ネバーランドの悪魔1章_2

悲しき魔王


その後、結局男はロヴィーノの話を聞いて納得したのか、自分の家にロヴィーノを連れていき、自分は魔王なのだ、と、名乗った。

普通なら頭おかしいんじゃないか?と思うところだが、ロヴィーノはそれをあっさり信じた。

信じるしかない。
何故なら男は当たり前に何の抵抗もなく世界の果ての結界を越えたばかりでなく、普通に死ぬこともロヴィーノを死なせる事もなく、そこから遥か先の山の上までひとっ飛びに飛んで帰ったからだ。

「一応自分が来たからこの山の周囲には結界張っといたけど、山から遠く行ったらあかんで?呪いにあたって死んでまうからな。」

かつて北の国の大魔導師であった当時の王子が命を賭して張ったという結界をあっさり張るような魔王のことだ。
その気になれば北の国など簡単に滅ぼせるのではないか?
なのに何故こんな山奥で一人ひっそり住んでいるのか…。
これでは魔王というより隠者のようだ…。

そんなロヴィーノの疑問に魔王は答えた。

「昔な~まだ東西南北の国があった頃、俺の大事な子が死にかけてる時に手差し伸べて助けようとしてくれたんが、当時の北の国の王子やってん。
…結局はそいつが来た時にはもう手遅れやったんやけどな。
せやから北の国だけは残したったんや。
で、この場所は俺の大事な大事なアーティが死んでもうた場所で…この山は二人が一緒に過ごした思い出の場所やねん。」

「東西南北の国って…何百年前の事だよっ?!それからずっとここに一人でいんのか?」

「あ~、なんだか俺は死ねへんねん。昔は人間やったんやけどな。
アーティが死んだ時に魔力暴走させて、その時死んだんかな~って思ってたんやけど…なんや生きとるし、死のう思うても死ねんのや。
食わんでも腹は減るけど死なへんし、刺してみてもあっという間に傷が塞がってまう。
世界滅ぼした罰なんかなぁ…」

魔王はへらりと笑うが、その奥に悲しみがちらほら見え隠れする。

「あの子が死んでまう前に二人で一緒に北の国にでも生まれ変わろか~って言うとったのに、約束果たせへん。」

寂しさ、悲しさを表に出せない時…ロヴィーノは怒ったが、魔王は笑うのだろう。
なんだかその不器用さに他人の気がしなくなっていた。

「あのなっ!」
ガシっとロヴィーノはその腕を掴んだ。

「そいつと一緒に生まれ変われないなら、生まれ変わったそいつを迎えに行けばいいじゃねえかっ!
それでここで一緒に暮らせばいいんだよっ!!」

子どもなりにかなり真剣に考えた結果だった。
しかし魔王は子どもに対するように ――実際ロヴィーノは子どもではあるのだが―― クシャクシャと頭をなでると、ただ、そうできたらええなぁ…と、まるで出来ない事を語るようにつぶやくと、その話を切り上げた。

こいつ…魔王のくせに全然駄目だっ。
俺がなんとかしてやらなきゃっ!
そう思ったのが悪魔ロヴィーノの始まりだった。

それからロヴィーノは多くを学ぶため長く時を生きたい…そう魔王に望み、最初は相手にしなかった魔王をやがて説き伏せ、人間ではありえない長い時を魔王と共に生きることになったのだった。




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