オンラインゲーム殺人事件_葵_14章

殺人者の仮面(26日目)


朝…メールの着信音で目が覚めた。

ユートだと電話だし誰だろう……
枕元の携帯に手を伸ばしてみると、いきなりタイトルが
『助けてっ!』
宛名は…イヴちゃん?!

一気に眠気が覚めた。
慌ててメールを開く。

『いきなりごめんなさいっ。
もうホントにどうしていいかわからなくて、とりあえず女の子だったら安全かなと思ってメール送ってみましたっ。
アゾット君が殺されちゃったんですっ。
ニュースで流れてたんですっ。
ついさっきのニュースで流れてた今朝早く殺された高校生、早川和樹君てアゾット君なんですっ。
どうしよう???
次は絶対に私なんですっ。
一番レベル高いしウォリアで攻撃も防御もあるし…一番魔王に近いからっ。
私一人暮らしなのでホント誰も頼れないんですっ。
怖くて外に出られなくて…防犯ベルとか欲しいんだけど買いにいけないんですっ
とりあえずこのままじゃ買い物いけないし、家の中の食料がなくなったらどうしようかと…
それでほんっとに一か八かというか、駄目もとというか…
お願いなんですけど、絶対に絶対に安全になったらお金払いますっ
防犯ベル買って送ってもらえませんか?
なるべく早くっ。
買いに行くのにかかった交通費とかも絶対に絶対に払うので、一番早く手元に届く配送手段で
お願いしますっホントにお願いっ!!
殺人犯は男の人みたいだし、アオイちゃんを信用して住所も書いちゃいます。
でも絶対に絶対にお友達とかにも教えないでねっ。
まだ誰が犯人かもわからないし…
誰かに住所とか知られたら確実に私殺されちゃいますっ』
文章はそこで終わってて、後は住所と本名が明記されてる。
片平あいちゃんていうのか…。

文章からは切羽詰まった様子がありありと伺える。
怖い…だろうなぁ…。
私もなりすましメールの時は気が狂いそうに怖かったもん。
あの時の私にはユートがいたけどイヴちゃんには……

ちらりと時計を見ると、今は10時過ぎ。
とりあえず私の防犯ベル送ってあげよう。
命かかってんだもん、この程度のお金なんてどうでもいいよ。
近所のコンビニなら宅急便送れるし…。
自分の分は後で買いに行こう。
ってか…これ機会にユートにつきあってもらうって感じで会ってみちゃおうかな。

私はTシャツとジーンズに着替えると、机の中から防犯ベルを取り出してポケットにつっこんだ。

お金も…都内に宅急便送る程度ならお財布に入ってるな。

私はサンダルをつっかけて
「ちょっとコンビニ行ってくる」
と、声をかけて外に出た。

マンションを出て駆け出しかけた私は、いきなり腕をグイっと引っ張られた。
首筋に冷たい物があたる……

まさか……
「そのまま車のドアを開けろ。騒ぐと首掻ききるぞ。」
若い男の声…
震える手でドアを開けると、車に押し込まれた。

「両手を出せ」
言う事聞いちゃいけないと思うものの、目の前のナイフにたいする恐怖心が勝って思わず両手を差し出すと、あらかじめ適度な長さに切ってあったっぽいガムテープでまず口を塞がれた。
ついで両手がぐるぐる巻きにされる。

冷や汗が止まらない。

そこまですると男は後部座席のドアを閉め、運転席に回り込むと車を発進させた。

どう…しよう…。
イヴちゃん助けるどころじゃない…。
あれから2週間以上たってたし、すぐ近くのコンビニだからって油断してたっ…

そもそもこれ誰だろう……

今生き残ってるのは…ユート、コウ、ヨイチ、シャルルの4人で…
ユートは…声が違う。

嫌な考えが頭をよぎった。

犯人は一億円欲しい人物で……
ってことは…魔王を倒せる人物…
それが原因でエドガーが殺されたんだとしたら…
いつも仲間と一緒にいた人物で……
ユート以外の3人の中では…当てはまるのは…一人だけ…。

