のっと・フェイク!中編_1

叔父の本気


「メアリー…ヴィクトリア…いや、マーガレットもいいな」
立派な眉毛を寄せて子どもの名前に真剣に頭を悩ませているのは子どもの父親ではない。
不仲だったはずの子どもの母親の兄、スコットランドだ。
子どもの父親であるスペインから子どもが出来た報告を受けて、いきなりこの状態だ。

もちろん安定期に入るまではなるべく他には伏せておくようにしていたが、体調の優れないイギリスの代わりに会議などに出てもらうため、兄弟には伏せられない。

絶対にバカにされるか嫌悪されるか叱責される…と怯えるイギリスのため、スペインはイギリスをロマーノにまかせて単身スコットランドに会って来たわけだが、妖精の贈り物で子どもが出来たと伝えるスペインの言葉を聞いたスコットランドは、まず、何もない横に向かって
「…本当か?」
と尋ねた。

どうやらそこにはスペインには見えない妖精がいるらしい。
そこで本当だとわかって、さあ嫌味の一つでも言われるのか…と、覚悟したスペインに向けられた言葉は、意外にも

「よくやった。褒めてやる。」
だった。

褒める?何を?なんで??
イギリスがここに居なくて良かったとスペインは正直思った。
それでなくても子どもが出来て以来少々情緒不安定気味のイギリスだ。
こんなわけのわからない事をいきなり言われたら悪い方に考えすぎてノイローゼになりかねない。
スペインですらわけの分からなさに若干パニックを起こしそうだ。

続いてスコットランドの口から出てきたのが冒頭のセリフなわけで…

「あの?とりあえず…意味不明なんやけど…」
イギリスだったらここで涙目で震えているのだろうが、そこはさすがKY国家だ。
思ったままを口にすると、スコットランドはどうやらそこにスペインがいることを一瞬忘れていたらしい。
少し驚いたように立派な眉を片方ピクリとあげて、次に意外にも出会ってから初めてくらいスペインに向けて好意的な穏やかな笑顔を向けた。

「愚弟には子どもが生まれるまで身体を大事にするように言っておけ。
あいつにくれぐれも無理させんじゃねえぞ。無理させやがったら呪うからな。
懐妊祝はUKの威信にかけてとびきりの物を贈るから楽しみにしとけ」

これ…何かの罠とかやないよな…と、それまでの兄弟仲の悪さやらスペインに対する態度やらを見ていたら、どうにも信じられないような応対で、さすがにスペインも確認したくなる。

「あの…自分子どもとか…イギリスの事とか、俺の事とかも嫌いやったんちゃうん?」

恐れ知らずにそうストレートに疑問をぶつけるスペインに、スコットランドは少し眉を寄せ、ぁあ~?!と、睨めつけるような視線をスペインに送る。
さすが元ヤンの兄である。
気の弱いモノなら泣いて謝って逃げそうな迫力だが、スペインには何を置いても守るべき者がいるのだ。
その視線を真っ向から受け止めて

「俺にやったらええけど、イギリスや子どもに罠やら嫌がらせとかはやめたってな。」

と、はっきり口にした。

自分は父親なのだ。絶対に家族は守って見せる。
そう固い決意とともに睨み返してくるスペインに、スコットランドは少し驚いたように目を見開いて、次に少し苦笑した。

「別に…てめえはともかく、愚弟や子どもは嫌っちゃいねえよ。
まあ…あの顔で女じゃなくて野郎だって事で腹がたった時代はあったけどな。」

「意味…わからんのやけど…」

「女なら甘やかしてやれんだろうよっ。
でも男の場合甘やかして弱々しく育ったら国潰れんだろうがっ。
なのにいかにも甘やかして下さいっつ~ような顔しやがって、ありえねえっ!
寄るなっ近づくなっゴラアっ!撫で回したくなんじゃねえかっ!!
俺らの良識と理性試すような真似させんじゃねえっ!って距離取ろうとすんのはしょうがねえだろっ。
心配しなくても子どもはUK全体で大事に可愛がってやる。」

ようは…可愛い顔してて甘やかしたくなるが、国としてはそれをしたら終わる。
だから、距離を取ったということか…。
そんな事で矢を射掛けるのか、こいつらは……

スペインは脱力した。
自分には到底理解できない行動原理だ。

とりあえず帰宅して、イギリスにもそのままを伝えると、イギリスも複雑な顔をした。
まあ…なんというか…実弟にも理解できないらしい。

しかしその1週間後…トラックで送り込まれて来た高級ベビー用品の山を前に、スペインとイギリスはスコットランドの本気を否応無しに理解することになる。


「…これ……」
ベビーベッドやら哺乳瓶、山のようなベビー服に混じって何枚か入っていたスタイ(よだれかけ)を手に取ったイギリスは、それに施されている淡いピンクの薔薇の刺繍を指でなぞった。
「兄さんがしたんだな…」

イギリスの代理で仕事をしつつ、その忙しい合間に施したらしい刺繍。
どのスタイもデザインは違えど、可愛らしいピンクの薔薇。

そこには生まれてくる子どもへの歓迎の気持ちが見て取れて、イギリスはポロリと涙をこぼした。

こうしてひょんな事からすることになった偽装結婚から育まれた命をきっかけに数百年どころか1000年単位のわだかまりが溶け始めていた。




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