんだ、爺ちゃんのためにご馳走か?」
と、いきなり現れた祖父ローマがフェリシアーノの前に立ち、フェリシアーノの意識はそちらに向く。
そしてローマは当たり前に綺麗に整えられていたサラダを手でヒョイっとつまんで口に運んだ。

「何しやがんだっ!このクソジジイ!!」
とそれを見て激怒して殴りかかったロヴィーノの手は、しかし空を切った。

ローマが後ろへ倒れたからだ………口から泡を吹いて……

「ええ??!!!」
幸いになのか不幸にもなのかわからないが、後ろには丁度フェリシアーノが立っていたため頭を打ったりはしなかったわけだが、勢いで一緒に床に尻もちを付くことになったフェリシアーノは涙目だ。


こうして二人で祖父を抱えて行った医務室には何故か部長のフランの姿はなく、ちょくちょくストライキと称して遊びにいってしまう困った上司の尻拭いを余儀なくされている直属の部下ゆうりに診察をお願いする。

「ローマ部長も食中毒ですか……」
ひと通り状況を聞いて診察をして治療をした後、そうつぶやくゆうりにフェリシアーノは
「“も”って、他にもいるの?」
と聞く。

確かに季節的には食べ物が悪くなりやすい季節ではあるのだが、ブルーアース内で食中毒が出たなどという話は聞いた事がない。

食中毒という診断が出た時点でロヴィーノは落ち込み過ぎて放心状態だ。

とりあえずあいつに食わせる前だったからまだ良かったけど…とグズグズと鼻をすすっているところをみると、どうやら好きな相手にでも食べさせたくて作っていたのかもしれない。

「えと…ね、今度はちゃんと材料吟味してまた作ればいいじゃない?」
兄のあまりの落ち込みっぷりにフェリシアーノはそう慰めの言葉をかけるが、
「そんな変なモン俺が使ってると思うのかっ?!ちゃんとついさっき食堂で分けてもらった材料使ったんだよっ!それでこれじゃあもう怖くて作れねえよっ!食わせた相手に倒れられたら立ち直れねえっ!」
と怒鳴られる。

うん…爺ちゃんだったらいいんだね……という言葉は飲み込んでおく。

そんなクルン兄弟をよそに、ゆうりは頬に片手を当てて考えこむ。

「そう…なんですよねぇ…。うちの部長も仕事についてはとにかくとして、料理にはプライド持ってますし、いい加減な事しない人なんですけど……」
と、こちらも微妙に上司について色々思う所がありそうな発言だが、それよりも重要なのは、“も”という一言だ。

「ね、フランシス兄ちゃん“も”って事は…他にも何かあったの?」

フェリシアーノが聞くと、ゆうりはそこでハッとしたように口をつぐんだが、フェリシアーノの視線に諦めたように、内緒ですよ、と、言いつつ教えてくれた。

「実は…うちの部長も今日料理してたんですよ…。先日のイヴィル襲撃の際に大忙しだった医療班のみんなにお疲れ様って事でマカロンを焼いてくれたんですけどね…丁度通りかかってつまみ食いしたギルベルトさんが……」

「ギルがどうしたんだっ?!」
ゆうりの口からギルベルトの名前が出た途端、それまでがっくりとうなだれていたロヴィーノがいきなり顔を上げてゆうりに詰め寄った。

驚くフェリシアーノとゆうり。

確か昔からブレインとフリーダムは仲がよろしくないので、ブレインの副本部長であるロヴィーノとフリーダムの本部長のギルベルトは当然のように仲がよろしくない…以前に接点がないと思っていたのだが…