うそ…だ…

恐怖とは別の意味で自然と涙がこぼれた。

信用…してたのに…。
喧嘩もいっぱいしたけど…それでも友人だと思ってたのに…

(……コウ…なの?)
って聞こうとしたけど、ガムテープで塞がれてるからムグムグって音が出るだけだ。

それでも…頭の良いコウには私の言いたい事がわかったんだと思う。

「お前…あっさり騙されるんで笑えたぜ。
普通に考えれば充分強いベルセルクの俺がシーフなんか仲間にしても意味ないってわかるよな」
って鼻で笑った。

悲しかった。
このまま殺されるかもっていう恐怖より、今はとりあえず悲しさが勝っていた。

色々教えてくれたこと、助けてくれたこと、ぶっきらぼうな中に見え隠れしてた優しさも全部嘘だったんだ…。

悲しくて悲しくて涙が止まらなくて、ボロボロ泣いてるうちに車が止まった。

「んじゃ、そういうことで」
コウは振り返ってにっこり笑うと、私の口のガムテープをビリっとはがす。
「初めまして、だな。アオイ。ま、すぐさようならなんだけどその前にやって欲しい事あんだよ。」

あらためてみるコウは、全然キャラのイメージと違ってた。
私の中のコウのイメージって眉はキリっと精悍で、綺麗な切れ長の目をしているの。
ぶっきらぼうなんだけどまっすぐで…若武者みたいな雰囲気。

こんな抜け目のなさそうな目をしたニキビ面じゃない。

ユートに比べれば幼稚な人かもとか言ってても、思えば随分美化してたんだなぁ…

コウは泣きすぎてぼ~っとした頭でそんな事を考えながらぼんやりとコウを観察してる私の携帯を取り上げると、それをしばらくいじっていたけど、やがてどこかに電話をかける。

「もしもし?ユート?とりあえず今アオイと○○公園の東口にいるんだけど…
俺がアオイ殺しちゃう前に来てくれるとありがたいなぁ…」

う…そ…
まさかユートの事も……?!
それだけ言うとコウは私の口元に携帯を持ってきた。
「ほぃ、アオイ。ユートにとりあえず助けて~だなっ」
クスクス笑うコウ。
じょ、冗談じゃないっ!
「やだっ!」
と私がにらみつけると、携帯を左手に持ち替えて、ナイフを頬につきつけてきた。
「とりあえず…あちこち切り刻まれて死ぬより良くない?
言う事きかねえなら楽には死なせねえけど…」

ヒッ……
とにかく怖くて怖くてしかたなくなった。

「……たす…け…て」

私は絶対に言っちゃいけない一言を口にした。

それからはもう早口に口走る。
「コウに殺されちゃうよっ。犯人コウだったんだよ!」
「ま、そういう事だっ。期限は1時間なっ。それ過ぎたり察連れてきたりしたら、とりあえず切り刻むからっ」

コウは言われるまま助けを求めた私の言葉に満足げに笑うと、電話の向こうのユートに言った。

『俺が行くまでは…絶対にアオイに手出すな…。でないと本当に警察呼ぶからな…』

電話の向こうからユートの声が聞こえる。
きてくれるつもり…なんだ…。

どうしよう……こんなにいい人なのに……
私自分可愛さにユートを巻き添えにした……

今度は自己嫌悪で涙があふれた。
本当に自分が情けなかった。
私……最低だ……。


私は車からうながされて人通りのない公園の、さらに人目につかない公衆トイレの影に連れて行かれた。

来なければいいのに……
自分で助けを求めておきながら、私は心底そう思った。
私みたいな最低な人間、見捨ててくれればいいのに……

30分後…
そんな私の願いとは裏腹にユートはちゃんと来た。

ヒョロッと背の高いその姿を見た瞬間、私はこんな状況なのに思わず小さく吹き出した。

ユートも…きっとキャラ作成に思い切り時間かけたんだね。
少し垂れ目ぎみで人の良さそうな顔もキャラのまんまだよ。

泣き笑いを浮かべる私に目をやって、ユートはちょっと目を見張った。
私が恐怖のあまり壊れちゃったのかと思ったみたいで
「アオイ…大丈夫?」
と、心底心配そうに言う。

