オンラインゲーム殺人事件_葵_16章

つわものたちの夢の跡(30日目)


もう…めっちゃ楽しみなんですけど…。
コウとユートには会ったんだけど…
フロウちゃん!絶対に会ってみたいっ!
あとイヴちゃんにも会いたいし、シャルルにもっ!
どの面さげて下着の質問してたのか絶対に見てみたいっ!
やっぱ今流行の男スキ~な男の子とかなのかな…



私の脳内では犯人はヨイチだったんで、とりあえず他の面々にはすごぃ会ってみたくなっている。

昨日はマジ眠れなかった。
それでももう行く気満々だよっ♪

迎えにくる時間は11時ってなってたから10時半からワクワクして自宅前で待ってると、ご立派なハイヤーがスッと自宅前に止まった。

「三葉商事からお迎えに上がりました。」
と、背広の男の人がお辞儀をして後部座席のドアを開けてくれる。
そこにはすでにユートが乗ってて、私の姿を見ると
「おはよっ、アオイ」
と手を振った。

そのまま二人で他の面々のリアルの姿を想像しながら盛り上がってると、私達を乗せた車は都心の某有名ホテルに入って行く。

背広の人に案内されてそのままエレベータで上に上がり、主催が用意してる広間についた。

中に入ると一番奥に壇上があって、広間の中央には丸テーブル。
それをグルっと囲む様に、食べきれないほどのごちそうの乗ったテーブルが並んでいる。

私達は一番乗りみたいで、主催の会社の人達以外には誰もいない。

「中央テーブルにかけてお待ち下さい。」
と、背広の男の人がうやうやしくお辞儀をして下がって行った。

な…なんだかもうちょっとマシな格好してくれば良かったかな…。

夏だし暑いし…さすがにTシャツにジーンズとかじゃないけど、普通のノースリーブのシャツに下も綿のキュロット。
すごぃ会場に妙に不似合いな気がする。

「どした?アオイ」
後悔してモジモジしてると、ユートがちょっと眉を寄せた。
「う…うん。もうちょっと…マシな格好してくれば良かったな~なんて思って」
私は頭に手をやって苦笑いを浮かべる。
「なんだっ、そんな事。それ言ったら俺も一緒だって。正装なんてもってないし…。
どうしてもって言われたら…制服くらい?」
ニカっと笑うユート。
あ~…制服って手があったのか…。

「制服の存在…忘れてたよ…」
がっくりと言う私にユートはきっぱり
「でも祝宴て事は絶対にごちそう出るしっ。制服じゃ思いっきり食えないっ!」
と断言して、私を笑わせた。
「それもそうだよねっ。」

でも…ごちそう食べれなくても良いという人もいるらしい…。
ユートと二人でそんな話してたら、きっちりと制服で来た奴いるよ…

半袖のシャツにズボン。ネクタイまできっちりして手には多分それは私服の薄いジャケット。

「コウ…制服で来たんだ?」
ユートが吹き出すと、コウはしごく真面目な顔で
「この規模の企業が用意する会場にTシャツにジーンズとかで来る度胸は俺にはないぞ。
とりあえず…制服ならどんな場所でもそれなりのTPOは保てるからな」
と答える。
コウらしい考えだ。

「でも上着は私服?」
「一応…この季節のホテルとかはクーラー効きすぎてる可能性高いが、制服の冬服のブレザーだとさすがに暑すぎだから」

うあ…もうさ、こういう場所来慣れてますか?
コウの言葉に呆れる私とユート。
思わず沈黙する私達の耳に、もう、声優さんですか?って感じのすっごぃ可愛い声が流れ込んできた。

「…そんな可能性…全然考えてませんでした…。そいえばそうですよね。
廊下はそうでもないけど、部屋の中ってちょっと寒いかもです…」

コウの後ろから聞こえるその声の主に二人して注目。

「俺言ってくるから、とりあえずこれ着とけ。」

コウがジャケットをパサっと後ろの小柄な人物に羽織らせて壇上の方へと駆け出して行く。

う…そおおお………ありえないっ!
もうね、感動ものの可愛さだよっ!!
アイドルなんて目じゃないよっ。

サラッサラの黒髪ロングヘアの華奢な美少女。
なんだか高級そうな素材の真っ白なワンピースがめちゃ似合ってる。

もうね、お姫様オーラがふわわ~んとにじみ出てますよっ。

「フロウちゃん…だよね?!」
思わずガタっと立ち上がるイスの音にちょっとビクっと身をすくめて、でも次の瞬間私を見てホワンって可愛い笑みを浮かべた。

「はいっ。アオイちゃん、ですよね?」
ああ…もうっ!可愛いっ!!
あの可愛いキャラのイメージすら遥かに超えた可愛らしさに思わず目が離せなくなる。
ここまで可愛いともう比べる気も起きないっていうか…もう見てるだけで楽しいっ。