「もしかして…兄ちゃんが今日作ってたジャガイモづくしの料理って…」
と、言いかけたフェリシアーノを

「うるせえっ!!黙れっ!!!」
と、ロヴィーノが思い切りどつく。

一方…ゆうりを筆頭とした医療班のお嬢さんたちは『なにそれkwsk!』と耳がダンボ状態だ。

「あの…今、やっぱり食中毒で運び込まれてあちらの病室に…」
とゆうりが言うと、止める間もなく…まあ誰も止める気はないのだが…部屋へ飛び込んでいった。

意外な展開にさすがに目が点なフェリシアーノだったが、その後も続々と食中毒の患者が運び込まれて来るのに従い、さすがに危機感を持った。

このままでは危なくて何も口にできない…イコール飢えて倒れる!
そんな怖い未来が脳裏によぎった時に、

「大変だっ!!!」
と、医療本部の自動ドアが開いて入ってきたのは、ここの主、医療本部長のフランシスだ。

その手にはダークマター…もといダークマター………もしかしたらスコーン?の皿が乗っている。

「…うん…フランシス兄ちゃん…それは…食中毒以前の問題でお腹壊すと思う……」

アーサー作のスコーン、別名ダークマター。
以前うっかりその欠片を口に放りこんだ時は身の危険を感じて即吐き出しだものの、口から泡を吹いてのた打ち回った。

その時の経験を思い出して青くなるフェリシアーノの腕をガシっと掴んだフランシスは
「騙されたと思って食べてみろっ!」
と、抵抗する間もなくそれをフェリシアーノの口に押し込んだ。

うぎゃあああ~~~と心の中では悲鳴をあげるものの、実際は口いっぱいにダークマターが詰め込まれていて声を出せない。

グイグイと押し込まれて窒息しそうになり思わずそれを咀嚼すると…

「…?!!あれれ??…美味しい」
「だろっ?!」

いつもならガリガリとした食感に苦いんだか生臭いんだかよくわからない、とにかく強烈な味が口いっぱいに広がるのだが、今回のこれはサクサクっとした歯ざわりにさわやかなほろ苦さと甘みが絶妙なハーモニーを作り出している。

「今基地内のあちこちで食中毒が発生してるんだけど、それ見たアーサーに『よく火を通さないからだ。これなら大丈夫』ってこれを口に押し込まれた時にはもうお兄さん死亡フラグかと思ったんだけど、何故か美味しいんだよ、このダークマターがっ。これ絶対におかしいよっ。ただの食中毒じゃなくて、何か変な事が起こってるんだよ」

アーサーのスコーンが美味しい…そんな天と地がひっくり返ってもありえない事が起きている…。

これは絶対におかしい!!!
その誰しもが思っても口に出さない事実を声高に叫んだ勇者は、続いて医療本部のドアをくぐったアーサーから思い切り蹴り倒された。

「まあ…少しばかり焦がしたのは事実だが…」
コホンと咳払いするアーサーの肩にはキラキラと輝く小さな羽根の生えた少女。

「うわああ~。アーサー、どうしたの?その子。すっごく可愛いねっ!!」
フェリシアーノの注意は眼前で倒れているひげの本部長を通り越して、彼女に向かったようだ。

「その子って…まさかこの人ですか?」
フェリシアーノの言葉にゆうりが思い切り可哀想なモノを見る目で床で伸びているフランシスとフェリシアーノを見比べる。

「えと…もしかしてゆうりちゃんには見えてない?アーサーの隣の可愛い女の子」
きょとんとするフェリシアーノに
「ああ…こいつ俺のジュエルの使用によって呼び出す妖精でほぼ俺以外に視えないんだが…フェリに視えるのはもしかして今起こっている事と何か関係してるのかもしれないな。」
とアーサーも少し首をかしげた。

『えっとね…たぶんその子アーサーの作ったモノを食べたからだと思うわ。今基地内のあちこちで食べ物に変な効果のあるものがばらまかれてるから…』

と、銀の鈴が震えるような澄んだ高い声で妖精が説明する。

「え~?!じゃあ兄ちゃんの料理食べて爺ちゃんが倒れたのもそのせい?」
驚くフェリシアーノに妖精はうんうんとうなづいた。

「えとな…妖精さんが教えてくれたんだが、今回の騒動はどうやら小型化して侵入したイヴィルのせいらしい。
妖精さんの協力で侵入経路は塞いだんだが肝心の忍び込んだ奴がまだ見つからねえ。
微弱な波動を出しながら移動してんだけど、小型化してるから俺の大きさじゃその小さな波動を拾い切れない。
妖精さんも出しておけるのそろそろ限界だし、俺も小型化するから、フェリお前も協力…」