そのユートの気遣ってくれた言葉で、私はふと現実に戻った。
「ごめん…ユートごめんね…」
謝ってすむことじゃ絶対にないけど……でも謝らずにはいられない。

泣きながら謝る私にユートはちょっと笑みを浮かべる。
「大丈夫。大丈夫だからね、アオイは悪くないから。」

悪くないわけないじゃない…。
どう考えたって私が全部悪い…。

どうしていいかわかんなくて泣きじゃくる私に、もう一度
「大丈夫だからね。」
と優しく声をかけたあと、ユートは丸腰の自分をアピールするように両手をあげて、コウに視線を移した。

「提案なんだけど…一億円取るの協力させるから…アオイだけは解放して?」
いきなり切り出すユート。
そのユートの言葉をコウは笑い飛ばした。
「馬鹿じゃねえの?お前。シーフに協力させてどんだけ役にたつんだよ」

そうだよ…あまりに無謀な提案だ…。
もう…ひいき目に見てもあまりにわけわかんない。
私もさすがにちょっと呆れるが、次に続くユートの言葉に驚いて目を見張った。

「協力させるっていうのはアオイにじゃないよ。コウにだよ。
今たぶん一番魔王に近いのはプリースト付きのベルセルクのコウだろ。
だから俺がゲーム終了までアオイの代わりに人質になってコウに魔王倒さない様に交渉する。
魔王倒すまで俺をどっか人目のつかない場所に放り込んでおけばいい。
コウは絶対に俺を見捨てて一億取ったりするやつじゃないから、そうしたら確実に一億取れるよ」

ユートってば何言ってるの?
コウに向かってコウに協力させるって何??
混乱する私をよそに、私の隣にいるコウ?は、鼻をならした。
「顔見られてんだ。一億手にしたって捕まっちゃ意味ねえだろっ。」
それに普通に反応してるコウもよくわけわかんない…。
「これまで何人も殺して手を汚してるのに…一億をコウに持ってかれて終わっていいの?」
ユートの言葉にコウは言葉に詰まった。
「姫は…ある意味他人の話一切聞いてない子で、さらに言うならコウを妄信してるから、騙してコウから引きはがすの無理だよ?
そしたらもう誰を殺しても絶対にコウには勝てないよ?
コウは…俺らと違って不用意に誘い出されたりする奴じゃないしね。
それなら一億もらって海外逃亡でもした方がマシじゃない?」

この男は…コウの名前騙ってるの?
ユートが単純に信じてないとかではないという事はさすがに馬鹿な私でもわかってきた。
本当にコウならここで悩む意味ないもんね…。

「ふん…話はわかった。確かにそうだ…」
「じゃあっ…」
男の言葉にユートは詰めていた息を吐き出した。
「二人とも人質だなっ。」
「…!」
「我が身可愛さに男売る様な女だしな。また裏切らないとはかぎらねえ」
「アオイは裏切ったりしないっ!人質は俺だけにしろよっ!アオイを解放しないなら俺は交渉しないっ!」
叫ぶユート。
「んじゃ、二人ともここで仲良く死体だな。」
男は冷徹な口調で言い放つ。
「ユート…もう…いいよ。もういいんだ。ユートと一緒なら怖くないよ。」
なんだかそのまま殺されても本望な気がしてきた。
「…アオイ……」
私の言葉にユートも黙り込む。
「交渉成立だなっ。というわけでまずは車にご~だ。ユート、前歩け」
言われてユートは私達の方へ近づいてきた。
そして男の前に立つ。
男は私の首にあてていたナイフを今度はユートの背中に向けた。