「言ってきた。ちょっと冷房弱めるって。だけどまあすぐに変わらないだろうから、それまでそれ着とけ。」

戻ってきたコウがフロウちゃんにそう言って、席にうながす。
そしてユートと反対側の私の隣の椅子をひくとフロウちゃんは
「ありがとう、コウさん」
とニッコリ微笑んで、優雅な仕草で腰をかけた。
コウもさらに私と反対側のフロウちゃんの隣に腰を下ろす。

コウ以上に…絶対にお育ちからして違うんだよなぁ…
本気でお嬢様だよ、オーラでてるよ…
なんだか良いにおいもするよ…

「アオイ…お前なんだか目つき、怪しい。」
たぶん凝視しつつも思わずニマニマしてたんだろうな、呆れたコウの声がふってきた。
「目、ハートになってるよ、アオイ。」
それを受けてユートもクスクス笑う。

当のフロウちゃんは例によって全然話が見えてないみたいできょとんとした表情で首を傾げた。
もう…その仕草ですら萌え対象かもっ///

今更だけど…犯人のターゲットがフロウちゃんじゃなくて良かったなぁ……。
絶対絶対危険な目とかあわせちゃ駄目な人だよっ。

あ、ターゲットといえば…イヴちゃんどうしたかなぁ…

そのままゲームの思い出話とかに花を咲かせつつ、私はふと気になってきた。

彼女も…きっと可愛いよね。
フロウちゃんがふんわり癒し系なら、彼女は猫っぽい感じの美少女と予想。
大丈夫だったかなぁ…
思えば今回の一連の事件で一番怖い思いしたのってイヴちゃんだもんね。
ゴッドセイバーに始まってショウ、アゾットと一緒にいる人いる人みんな殺されちゃって、自分自身も狙われやすいジョブ選択しちゃってたし…。

そんな事を考えつつ会話に参加してると、扉の方からいきなりすごいハイテンションな女の子の声が聞こえてきた。

「やっだあぁぁ~!!コウ君だよねっ?!マジ?その制服って海陽学園の制服だよね?!
すっご~~い!!おぼっちゃま&超頭良い人だったんだね~!!!」

ズダダダダ~っ!!!って音がしそうな勢いで、コウの隣の席にダイブしたのは、見かけは意外に普通のポニテの女子高生。

「もう、期待以上で超嬉しいっ!あ、でもネクタイちょっと緩めない?
ついでに第2ボタンくらいまで外してくれるとすっごぃ嬉しいんだけど…。写真撮っていい?」

コウが思わずガタっと立ち上がって後ずさった。
顔が恐怖にひきつってるよっ。

なんだか…予想と随分違ってるなぁ、イヴちゃん。
イヴちゃんてより…シャルルみたいなノリだ。

「ユート…席替われ…」
コウがそのままズリズリとユートの所まできて、ユートの肩に手を置いた瞬間

「あああ!!!!そのままストップッッ!!!!!」
イヴちゃんが携帯を構えて叫んだ。

パシっと焚かれるフラッシュ。
反射的に(?)逃げるコウ。
そのまま訳がわからず写真に写るユート。

「チっ!」
……舌打ちするイヴちゃん。
なんだかイメージが真面目に……

「…やめときなよ、映(あきら)。コウ君怖がってるよ…。」
その時イヴちゃんと一緒に連れて来られたらしい大人しそうな男の子が苦笑してイヴちゃんの肩に手をかけた。

「ほら…座ろう?」
静かに言って自分がまずコウの席の隣に腰を下ろし、その隣自分とユートの間の席にイヴちゃんを促す。
言われてイヴちゃんは渋々そこに腰を下ろし、コウも自分の席に戻った。