と言うアーサーの説明は

「ゆうりさんっ!大変ですっ!!!」
という医療部員の藍の声で遮られた。

「どうしたのっ?!誰か様態変わった?!!」
バッと振り向くゆうりに藍が叫ぶ。

「睡眠薬が効きませんっ!!」
「はぁ??!!」

フランのおかげで突発事項もおかしな事に対する対応も慣れているはずのゆうりも一瞬目を点にする。

「さっきロヴィーノさんにコーヒーを持っていったんですが…」
「…まさか…また仕込んだの?」
「はいっ!仕込みましたっ!!」

にこやかに宣言する藍にゆうりはがっくり肩を落とした。
自分の周りはなんでみんなこうなんだろう……遠い目をするゆうりに、藍は詰め寄る。

「ゆうりさん、放心してる場合じゃないですっ。非常事態ですよっ!」
この場合…非常事態をわざわざ引き起こしているんじゃないかしら…と、ツッコミを入れていいやらどうやら悩んで迷っているゆうりに、藍はさらに言う。

「ロヴィーノさん、眠らないでいきなりギルベルトさんにすがりついて泣き出しちゃったんですよっ。あのツンデレがポロポロと…」

「ちょ、原因は?!」
「わかりませんっ。私睡眠薬仕込んだだけで怪しいものなんて入れてませんし…」

いや、いきなり睡眠薬入りコーヒーは十分怪しいから…と、思いつつも指摘するだけ無駄だとゆうりは
「いいわ。ちょっと診てみるから」
と、慌ただしくロヴィーノがいるギルベルトの病室へと入っていった。


それを呆然と見送るフェリシアーノ。
当然ながらアーサーの説明は耳に入っていない。

そしてゆうりが病室へ消えると同時にアーサーを振り返り…

「どうしようっ?!兄ちゃんまで何かあったらっ」
と、アーサーに抱きつくのと、アーサーがほあたっ!と言う掛け声と共に星型のステッキを振り上げたのはほぼ同時で……

もわもわっとした煙が立ち上って消えた後、世界が急に大きくなった…。
…いや……本当はフェリシアーノの方が小さくなったわけだが……。

「えっと?小さくなった?俺何を手伝えばいいの?」

他の人間ならパニックを起こしそうな状態なのだが、意外に適応能力があるらしいフェリシアーノは当たり前に事実を認識してそう聞くが、アーサーは深く深くため息をついた。

「あの…な…。急に抱きつくから巻き込んじまったじゃねえか。ホントは小さくなったら移動もその分一苦労だからお前に移動手伝えって言おうと思ったんだ。二人して小さくなったら意味ねえ…」

「え?あ…そうだったんだ。ごめんねッ」
テヘっと笑うフェリシアーノに怒る気もしない。

「まあ…二人して小さくなっちまったもんはしかたねえ。移動協力させる奴見つけに行くぞ…」



「…というわけなんだよ。」
エヘヘっと頭を掻くフェリシアーノ。

ひと通り説明を受けた羽子はようやく事の内容を理解した。

「ようは…小さい分距離が長くなって移動が大変だから私に運べと、そういう事なんですね?」
一応確認を取ると、チビ天使が二人してうんうんとうなづいてつぶらな瞳で羽子を見上げる。

ああ…眼福…。

ウットリしている場合ではなく、このままでは何も食べられないという非常に切羽詰まった状態なわけだが、萌えは全てを凌駕する。

羽子はこの瞬間、確かに幸せだった。





0 件のコメント :

コメントを投稿