次の瞬間、ユートが振り返って男を突き飛ばした。
「逃げてっ!アオイっ!!」

「っざけたことしやがって!!」
一瞬ひるんだ男だったが、すぐ体勢を立て直してユートに向かってナイフを振り上げる。
「ユートッ!!」
「いいからっ!警察呼んできてっ!!」
思わず駆け寄りかける私に、血に染まったユートが叫んだ。
戻ってもたぶん二人とも殺される…警察呼んで来なきゃ…
悩んだ末出口に向かって走りだす私。
男が追ってくる足音が聞こえる。

う…運動不足かも……
足がもつれる。
手も固定されたままだから走りにくい事この上ない。
だいたい…通りも人通りないよね…
携帯は…さっき取り上げられたままだし…公衆電話ってどこにあったっけ…
それ以前に…ここどこよおっ!!!
でも頑張んなきゃ…急がないとユートが…!
ハアハアという自分の息づかいと、追ってくる男の怒声だけが静かな公園に響く。

出口に向かったつもりなんだけど…もうどこにいるのかマジわかんない。
すぐ後ろに男の気配。
どうしようっ!追いつかれたっ!!
「勇者登場だ」
その時ふいにすぐ横の木陰から手が伸びてきて、私の腕をグイっとつかんだ。
「下がってろ」
そのまま私を後ろに押しやると、そのままその影は前方の男へと突進して、ナイフを振り上げた男の手を蹴り上げると同時に、その腕をつかんで男を投げ飛ばす。

なに……かっこいい………。
マジ勇者様だよ、これ。

アクション映画さながらに男をのしたその人物は、ベルトで男の手をしばり、自分の上着を脱いで男の足を固定したあと、血のついたナイフを見て
「これ…お前の血じゃないよな?ユートは?」
と私を振り返った。

”どなたですか?”と聞くまでもなく、そのちょっとキツい印象の、でも整った顔立ちは…

「コウ?!」

思わず乗り出す私に、コウは
「くだらないことを…。見ればわかるだろう」
とため息をつく。

うあああ…まんまじゃん。

いや、キャラのイメージ多少はあるかなとは思ってたけど……
ここまでまんまだとは思わなかった…。
ここまで一般人のレベル超えたかっこよさでいいもの?!
「いつまでも惚けてんじゃない!ユートはどうしたんだ、ユートは!!」

あああ~~~~!!!!
「きゅ、救急車呼んでっ!ユートが死んじゃうっ!!!」
はっと我に返って叫ぶ私に、コウが顔色を変える。

『東口から中央に向かって100m地点で被疑者拘束、これから怪我人見てくるので身柄確保お願いします、あと救急車もお願いします』

と、自分の携帯でどこぞに連絡を取りながら、へたり込んでる私の腕を取って立たせると、
「案内しろ」
とうながした。

急いで公衆トイレまで戻りかける私達だったが、戻るまでもなく、ヒョロッと背の高い影がヨロヨロとこちらに歩いてくるのが見える。
「おい、生きてるか?」
コウはユートにかけよって、ポケットから出した白いハンカチで血が流れるユートの右腕をしばって止血した。

さっきの立ち回りといい…血だらけの人間を目の前にした時のこの冷静な反応といい…いったいコウって何者なの?まさか本当に勇者様っ??
ありえない……よね……

「コウが…アオイ助けてくれたんだ…ありがとう、助かった」
ユートはちょっと血の気が引いてて、それでも私とコウを交互に見比べるとニッコリ笑った。
そのユートの言葉にコウは
「お前なあ……」
と呆れた声をあげたあと、まあたぶんコウの事だからその後にはまたバカかとかそういう類いの言葉つけたかったんだろうけど、一応怪我人相手だし、また飲み込んだんだろうな
「まあ…命に別状はなさそうで良かったな」
と、言葉を続けた。

犯人に呼び出された時のユートの反応とか、目の前の二人のやりとりとか見ると、なんだか初対面じゃないっぽい気がするんだけど…なんか色々謎が多すぎて、どこからつっこんでいいのかホントにわかんない。

