フェイク!2章_1

新婚夫婦の朝の日常


「アーティーおはようさん、良いお天気やで~。
はよ起きな、菊ちゃん達来てまうで~」

相変わらず無駄にテンションの高いスペインに起こされて、イギリスは眠い眼をこすりながら身を起こす。

半身起こしたところで、また
「おはよ~さん、眼こすったら赤くなってまうからやめとき。ホラ」
と、目覚ましにと冷たいタオルで顔を拭かれ、少し頭がクリアになってきたところで、ちゅっと額にキスを落とされる。

「菊ちゃんに会うの久々やもんな~。親友に会うの楽しみすぎて眠れへんかったん?
友達や言うてもやけるわ~。」
と、本気なんだか冗談なんだかわからない台詞を吐くスペインに、イギリスはは~っとため息をついて肩を落とした。

「なあ…今からでも断んねえ?」
「なんで?」
「バレたらどうすんだよっ!!」

そう、イギリスとスペインは偽装結婚だ。
スペインは上司の知り合いの一般人の女性の、イギリスはアメリカの求婚をかわすため、利害が一致して結婚したのだ。

もちろんそれは秘密なわけで…。

「バレたらお互いシャレになんねえだろ?」
本当に…自分のプロポーズを断るためにスペインと偽装結婚したとバレた時のアメリカなど想像したくない。
だからバレないように当分はなるべくプライベートでは他の人間と距離をとろうと思っていたのに、日本からのアメリカと共に結婚祝いに来たいという電話にスペインが出て、勝手にOKを出してしまった。

よりによってアメリカ本人を招くなど本当にありえない。
しかも勘の良い日本と共にだ。

心配すぎて眠れなかったイギリスを他所に、スペインは上機嫌で
「ええやん。アメリカが実際に見て納得して帰ったら、もう疑う奴もおらんくなるし。」
などと、のんきに構えている。

ああ、てめえはてめえの関係者じゃないから気楽だよな…と、恨みがましい眼でイギリスがにらみつけると、スペインは少し苦笑して、
「そんな顔せえへんの。ばれたら親分かてちくられて終わりやで?
別に自分の側の関係者やないからとか思うてへんて。」
と、今度は頬にキスをする。

どうでもいいが、ラテン男はスキンシップが過剰だ。

おはようのキスから始まって、行ってきます、おかえり、おやすみはもちろんのこと、ちょっと席を立つだけでもすかさずキスが降ってくる。
もちろんその間何度も何度もハグするのは当然のことだ。
フェイクな夫婦関係でそこまでするか?と、イギリスはあきれ返るが、スペインいわく

「普通の夫婦ならするもんやし、普段からせえへんかったらいざというとき付け焼刃で演技しても不自然さがでてバレるで?」

と、こちらは普段の裏表のないと言われる性格からは考えられないほど、しっかりと考えて行動しているらしい。

さすがに伊達に国土のほとんどを侵略された状態から覇権国家にのし上がった男ではないといったところか。

馬鹿で単純に見えてもしめるところはしめるんだな、と、イギリスは妙なところに感心した。



結局そんな感じで押し切られて、今日当日を迎えたわけだが、正直イギリスはどうしていいかわからない。

夫婦らしく…というのはどういうものなのだろうか…。

もちろん世の夫婦がどんな感じかとかはドラマや小説、またはご近所などを見て多少は見知ってはいるが、それをいざスペインと自分の間に当てはめてみても、当然しっくりこない。

スペインはあくまでイギリスはイギリスのままでいい、全部自分に任せろというが、任せて大丈夫なのだろうか…。
しつこいようだが、ばれたら色々終わりなのだが……。


「ま、大丈夫やて。過剰に拒絶だけせんといてくれれば、あとは親分が上手くしたるから大船に乗った気でおり。」
くしゃくしゃと頭をなでながらそういって笑うスペインに、イギリスは諦めのため息をついて
「大きい船だって沈まないわけじゃねえし…頼むぞ、無敵艦隊。」
と、肩を落とした。

それ洒落にならんわ~と、少し苦い顔をしながらも、スペインはそれでも怒ることなく、自作の朝食を載せたワゴンからトレイをベッド脇の小テーブルに移す。
そして当たり前にイギリスの口に運ばれるスプーン。

最初は抵抗したものの、夫婦なら…と例の理屈を持ってこられて諦めた。
食べ方はとにかくとして、食事自体は美味しいし、まあいいとしよう。

食事が終わるとスペインが用意した服を着る。
最近仕事で出かける時以外はたいてい任せっぱなしだ。
家に仕事を持ち帰ってやっている事も多いので、正直食事や着替えの支度などの雑事をやってもらえると、仕事にのみ集中できるので助かる。

人間楽な事にはすぐ慣れるようで、1週間もすると本当にほとんど抵抗がなくなった。
こうしてすっかり日常となった朝。
普段ならこれからそれぞれ仕事に出かけたり自宅で書斎にこもって仕事だったりするのだが、今日は休みだ。
日本とアメリカが来るため休みを取った。

掃除はイギリスのほうが得意なので、昨日家中をピカピカに磨き上げたし、出す茶葉も完璧で、茶器もきちんと用意した。
料理はスペインの担当なので、茶菓子は昨日焼いてあり、食事の下ごしらえもぱっちりだ。

客を迎える家主としては準備万端、ぬかりはない。
そう…問題はただひとつ…二人が偽装結婚で、それを決して見抜かれてはならない…その点のみなのだ。




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