聖夜の贈り物 6章_2

「あ~…ばれてもうたのかぁ…」
フェリシアーノと共に訪ねて行くと、ちょうど邸宅から出ようとしてたアントーニョとはち合わせた。
そして金髪の子供の事を問い詰めたら、アントーニョはのんきに頭をかきつつ、あっさり認めた。
そして
「ま、ばれてもうたらしゃあない。とりあえず話すから入ったって」
ドアの所で少し体をずらして、中へとうながした。
「え?でもアントーニョ兄ちゃんどこかへでかけるとこだったんじゃないの?俺達待ってるからいいよ?用事すませてきて?」
と、フェリシアーノが言うのに、ちょっと考え込んで
「ま、ええわ。まだ平気やろ」
とつぶやく。
「まだ平気って何がだ?」
なにやら不穏な発言に、今度はロマーノが反応すると、アントーニョは困ったような笑みを浮かべた。
「あの子体つよないねん。散歩行ったのはええんやけど、あんま長時間になると倒れ取る事あるから。普段は倒れても回収できるようにこっそりあとつけとるんやけどな」
「それ…全然平気じゃねえだろ。いいから歩きながら話せ」
そんな相手じゃなるほど人のよいアントーニョが放っておけなくて連れ帰るわけだ。

行く道々聞いたアントーニョの話によると、一緒に暮らす事にした少年は、シャツとズボンの軽装で戦場の崩れた建物の下敷きになって倒れていて、連れ帰ったのは良いが頭でも打ったらしく記憶がなくなっていて身元もわからない、そういう事らしい。

「その話…信用できんのかよ。」
とりあえずそれだけでは騙されてる可能性も否めないと、ロマーノが疑いの声をあげると、
「ロマーノは箱入りに育てたはずやのに、用心深いなぁ…。アーサーにもそのくらいの用心があるとええんやけど…」
とアントーニョは苦笑した。

「だ~か~ら~、それも演技かもしんねえだろ!記憶なくしたフリして実は刺客で命狙ってるとか…」
そう言ったらアントーニョの事だ、てっきり『あの子はそんな子ぉやない』とか、そういう類の言葉が返ってくるかとロマーノは思っていたが、伊達に戦場を渡り歩いていたわけではないらしい。意外な答えが返ってきた。

「手ぇがな、違うねん」
と、自分の手を目の前にかざす。

「柔らこうて、剣とか握った事ない手なんや。それどころか畑仕事も水仕事も、いわゆる仕事って言われるような事なんもしてこんかった手や、あれは。拾った時に着てるもんが上等やったってのを別にしても、ええとこのボンやってのは間違いないわ。」

「なるほど…手か…」
ロマーノも釣られて自分の手をマジマジと見る。

「そんなええとこの子がなんで一人で戦場なんてきやったんやろって考えて見たら…理由なんて誘拐されたか、お家騒動とかでわざわざ危ない場所に放置されたかしかないやろ。本人がなんも覚えてへん状態で関係者に見つかったら危ないやん。せやからな、思い出すまではなるたけ他人に会わさへんようにして、記憶戻るのまってやりたいねん。」

筋は通っている気はする。
アントーニョの得にはならない事には変わりはないが、本人がそれで良いならこれは放置してやっても問題ないのか…

ロマーノが少し無言で考え込んでいると、アントーニョは
「それにな…」
と続けた。
「なんか可愛ええんや、アーサーは。世の中の事なぁんも知らん、小さな子供みたいなとこあってな。放っておけへんていうか…守ってやらなって気になるねん」
そう言うアントーニョの顔があまりに幸せそうで…
(あ~、もう何か起こるまで放っておくか、これは)
なんだか毒気を抜かれてロマーノは、そう思った。

「まあ…一度会えばロマもわかるわ。でも会って納得したら騒がんと放っておいてやってな。怪我治ったばかりで体調もようないし、記憶なくて色々初めてだらけやし、精神的にも疲れてまうからな。」

ロマーノといた頃も過保護だったものの、今回も事情が事情なせいもあるのか、ずいぶん大事に大事にしているらしい。

その後、少年のお気に入りの場所だと言うトマト畑の一角に行くまで、紅茶と刺繍が趣味だとか、散歩中によく植物に話しかけてる様子が可愛くてだとか、それはそれは、まるで恋い焦がれた少女について語るように語られて、正直ロマーノも返答に困った。
そんなロマーノを横でフェリシアーノがクスクス笑う。
弟は弟で兄であるロマーノの事を随分心配してくれていたのだ。
ここにきてほぼ口をはさまず黙ってロマーノ達のやりとりを聞いていたが、とりあえず片がついたらしい事を察してほっとしたのだろう。

そんな和やかな空気は、前方から聞こえてきた叫び声で一瞬にして破れさった。
「フェリちゃん、これ貸したって!!!」
敷地内とあって武器を持たずに来たらしいアントーニョは、フェリシアーノの腰から護身用に携帯していた剣を抜き取ると、ものすごい勢いで走りだした。

ロマーノは一瞬迷って横にいるフェリシアーノを振り返ったが、同じく自分を振り返ったフェリシアーノが行こうと言うようにうなづいたので、腰に刺しておいた護身用の短剣を念の為手にすると、アントーニョの跡を追う。







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