これでとりあえず揃ったわけで…私達4人はそれぞれいいとして…
この女の子がイヴちゃんだとすると、残りは…

「え~っと…シャルル…なのかな?」
私はその大人しそうな男の子に声をかけた。
彼もキャラとイメージ違うかも…ゲーム内ではあんなにテンション高かったのに…

「俺…ですか?」
男の子は戸惑ったように自分を指差す。
「うん」
私がうなづくと、彼はまたちょっと戸惑ったように隣のイヴちゃんに目をやった。

「違う違うっ、シャルルはあたしっ♪」
彼の視線に気付いて、イヴちゃんだと思ってたその女の子は自分を指差して言った。

…へ?
「んで、こっちはヨイチっ♪これでもね、本名なんだってよ?
もうさ、ホントはシャルルキャラをもうちょっとコウ君と絡めたかったんだけど、アオイががっちりガードしちゃってるしさ、仕方ないから他探すか~とかさすらってたらヨイチと会ってさ…」

……へ?
「絡めるって…シャルルって男キャラだろうがっ。
男同士でベタベタして何が楽しいんだっ!」
「楽しいよ~、絵になるじゃんっ!男同士の方がっ!
そのためにわざわざ男キャラ作ったのにっ」

こ…これはもしかして…

「いわゆる…腐女子ってやつ?」
隣でユートがきくと、シャルルはおもいっきりうなづいた。

「なんだ?それ??婦女子??」
コウが聞き慣れない言葉に眉をひそめる。
「コウ…たぶんコウが想像してるのと字が違うと思う。
腐る女子って書いて腐女子なんだよ…」

今時腐女子も知らない高校生がいるのか…

「えっとね…ボーイズラブ、略してBLって言う男同士の恋愛が好きな女の子の事を腐女子って言うんだよ、巷では」
字を知らないくらいだからどういうものかなんて絶対に知らないであろうコウのために私が補足説明をすると
「うあぁっ!!!」
とコウは真面目に思いっきり気持ち悪そうな表情で青ざめた。
「絶対にいやだっ!!真面目にやめろっ!!気持ち悪いっ!!!」
まあ…そうだろうなぁ…コウだったら…。

その様子にシャルルは、え~っと不満げに口を尖らせユートもちょっと青ざめた笑みを浮かべ、私も苦笑する。

そんな微妙な空気の中、フロウちゃんがコロコロと鈴の音のような可愛らしい笑い声をこぼした。

「コウさんが…そんなに慌てるの初めて見ました♪」
おっとりぽわわ~んとした可愛いハイトーンの声に空気が変わる。

「彼女さんの前で失礼だよ、映。だからもうその話はおしまい、ね?」
ヨイチが静かな笑みを含んだ声で言った。
何か言い返したげなコウにも、意味ありげに目配せをする。

「なんだ…そういう関係なわけね。」
シャルルがつまんなそうに、それでもコウの物であるのが見え見えな上着をはおっていかにもコウと親しげな発言をするフロウちゃんを見て納得して、口をとがらせながらも深く椅子に腰をかけなおした。

心底嫌がってるであろうコウに助け舟を出したんだろうな。
コウもそれを察してあえて否定しない。
フロウちゃんは…相変わらず全然話が見えてないで、ただニコニコしている。

そこでようやく落ち着いて、ふと気がついた。
この二人はヨイチとシャルル…なわけだ。
あと残ってるのって…………ええ???
「あのさっ…」

それを確認すべく私が口を開きかけた時、主催の偉いさんが来て、祝賀パーティーが始まった。

通り一遍の挨拶のあと、配られたジュースで乾杯。

その後一億円の授与だったんだけど、これってどう考えても私が受け取るべき物じゃない。
とどめのわずかのHPを削ったのは私だったんだけど、倒したのってどう考えてもコウじゃない?
しかも…とどめ刺した時もコウがとどめさせなかったのはたまたまフロウちゃんカバーに行ってたからで、本当だったらコウがとどめさしてたはずだよ。

だからこれは絶対にコウが受け取るべきって言ったんだけどコウはコウでとどめ刺した者が受け取るってルールだからって断固として受け取らない。

しばらくそのまま続く押し問答。

「なんかさ~、人殺してもお金欲しいって奴もいたと思ったら、もらえる人間は要らない合戦しちゃうって笑うよね」
完全他人事モードのシャルルが相変わらず大きな声でヨイチに話しかけてて、ヨイチは困ったように苦笑してる。
「ね~、どっちでもいいんだけどさ~、公平って言うんならそのときパーティー組んでた4人で分けちゃえば?
敵のHP削んなくてもプリーストとか貢献度高いっしょ?
いないと絶対に魔王倒せないのにほぼもらえる可能性もないのってそれこそ不公平じゃない?」