「とりあえず…犯人のとこまで戻るぞ。救急車呼ばせておいたから」
悩んでると、コウがゲームの時さながらに、先に立って歩き始める。
私とユートもそれに続いた。

犯人の所にはもうパトカーやら救急車やらが到着していて、警察が取り巻いている。
問題は…だ、その場にいるおまわりさん、コウの姿を見るといきなり声をかけてきた。
「あ、よりみつさん、お疲れさまです。救急車到着してます。」
って……ますます何者なの?
コウはそれに礼を言うと、ユートを救急車にうながした。

なんか…色々が妙に現実感がない。
救急車に乗ってる間、怪我の事とか話してるユートとコウの声とか救急車のサイレンの音とかがなんとなく別世界の音みたいに遠くに感じた。

病院についてユートが処置室に消えて行くと、コウは
「座っとけ」
と私をソファに促して、どこかへ消えて行った。
そしてすぐ紙コップを二つ持って戻ってくる。
「無糖コーヒーとウーロン茶、どっちがいい?」
私は私の前に立って聞くコウをぼ~っと見上げた。
そのままぼ~っとしてるとコウがもう一度同じ質問をしてきたので
「ウーロン茶」
と答える。
私にウーロン茶の入ったコップを渡して、コウも私の隣に腰を下ろした。

「コウって…もしかして甘い物嫌いなの?」
何を聞いていいやらわかんないし、なんとなく聞いてみたんだけど、その言葉にコウは
「悪かった…甘い飲み物の方が良かったか。買ってくる」
って言って立ち上がった。
「あ~、ごめん、別にそういう意味じゃなくて…」
私はその服の裾をつかんで止める。
「単に…ウーロン茶はとにかくとして無糖のコーヒーって選択は変わってるかなぁって思って。
他意はないの。単純な好奇心」
私が言うと、コウは
「そうか…」
と言ってまた座り直した。

そしてまた続く沈黙…。
「コウってさ…なんでコウなの?」
黙ってるのもきまずいんだけど、変な事聞くと怒られそうで、私は当たり障りのない話題を出してみた。

「さっき…警察の人がよりみつさんて言ってたから…本名からじゃないよね?」
最初の質問で意味が理解できてないみたいだったから、さらに付け足してみると、ようやく意味がわかったのか、コウは言った。

「いや…名前から。ライコウって書いてヨリミツだから。源頼光の頼光な。」
「あ~鬼退治の人?」
確か酒呑童子とか倒したって言うお侍さんだ。
「そそ、それだ。んで、本名そのままはあれなんで、コウ」
なんだかすごいもじり方だ。
まあ…ひたった名前つけるには恥ずかしいけど、本名出すのはまずいからって感じかな。
コウらしいと言えばコウらしい。

そして本名まで出ちゃった事だし、と、一気に好奇心が吹き出してきた。
「ごめん、答えられないならいいんだけど…コウってさ…警察の人にさんづけされたりしてたけど…偉い人なの?」
謎多すぎだよ、コウ。
半分答えてくれないかもって思ってたんだけど、コウはため息まじりに答えてくれた。
「正確には…親がな。警察の偉いさん。んで、まああれだ…大人の事情ってやつで…リアルでるのまずかったんだ」
なるほど…納得。
だから犯罪に詳しかったんだね。

「今は?大丈夫なの?」
「わからん…。でもまあ…現行犯だから、企業と結びつけなければ無問題だろう。」
???
「意味不明なんだけど…大人の事情?」
大人の事情って…なんとなく便利な言葉な気はするんだけど、意味は謎だ…。
「あ~簡単に言うとな、今回の主催って日本屈指の大企業なわけだ。
で、国家レベルで影響力があって、その企業の試みが原因で連続殺人事件なんて起こされた日にはすごくまずい事になる。
で…いわゆる圧力ってのがかかってて、殺人の原因が今回のゲームって事にしちゃいかんって
事になったんだ。
で、警察にしてもそれに結びつけた捜査ってのができなくて、後手後手に回らざるを得ない。
だから今まで犯人が捕まんなかったっていうわけだ。」

