フェイク!1章_2

とある新婚家庭の事情


「アーサー、おはよ~さん。はよ着替え~。」

部屋のカーテンがさ~っと引かれ、眩しい!と目を細めると、額にチュッとキスが降ってくる。
ここ1週間で若干慣れた毎朝の風景だ。

自国と違う日差しの強さにイギリスは自覚する。
ああ…ここはスペインなんだ…。



1週間前、イギリスはスペインと結婚した…。
いや、正確にはアーサー・カークランドがアントーニョ・ヘルナンデス・カリエドと結婚したと言うべきか。

この結婚は国同士ではなく個人として仮の戸籍をもらって結婚しているという特殊な状況を差し引いても普通の結婚ではない。

なにせプロポーズの言葉は
「なあイギリス、100年ほど結婚しといてくれへん?」
だったのだから…。




1ヶ月ほど前のその日はスペインとイギリスの二国間会議だった。
お互い一人ずつ秘書を連れただけのごくごく小規模なもので、ほぼ決まっている議題の確認で終わるモノだったのだが、会議後珍しくスペインに食事に誘われた。

遠い過去はとにかくとして、最近は良くも悪くも距離感のある関係だったので正直驚いたが、あえて断る理由もない。イギリスは二つ返事で了承した。

そうして連れて行かれたのはなんとスペインの自宅で…スペインの手料理を食べながら、件のプロポーズの言葉を贈られたわけである。

まず思ったのは『こいつ何を企んでいやがる?』ということで、実際それを口にすると、スペインは苦笑した。

「あ~、実はな~、俺上司の知り合いの娘さんにエライ気に入られたみたいやねん。」
「なんだ、それは?それと俺と結婚するのとどう関係するんだ?
それともただの前置きの世間話か?」
イギリスはさっさと本題を話せという意味で言ったのだが、即断られなかったことで、スペインは少し希望を見出したらしい。
頼むわ!と両手を顔の前で合わせた。

「実はな、上司の立場上断りにくい相手の娘さんらしくてな。
かと言って俺が国や言うことは秘密やんか。
ホンマ好きな相手やったら言うて理解えてもええんやけど、別に知らん子やし、結婚したいわけでもないしな。
年とらんとか普通やないことバレバレやで~って俺は上司に断ったんやけど、上司は普通に断られへんから、俺がペドやから女の子と結婚できひんて嘘ついたらしいんや。」

「…それ…嘘じゃなくないか?」
思わずツッコミを入れるイギリスに、スペインは何か物言いたげだったが、ま、ええわ、と、受け流した。
とりあえず頼みを聞いてもらうほうが重要と判断したらしい。

「でな、信憑性増すために戸籍用意したるから適当なのと結婚せえってことなんや。」
と、続ける。

「で?」
と、イギリスがさらにうながすと、スペインは当たり前に
「国やって事知ってて、結婚できる年で、ペドが好んでもおかしくない童顔の国言うたら自分しかおらへんやん。」
と、イギリスに対して失礼なんだか、自分に対して自虐的なんだかよくわからない言葉を吐いた。

それに対してイギリスは
「事情はわかった。」
とうなづいた。

「じゃあっ!」
「それで?俺の側のメリットは?」
乗り出すスペインにそう言ったのは当たり前のことだろう。

しかしスペインはそのことについては考えてなかったらしい。

「へ?」
と固まった。

「お前の事情は事情として、だからといって俺がお前と結婚する理由がどこにあるんだ?」
「いや…どこにて言われても…」
「…ないのか?」
「…ないっ!」
きっぱりと言い切るスペインに頭が痛くなった。

「あ、でもこのメシ美味いやろ?」
「…美味いけど…それがどうした?」
「親分料理得意やで?結婚したら毎日作ったるわ。」
「…馬鹿か…」
「あのなぁ、他人に馬鹿言うたらあかんで!アホならええけどなっ」
ため息が出た。

「悪いが、この話はなかったことに…」
当然といえば当然ながら、交渉は決裂した。



ある意味モテ期と言えばモテ期なのかもしれない…と、その1週間後のフランスでの世界会議後に誘われたレストランで、イギリスは遠い目をして思った。

「だから…イギリス、聞いてるのかい?」
目の前には元弟。
珍しくきっちりとスーツを着崩すことなく着こなし食事に誘ってきた。
行き先もいつもの大好きなMバーガーではなく、きちんとしたレストラン。

こいつも大人になってきたんだなぁ…と、しみじみと感慨に浸っているイギリスに、その元弟はのたまわったのだ…結婚しよう!…と…。

スペイン以上にありえない。
元とは言えど弟だ。
しかし利害で申し込まれたスペインの時とは違う。
無下には出来ない。
それが受け入れられないものだったとしても、理由は必要だ。

そして…イギリスはついつい口にしてしまった。
嘘をついている…そんな申し訳なさを滲ませて……

「アメリカ、すまない。俺はもうすぐスペインと結婚するんだ。」




「喜べ、スペイン。お前と結婚してやるっ。」
ボロが出ないうちにレストランを出て、帰宅途中に電話した。
随分と投げやりなOKだったと思うが、
「ほんまっ?!おおきにっ!!親分、めっちゃええ旦那になると思うで~!期待しとってっ!!」
と、電話の向こうで本当に嬉しそうな声でそう言うと、まだフランスに滞在していたらしいスペインは、今後のことを直接話したいから、と、イギリスの家に来る旨を申し出た。

「好きにしろ」
そう言って電話を切ったイギリスは疲れきっていた。

あれほど愛情に飢えていた自分が、愛情からくる求婚を断って愛情のない求婚を受けるのはなんとも皮肉なことだ…と、内心自分を嘲笑った。


ひどく疲れた身体を引きずって帰宅して、そのまま何もする気力もなくソファで放心していると、ほどなくスペインが現れた。
そしてドアを開けて家に招き入れたイギリスを見て、少し眉を寄せる。

「…なんだ?」
「なんだやないやん。イギリスめっちゃ顔色悪いで?大丈夫なん?」
そう言いつつ奥へとイギリスをうながす。
「少し疲れてるだけだ…。」
なんとなく目元が熱くなって涙が溢れそうになった。

「…食事は?」
「食った。」
「そか、ほなあったかいモン作ったるからそれ飲んで寝とき。」
台所借りるで、と、居間にイギリスを残してキッチンへ向かおうとするスペインにイギリスは
「今後の話しにきたんじゃねえのか?」
と、声をかける。

するとスペインはいったんイギリスの所まで戻ってきて、ソファに身を預けているイギリスの前にしゃがみこんで顔を覗き込むように見上げると、
「親分が大事な嫁さんに無理させるわけないやろ?話なんて明日元気になったらすればええねん。」
と、にこりと笑ってイギリスの頭をなでると、
「ほな、飲みもん作ってくるわ。」
と、立ち上がって今度こそキッチンへと向かった。


こうして結局1週間後、二人は籍を入れたのだった。 



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