聖夜の贈り物 9章_1

…人肌が温かくて心地よい事を知ったのはつい最近だ…。
大きな手になでられるのは気持ち良い…。
抱え込まれるように抱きしめられるのも不快じゃない。
もう二度と体験することはないだろうけど…



体のあちこちが痛い事で、ああ、自分は死んでいなかったんだな…とぼんやり思う。
というか…あれだけの魔法をまともにくらったにしては、随分軽傷のようだ。
痛みに弱い魔術師の自分が耐えられる程度の痛みですんでいるというのは本当に奇跡と言ってもいいだろう。
それは本来ならば喜ぶべき事なのだろうが、アーサーは喜べなかった。
あのまま死ねていればこんな胸の痛みを感じなくても良かっただろうに…。

目をつむっていてもわかる薄暗い部屋。
拘束もされずに普通に柔らかい布団に寝かされているのは、怪我人である事を考慮されているためだろうか。
自分を騙していた敵国の魔術師に対してこの待遇とは、相変わらずおひとよしだと思う。
それでも近くにあの温かな気配を感じないのは、さすがにこんな人間とは気分が悪くて側にいたくないからだろう。
そろりと重い瞼を開けると見覚えのある部屋。
アントーニョの部屋だ。
怪我人を拘束するのは心が痛むが、かといって罪人を逃がしても困るから自分の目の届く場所に…。あの心優しい男のことだ、そんなところだろうか。

そんな残酷な優しさは要らない。
いっそのこと怒りに感情的になって目覚める前に殺してくれればよかったのに…。
アーサーの大きな緑の眼から涙があふれる。
怖い…怖い…怖い…
あの温かなまなざしが、嫌悪に変わったのをみるのが怖い。
まなざしから逃げたくて痛む体をひきずるようにベッドから降りようとしたが、力の入らない足がもつれる。

「アーサーっ!何やっとるん!!」
しまった!!
倒れた音でさすがに気付いたのか、ひどく切迫したような声と走り寄ってくる気配。
嫌だ!嫌だ、聞きたくないっ!見たくないっ!
逃げないとと思うのに、手足は自分のものじゃないように言う事を聞かない。
体と一緒に落ちたシーツの海を泳いでると、ひょいっと救出され再度ベッドの上へ。

「もう無理せんといて。…頼むわ…。」
ペタンとベッドの上に座らされて両頬を包み込む大きく温かい手。
コツンと額に額を軽くぶつけられて、次の瞬間ギュッとだきしめられる。

「守ってやれんくて堪忍な。でももう二度とあんな無茶な真似したらあかんで。俺は頑丈にできてるし平気なんやから。アーサーに怪我させる方が1000倍つらいわ。死んでまうかと思ってんで。」

ぽつりぽつりと雨が降る。
お日様が泣いている。
「…アントーニョ?」
様子を伺おうと少し体を離そうとするが、更に抱きしめる腕の力が強くなる。

…なんだか思っていたのと様子が違う…と、まだ状況がつかめずに抱きしめられたままきょとんとするアーサー。
一瞬怒ってないふりをして喜ばせてから突き落とすとかそういうやつか?とも思ったが、実兄達じゃあるまいし、そこまでやらないだろう。
なにより
「ほんま…心配したんや。死ぬほど心配したんやで。」
と嗚咽の中から漏れる言葉は嘘とは思えなくて、とりあえずアントーニョが落ち着いたら話を聞こうと、アーサーはそのまま大人しくしている事にした。
(別に…ぎゅってされるのが心地いいからもう少しこのまま…とか思ったわけじゃないんだからなっ)
と、誰に言い訳しているのかわからないが、一応心の中で言い訳をしながら。




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