…そんなすごぃ渦中にいたのか、私達…。

「で、俺を通して警察の偉いさんの親が出ると非常にまずい事になるから、あんまりおおっぴらにリアルで動くと俺は強制的にドロップアウトさせられるとこだったんだ。」
「ドロップアウトってゲームやめられるって事だよね?何か問題あるの?コウ本気で1億狙ってたの?」
私なら喜んでやめてたけど…と思って聞くと、コウはクシャクシャっと頭を掻いた。
「お前ら見捨てるわけに行かんだろうが…。俺いなかったら即死体になってそうだし…」

…コウ……
私達のため…だったんだ…。

「だからレベル上げて魔王に近づいてアピールして…なるべくゲーム内の行動で犯人の目が俺の方に向く様にって思ったんだけど上手くいかないもんだな…全然だめだった…」

………子供じみてたからじゃなくて逆だったのか…
大人で保護者だったからあんな態度とってたんだ……

「コウ…ごめんね……。私コウ疑ってた……」
そんな風に私達を守る為に一生懸命動いてくれてたコウを疑ってたなんてほんっとに申し訳ないし、穴があったら入りたいほど恥ずかしい。
「あ~あれは状況的にしかたない。気にするな。」
私の告白にコウは苦笑した。

「それよりな、お前ユートに感謝しろよ。」
私が少しショボンとしだしたところで、コウはサラっと話題を変えた。
「あいつお前から電話きた後すぐに俺に電話よこしたんだ。
俺は出先で駆けつけるのにちょっと時間かかりそうだったけどとりあえず1時間以内には行けるから待っておけって言ったのに遅くなったらそれだけお前が怖い思いするからって、一人で先にかけつけたんだぞ?
携番の時もそうだけどな…普通できないぞ?
自分の身が危険になるのに会った事もない奴のために動くって。
俺みたいに幼少時から日々護身術叩き込まれてる人間じゃないんだから」
「…うん…」
そう…だよね。
……ありえない。
私のせいで死ぬとこだったのに…。

「ユート…大丈夫かな…」
急に心配になってきた。
「すごい血…だったよね…」
思わず身震いする私に、コウは静かな口調で言った。
「あ~、まあ傷は範囲は広いけど浅かったから見た目ほどひどくないと思う。あまり思い詰めるなよ。」
「…うん……」
「お前のせいとかじゃないからな?」
「…それは…ちがうと思う。」
明らかに私のせいだ…。

「あ~~向かねえっ!!」
思わず沈みかけた私の横で、コウが叫んで立ち上がった。
びっくりして見上げる私に
「やっぱり…ユートって天才だと思わないか?」
といきなり同意を求めてきた。
「な…なに?急に??」
「だってな…」
私が聞き返すとまたドスンと座る。

「今実は俺、何言ったらお前が落ち込むとか立ち直るとか全くわからなくてな、ぶっちゃけこういう時に何話したらいいかわからないんだ。」
「あ~それわかるかもっ。そんな感じする、コウって」
笑って手を打つ私を振り返って、コウはだろ?と言う。
「あいつさ、そういうのすごく上手いよなっ。もうありえんくらいっ。」
「あ~そうだねっ。ユートっていつもその時言って欲しい言葉って言うのをタイムリーに口にするよねっ」
「そそ、あれは本当に才能だ。すごく羨ましい。」
ほ~意外。
コウって他人の事なんて気になんない人かと思ってた。
そう言うと、コウはそう見えるのか…って目を丸くした。
「自慢じゃないが…人の10倍は気にしてると思うぞ、俺。
なんていうか…その読みがほとんど外れるだけで…。
おかげで人の10倍ため息ついてると思う。」
うっそ~、コウ実は超面白いっ。
そいえばコウってすごぃため息多いよねっ。
「自分がユート並になるか、世間の人間がみんな姫並になってほしいって最近思ってるくらいだっ。」

「フロウちゃん?」
「うむ。」
そいえばまるで正反対なのに意外に仲良しだよね、コウとフロウちゃんて…

「姫はな…いいぞ。こっちがどんなに外れた事言っても気にしてないから。
で、おっとりしてるようでいて、自分の意見は断固として主張するからすごくわかりやすい。
いつでも何かしら話してるから、沈黙で気まずくなるってこともないしな。」
なるほど~~そう言われてみればそうかもっ。
「ね、そいえばコウとこんなに雑談したの初めてだよねっ」
「そりゃ…お前何が地雷なのかわからなくて怖くて話せないから。」
「え~?それコウの方だよっ」
お互いそう思ってたのか~。
コウもそう思ったらしくて、二人して笑った。

