紅い鎖_1

プロローグ


夕日が赤く空を染め上げている。
そこは海の上だった。

右を見ても左を見ても水、水、水の大海原に、大型とは言えないまでもそこそこ大きな船。

一隻の丈夫そうではあるが立派とは言えない船が、そろそろ日が落ちかけている中、休むことなく海上を進んでいた。

乗っているのは屈強ではあるがどこか野卑な感じのする船乗り達。
その中にわずかながら上級ではないが一応貴族に名を連ねる使者達が乗っている。

欧州の西の果て、海を隔てた島国のイングランドから出港したその船の向かう先はスペイン帝国。
目的は怒れる大国を沈めるため、花嫁という名の生贄をささげる事であった。


ザラリとした縄の感触。
元は真っ白であっただろう細い両の手首は、それをまとめて縛る縄に擦れて赤くなっている。

さすがに生贄と言えども大国様に捧げる嫁である。
顔が同様の状態になるのは頂けないだろうと、口に施された猿轡は綿の布だが、だからと言って心地よい物だとは言い難い。

そんな拘束具とは裏腹に、収穫時期の黄金色の小麦に似た色合いの髪に挿された白いバラは不思議な事に枯れる事無く芳しい香りを放ち、まだ大人になりきれない細い身体を包む真っ白なドレスは上等な絹で出来ていて、ふんわりと心地よい肌触りである。

しかしそれさえも拉致され拘束される不快感を和らげる事はない。


船の奥。
広さだけはある粗末部屋の中、板の間にわずかばかり敷かれた絨毯の上が花嫁という名の生贄、英国の国体イングランドのスペースだった。



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