温泉旅行殺人事件アンアサ 中編_12

その後聞きたい情報を和田から全て聞き出してギルベルトは頭の中でそれを整理し始める。
犯行推定時刻は17:20から18:40。
18:40というのはギルベルトの推測通り20:40に発見された遺体の状況から死後2時間以上はたっていると判断されたためらしい。
そして、17:20に関しては、17:20丁度に小澤本人からマッサージの予約の電話が入った為だと言う。

旅館側では電話での口頭でのやりとりは後でトラブルにもつながるため、全て録音してあるそうで、そのやりとりのテープと警察が取り寄せた小澤自身が吹き込んだ自宅の留守電を調べたところ、ほぼ同一人物である事が証明されたとのことだ。
結果、犯行推定時刻は生存が確認された時刻から遺体発見2時間前までの1時間20分の間という事になる。

遺体は正面から数回刺された状態で湯をはった浴槽で発見された。
死因は失血によるショック死。凶器のナイフは遺体に刺さった状態で発見されている。
離れ全体に争った形跡があり、特に殺人現場となったのであろう寝室には争った後以外に何故か切り刻まれた血のついた大量の衣服が散乱していたとのことだ。
犯人は何故か被害者が持参した全ての衣服を引っ張りだして切り刻んだらしい。
その事から犯行自体は少なくとも30分以上の時間は要したものと思われる。
指紋は小澤が泊まる前に旅館の清掃を行った従業員と、小澤本人のもののみ。
その従業員はその後のアリバイあり。
夕食については予約時に本人から不要の旨を知らされており運んでいないため、遺体の発見が遅れている。
遺体発見時には離れの鍵はかかってなく、ドアは閉まっていた。

遺体の状況から犯人もかなりの量の返り血を浴びている可能性が高いが、18:25分頃からは多くの従業員が各離れに食事を運ぶため内庭を行き来していたが、不審な人物を発見したと言う報告はないため、おそらく犯行はその前に行われているものと思われる。

というところまでわかったところで、ギルベルトはフランからきた氷川夫妻のアリバイを確認した。
妻の澄花は17:30から18:50までずっとラウンジにいるのを番頭が証言している。
もちろん番頭が席を外した事はあったが、基本的に5分以内で、戻って来たらやはりいたので、犯行を行うのはもちろん、離れまで行って帰って来るのすら無理だ。
夫の雅之は17:30の時点でフロントで露天の鍵を受けとって外庭に出ている。
冬なので日の入りは早く、その時点ではもうあたりは暗く、どんなに急いでむかっても露天までは25分。
ということで露天に着くのは早くて17:55。
そこから即引き返しても母屋につくのが18:20。
そこから離れまでたどりついて18:23くらい。
その頃にはもう従業員がウロウロしているため17分で犯行を全て終わらせて血まみれの状態で自室に帰るのは不可能に近い。
19:00から19:50分までは夫婦共に離れで食事。その間どちらかが離席していたということもない。
これは料理を何度も運んでいる従業員が証言している。

17:30にフランが見た時になかった雅之の腕時計が19:30にあったということは、その間に絶対に露天に行ったという事で…実は行ったふりをしただけというのもありえない。
アリバイは完璧すぎるくらい完璧…お手上げだ。

「俺…実は間違ってるのかな…犯人は別にいるのか…」
ギルベルトは手を枕にしてゴロンと寝転んで天井をみあげた。

せっかく好きな相手と温泉旅行に来たのになぁ…とギルベルトはため息をつく。
別に奪うつもりなど毛頭ないが、それでも楽しそうにはしゃぐ様子を見られるのは正直自分も楽しかった。
フランがふざけて蝶の浴衣を着た時は男の部屋にそんなものを置いておく旅館に腹が立ったものだが、その後アントーニョが花火の浴衣のアーサーを抱きかかえてきた時は、旅館もアントーニョもGJと思ったものだ。

あ~ちくしょ~!男のくせに可愛いよなっ!
そう考えた瞬間、ギルベルトはふと思った。
自殺した親友には…彼氏とかいなかったんだろうか…。

とりあえずフランに、20年前このあたりの崖で自殺した女性の事件について秋に調べてもらえないかとメールを入れておく。
彼氏うんぬんは別にして、動機を探る上で氷川澄花と小澤の過去がわかるとありがたい。

他に手掛かりがない以上、犯人が氷川夫妻というのは決定事項として考えを進めて行こう。

旅館の人間が共犯とかいうオチでなければ犯行推定時刻である17:20から18:40までの夫妻のアリバイは完璧だ。崩せない。
とすると…発想を転換させよう。
犯行推定時刻自体が間違っている可能性は?
夫妻は19:50までは離れにいたのは証言されているから、フリーだったのは20時以降。
いくらなんでも犯行後1時間たってない遺体を犯行後2時間以上たっているようにみせかけるのは無理だ。
とすると、可能性があるのは事件が行われたのが犯行推定時刻前という事。
皆で母屋についたのが15時過ぎ。
それから2時間強に関しては誰もアリバイがない。
17:20にあった本人からの電話、それを覆せればアリバイがくずせる。

17:20に本人が生きてないとすると…本人から電話がかかってきたというのがありえないわけで…。
声紋が一致しているらしいから、その比較対象になったデータが改ざんされている?
旅館側は旅館の人間の声もあるから無理として、改ざんされてるとしたら自宅の留守電か…。

和田に小澤の簡単な身辺の情報と留守電が確かに本人の声なのか、改ざんされてる可能性がないかを調べてもらえる様にメールを送った。
ついでに念のため氷川夫妻の簡単な身辺の情報も頼んでおく。

あとは…自分が拾ったペンダントか。
チェーンに女物の指輪が通してあり、その指輪の裏側には”K to S” と彫ってあった。

小澤の離れの側で拾ったのだが、中でならとにかく、離れの側に落ちていたというだけだからいくらでもいいわけはできる。

それをフロントに届けようとしたとき澄花にあって自分のだと言うから返して…。
その時自分がそれ持ってるの知られたくないから絶対に誰にも言わないでと言うから、浮気でもしてるのかと少し思ってもみたのだが…。

Sは澄花のSで…Kって光二のKだろう。

それ…なのか?
そう言えばフランのメールでも浮気云々という話がでていたし…。

ギルベルトは考え込んだ。

澄花がまだ小澤と続いてて、それに嫉妬した雅之の犯行?
そして澄花がそれをかばってるのか?
いや、今回の殺人はもっと早い時期から練られているはずだ。
でないと離れた場所にある小澤の自宅の留守電に細工などできない。
むしろ昔の事で何か澄花がゆすられていての方がありえるか…。


Before <<<       >>> 後編へ


0 件のコメント :

コメントを投稿