笑い声が処置室まで聞こえたらしい。

「なんだか…たのしそうだね、何話してたの?」
ユートがやっぱり笑いながら出てきた。
さすがに…本人の噂をしてたとは言いにくい。

「ん~、とりあえずまあ俺の正体とか。それより傷平気か?
深くはなかった気はしたけど」
私がどう返していいかわからなくて迷ってると、コウが言ってユートに席を勧めた。
「うん、傷自体は全然。大きいけど浅いからすぐ治るって。」
「な、言った通りだろ。」
ユートの言葉にコウは私に笑いかけた。
でも…ユートの腕には包帯がグルグル巻かれてる。
「…ごめ…」
痛いよね…てか…これでもまだ運が良かった方で…下手したらユートまで死体になってたんだよね…
もしユートが私だったら…絶対に絶対に呼び出したりしなかったよね…。

また申し訳なさと自己嫌悪と一緒に涙が込み上げてきて私は嗚咽した。

「……おい……なんとかしろ、ユート。俺なんかまずい事言ったのか?
こいつ真面目にわからん…」
隣でコウがため息をつく。
「コウは相変わらずだなぁ……女の子は色々複雑なんだよ…」
ユートがクスクス笑う声も聞こえる。

「ね、アオイ。実はね、俺あの時は確かに怖かったしまずいよなとは思ったんだけど、その一方でちょっと楽しみだったんだよ」
ユートが少し笑みを含んだ声で言って、私の頭をソッとなでた。
「……楽しみ…?」
涙が止まらない目でコウとは反対側の隣のユートを見上げると、ゲームの時の印象のままの優しい笑顔にぶつかる。
目が合うと、ユートはにっこりとうなづいた。

「あの状況だしアオイが絶対に怖がるのわかってたから強くは言えないでいたんだけど…俺さ、アオイにすっごく会ってみたかったんだ。」

うあぁぁ…。
今…私絶対に赤い顔してるっ。
単純に好奇心からなんだろうってのは想像にかたくないんだけど……
コウみたいにもう一般人のレベルを超えてイケメンとかじゃないんだけど…
それでも普通よりはちょっとレベル高い。
性格すごぃ良くて優しくて勇気あって…もう絵に描いたような好青年にこんな事言われちゃうと…

「だからさ…あの時まず思ったのが、俺の所に連絡きて良かったなって事で…。
アオイに会えないままどんな子かわからないままアオイがいなくなっちゃわないで良かったなって思ってた。
コウとかからすると緊張感ってものが欠落した史上最大の大馬鹿野郎なんだろうけど」

ユートがそこで一旦言葉を切ると、即
「よくわかったな。」
と、コウがお約束の様にツッコミを入れた。
思わず吹き出す私。
それに少し安心したように、目を細めて、ユートが続けた。

「でさ、アオイ、犯人が助け求めろって言った時、ヤダって言ったでしょ。
もうさ、あれ止めてくれ~って思った。
あれで殺されちゃうんじゃないかって思ってハラハラしたよ。
でもそれがアオイらしいなってちょっと思った。
で、現場行ってみたらホントにアオイってキャラのまんまでさ、おお~、アオイだ~って感心したよっ。
ジョブとか損得に関する事にはてんで無頓着なのに、キャラの外見はすごい時間かけて作ったんだな~そこがアオイだよな~とか裏で思ってた。」

その言葉に
「私もユート見た時そうおもったんだけど…」
って私が言ったら、ユートも笑った。

「コウもなんだけどさ…アオイもしっかりしてるようでいて、実は損得とか肝心なとこ全然計算してなくて…ハラハラするんだけど、逆に安心して信用できるっていうかさ…」
「俺は違うぞ。」