確かに……そうだよね。

「それじゃだめ…ですか?」
私が主催さんを見上げると、逆にちょっと驚いた顔で
「それでいいんですか?」
と聞き返された。
「私はそれがいいんだけど…」
そこで私は今度はコウに目を向ける。
それがぎりぎり譲歩ラインだと思ったんだろう、コウも
「しかたない…そのかわりもらったものはどう扱おうと自由だよな?」
と主催に確認して了承した。

主催の側の司会者さんがうなづくと、係の人が消えてやがて黒い漆の箱を持って戻ってくる。
そこで順番にキャラ名を呼ばれてそれぞれ額面2500万の小切手を受け取った。

まあそれはまだ一枚の紙切れなんだけど…このために5人もの人が殺されたんだよね…
そう思ったらなんだか手にある紙切れがなんだか呪いの品みたいに思えて怖くなった。
隣ではユートがやっぱりそれを凝視している。

「じゃ、そういうわけでっ」

いきなりビリビリっと音がした。
へ??
音にまずびっくりして顔をあげて、音の方に目を向けて音の原因にまたびっくりした。

コウが…もらったばかりの小切手をビリビリに…
ほんっとにもう粉々くらいの勢いでビリビリに破いてる。
最後に2500万の小切手の紙吹雪を掌に乗せて、フゥ~っと吹き飛ばした。

ヒラヒラと舞う小切手の紙吹雪。
呆然とする主催側。

そりゃそうだ…2500万だよ?
「あ…あの…」
言葉がない主催側の司会者をコウはビシッと指差して
「高校生をなめるなっ!」
と言う。

「国家レベルの影響持つ大企業だかなんだか知らないがお前達のくだらない保身のせいで、俺の仲間は死ぬとこだったんだぞ!
俺はそんな仲間の危険を放置した企業の金なんか受け取る気はないっ!」

「うあ…コウ君カッコいいっ!!!」

それだけ言ってクルリと背を向けて席に戻るコウにシャルルが拍手喝采を送る。

「あ~でもそれは俺の主義にすぎんからっ。お前らは迷惑料にもらっとけよ」
ストン!と椅子に座ってそういうコウ。

そうは言われても……
小切手を持ったまま硬直してる私とユートの横で、

「そうですね♪お金に罪はありませんし♪」
と、あっさりのたまわるフロウちゃん。
この空気の中その言葉が出て来るのがすごいっ!
「というわけでっ、これお願いします♪」

へ?
小切手をいきなり差し出された主催の司会者さんはポカンと口を開けている。

「えっと~、たぶん広い世界には私よりもこのお金必要な方がたくさんたくさんいらっしゃるので…ユニセフに寄付お願いします♪」
ニッコリと天使の微笑みでそれをさらに差し出すフロウちゃんからコックリとうなづいて恐る恐る小切手を受け取る主催さん。

なんか…それぞれすごく”らしい”幕のひき方に感心しながらも迷う私…。

しばらく立ちすくんでると、私の横に同じく立ち尽くすユートが、ギュっと私の手を握って小声でつぶやいた。

「アオイも…たぶん俺と同じ事考えてる…よね?」
「…うん…たぶん…」

私がそう返すと、ユートは私の手を握ったまま一歩前にうながして自分もやっぱり一歩踏み出すと主催さんに小切手を差し出した。
私も打ち合わせたわけでもないのに同じ行動をとってる、

「俺達は…別に良識とか人類愛とかそんな立派なものじゃなくて…
単に身の丈に合わない大金を意味もなく手にしちゃうのがすごく怖い事だってわかったので…。」
私の気持ちをも代弁してくれているユートの言葉に私も続ける。
「でも捨てちゃうのも怖いので、私達の分もユニセフによろしくお願いしますっ!」

二人揃って小切手を差し出しながらピョコンとお辞儀をすると主催さんは驚いた顔のまま、それでも小切手を受け取った。

「ま、これで全員の顔も見たし、言うべき事もやるべき事も終わったんで、俺は帰るぞ!」

私達のその行動を見届けたところで、コウが立ち上がった。
そのまま扉に向かいかけるコウ。

その時壇上に一人の老人が上がって
「待ちたまえ」
と声をかけた。

ピタリと足を止めるコウ。
私とユートを始め、参加者全員が一斉にその老人に注目する。

「このゲームの主旨を聞かないで帰ってもいいのかね?」
老人の言葉にコウは大きくため息をついた。
「圧力とか大人の事情とか大好きそうだから、言う気もないと思ってた。
一応説明する気はあったのか。」

コウの皮肉に顔色も変えず、老人は
「言わないと意味が無い。まあかけたまえ」
とうながす。
その言葉にコウは仕方なく再度腰を下ろした。

全員また席についたところで、老人が軽くうなづくと司会はお辞儀をして壇上から去る。

「まあ自己紹介から始めよう。
この企業のトップ、葉山総一郎だ。
68歳妻は5年前になくなり、子供なし…と、ここまで言えば何を言いたいのかわかるかね?」
なんか妙に面白そうな爺ちゃん。

「知るかっ!養子を探してるとでも言いたいのかっ」
コウ吐き捨てる様に言うと
「おお~!正解だっ!賞金でも出すかね?」
と、手を叩いた。ノリの良いじっちゃんだ。

「ふざけるなっ!言う気ないなら真面目に帰るぞ!」
からかわれたのが勘に触ったらしく立ち上がりかけるコウに
「まあ待て。まずその短気を直さんと人の上に立てんぞ」
と、ゆったりとした口調でじいちゃんが言った。
「誰も冗談でいってるわけではない。」

いや…充分冗談に聞こえるよ、じいちゃん…

私の心の声はおいておいて、腰をあげかけたコウがまた座り直した。
「で?冗談じゃないとすると、それがこのくだらないゲームとどう関係するって?」
「聞きたければ中座しないで欲しいんだが?」
「……わかった、続けろ」
ムスっとコウが返すと、老人は話し始めた。

「結論から言うとさっき言った通りだ。
私には子供がいないのでこの企業を背負って行く跡取りを捜している。

ただし誰でも良いというわけではない。

この企業は元々江戸時代の商家から始まって今に至るまで代々血族が引き継いできた会社だ。
私の代でその血筋を絶やすのは非常に心苦しいのだ。
だから私の直系でなくてもいい。
遠縁でもなんでも一族の血を引く者に継がせたいと思っている。

では一族の血を引く者なら誰でも良いかと言うと、それもそうとも言えない。
一商家だった江戸時代とかならともかく、今や日本を代表する大企業だ。
当然それを率いて行ける器というものが必要になってくる。

金に惑わされず、常識にとらわれず、目先の危険を見逃さずそれでいて他人を率いて行ける人材。
そういう人材が欲しいのだ。

もちろん実際に跡を任せるまでに社長に必要な知識というものも教え込まないとならないから、なるべくならまだ若い者がいい。

ということで、もう気付いていると思うが、君達がそのどこかで一族の血が入っている跡取り候補の若者だ。
そして多額の賞金という餌を下げ、情報が全くと言ってない先の見えないゲームの中で、目的に向かって進む仮定での行動からその可能性を観察させてもらう事にしたという訳だ。」

「…ふざけるなっ!そのために5人も死んでるんだぞ!」
コウがバン!とテーブルを叩くが、老人は相変わらず冷静な様子で壇上からそれを見下ろした。
「その目先の危険をなんとかクリアできた人間だけがここに集まっているという事だ。」

それも…計算のうちって事…なんだ。
なんだかすごく怖い事にまた巻き込まれてる気がして震えだす私の手を、テーブルの下でユートがギュっと握ってくれる。

「もちろん必要なのは一人で…その一人が誰なのかは生き残った参加者全員がわかってるとは思うんだがね…」

まあ…確かに…。
私とかに社長になられても困るのは確かだよね。

全員の視線が自分に向くのに、コウは顔をゆがめた。

「俺はごめんだぞ。こんな薄汚い企業の片棒担ぐなんてまっぴらごめんだっ!」
「汚い…か。確かにある程度黒を白にすることも逆にする事もできる力があるが…
その力を行使するか否かの選択ができるぞ、上にいれば。
今回思い知らなかったかね?末端にいれば不正を不正と知っても拒絶する権利すら与えられない。
止められる悲劇も止める術を持てないということだ。」

「………」

「まあ…考える事だ。私はとりあえず80までは生きようと人生設計してるから…
社長修行につきあってやれるのは75くらいまでか。時間はあと7年ある。
一ヶ月に一度は連絡をいれるから考えておいて欲しい」


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