ユートの言葉にコウが即否定するが、ユートは笑って首を振った。

「コウさ、リアル明かさないとか言いつつ、自分そっくりのキャラ作ってるし…。
意味ないじゃん」

そいえばそうだよね。

「初めて会った時さ、マジ笑ったよ?」
からかうように言うユートに、
「俺は良いんだっ。」
と口を尖らすコウ。
なんか…すっかり親しい友人って感じだ。

「やっぱり…二人リアルで会ってたの?コウ…私には駄目って言ったくせに……」

少し非難の目を向けてみたんだけど、コウはあっさり肩をすくめた。

「お前が成り済ましメールでヘタ打った時にな。
ユートがリアルで連絡取れないとアオイに何かあった時に動けないから出て来いって強引に自分の特徴と待ち合わせ場所よこして、来ないんなら来るまで待つって言い張るんで…
ま、俺は親までいかなきゃ俺個人をつけまわされる程度なら返り討ちにする自信あるし。」

そう…だったんだ…。
そこまで私のために色々動いてくれてたのに……
保身に走って隠れ続けた挙げ句、道連れにしちゃったんだ…

「おいっ…またか~~?!もうあれか?俺口開かないのが正解か?!」

思わずジワっと涙がうかんできたところで、コウががっくりと肩を落とした。
その様子がおかしくてついついクスっと笑いをもらすと、コウは
「……今度はなんだ?本当にわけわからん女だなぁ…」
とため息をつく。

ユートはやっぱりクスクス笑いながら
「女の子にそう言う言い方しちゃだめ」
と言った後、
「そう言えばさ」
とサラリと話題を変えた。

「結局犯人って誰だったの?本名わかんないあたりって来なくなったからって死んだかどうか確認できないし…コウ情報ないの?」

それだよ!
私も身を乗り出すが、コウは首を横に振る。

「ん~今はまだわからん。とりあえず…死んだの確定なのはゴッドセイバー、ショウ、メグ、エドガー、アゾット。
これは遺品からディスク回収してるから確定。
でもってな、今コネでアゾットの日記を見られるように手を回してるから。
一応証拠物件だから今すぐとはいかんが、近日中にはなんとかする。
だから核心についてはもう少し待て。
俺が知ってる限りの和は…あ、アゾットの本名な、早川和樹だから…すごく頭のいい奴で…絶対にある程度情報持ってたと思うんだよな。
だから日記読めば少しは状況わかる気する」

「コウって…リアル晒しちゃだめとか言いつつアゾットにまで会ってたの?」
私がきくと、コウはそっぽを向いた。

「本名でた時点でわかったんだけどな…同級生で…さらに生徒会で一緒だったんだよ。
俺会長で、奴は副会長。」
「うあ…絵に描いた様な優等生?コウ。」
驚く私にコウはムスっと
「悪友がシャレで推薦しやがってな、そのまま間違って当選して押し付けられたんだ」
と口を尖らせた。

…すごい偶然だなぁ…。
でも…全部知ってたって事はあんなに優しくしてたけど、イヴちゃんの事もやっぱり利用してるだけだったのかなぁ……
優しそうな感じだったのになぁ…。

あ……忘れてたっ。

もう色々あってすっかり忘れてたけどイヴちゃんきっと防犯ベル待ってるね。

「ごめっ、ちょっとメールしてくるっ」

私はあわてて二人からはなれて携帯使用可な場所に行くと、イヴちゃんにメールを打った。

『こんにちはっ
今色々あって病院からなんだけど、今回の一連の殺人事件の犯人が捕まりました。
だからもう怯えないでも大丈夫だよ~v
アゾットの事は残念だったけど、ゲーム内で寂しくなったら遠慮なく声かけてね。
もう危険がなくなって急いで魔王倒す必要もなくなったから街でおしゃべりとかでも
おっけぃだよ♪
ゲーム終わって落ち着いたらみんなで一度会えるといいね。
Byアオイ』

送信っと!
とりあえず…これで恐怖の殺人事件も、慌ただしかった一日も終わりだ。


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