聖夜の贈り物 6章_1

(クラウス…死んじゃやだっ!行かないでっ!死んじゃやだぁぁ~~!!!)
目の前で命が消えて行く絶望感…フェリシアーノは確かにそれを知っていた。

目の前で血だまりを作っている少年の色素の薄さは、遠い昔に失った大切な彼を思い起こさせる。
流れる血、そこにすがりついて泣くのは今は自分ではないけれど……


背負う勇気のなかった子供の自分…
行動しなかった後悔は一度きりでいい…

「兄ちゃんっ!」
フェリシアーノは固い決意を持って自分の横に茫然と立ち尽くすロマーノを振り返った。
「俺頑張ってみるけど、俺じゃ無理だから…すぐ城にむかってルートに言って。“ギルのブレスレットを外して”って。そう言えばわかるからっ」




「おい、ムキムキ野郎!馬鹿弟がギルベルトのブレスレット外せってよ」
弟に半ば命令されるように追い出されて、徹夜で馬を走らせて城に戻れたのは翌日の早朝。

ロマーノはフェリシアーノに教えられた抜け道から城内にこっそりもぐりこんでルートヴィヒの私室に忍び込んだ。
そこでこれまたフェリシアーノから預かった犬笛を吹く。
それは人間の耳には聞こえなくても、ルートヴィヒが常に連れ歩いている彼の犬がしっかり音を聞き取って、フェリシアーノが彼を呼んでいる事を伝えるらしい。

バタン!と乱暴に開くドア。
おそらく一晩中必死にフェリシアーノを探していたのだろう、顔色をなくしたルートヴィヒが駆け込んでくる。

ドアを閉めてまずロマーノの姿を認めたルートヴィヒは何かを探すように周りを見回す。

「馬鹿弟ならいねえよ。お前に伝言を伝えろってな、お兄様を使いっぱに使いやがって」
ロマーノの言葉に明らかな失望の色を見せながら、それでもルートヴィヒは
「フェリシアーノ……王子は無事なんだな?」
と確認をする。
「だ~か~ら~、言っただろうがっ。皇太子の俺に使いっぱ頼むくらいには元気な頭してやがるぜ?」
「そうか、なら良かった」
ルートヴィヒはロマーノの嫌みは完全にスルーして安堵のため息をついた。
しかし心底ほっとした顔をしたルートヴィヒは、続けてはかれた冒頭のロマーノのセリフでまた青くなったのだった。

ギルベルトのブレスレット…その言葉で、いつも強い意志を持って迷いなく物事に臨む彼にしてはひどく戸惑ったように視線をさまよわせ、最後にさまよう視線をロマーノに向けて口を開く。
「それは…そうする事でどんな事態を引き起こすかわかっていってるのか?」
迷った末の確認のような視線に、ロマーノは眉を寄せた。

「…何が起きんだよ?俺は言われた通りに伝えてるだけで、何も知らねえよ。ただ…てめえが拒否るようなら、“皇太子として”命令してでも従わせろって…馬鹿弟が…」
モゴモゴと口ごもるロマーノに最後まで言わせる事もなく、ルートヴィヒはクルリと反転してドアを開けた。

「兄に会いに行くぞ。鍵は持ってきているんだろうな?」
顔だけ振りかえって、これが本当に最終確認とばかりに言うルートヴィヒに、ロマーノはフェリシアーノから預かったペンダントをチャリンとかざす。
それを確認するとルートヴィヒは無表情にうなづいて、部屋の外へとロマーノをうながした。

「皇太子殿下が所用で少し出かけられるので、随行する」
ルートヴィヒは門番にそう言って門を開けさせる。
どうやらロマーノ達がこっそり城を抜け出したと言う事は極秘事項とされていて、一部の近衛兵しか知らないらしい。

余計な事を言うなよ?…とばかりにルートヴィヒが目配せをするので、ロマーノは素直にうなづいた。
弟の使いっぱにされたり、ムキムキの言う事を聞かされたりとシャクな事だらけだが、今回ばかりは今の状況を打開できるなら、出来る限りの努力はしようと思っている。
いや、出来る限りではまずい。出来なくてもやらなければ…。

ロマーノだってこんな事になるとは思わなかった。
ただアントーニョが心配だっただけなのだ。
よもや自分の行動が彼を追いつめる事になるとは、本当に想定外、間違っても望んでいたことではなかった。




0 件のコメント :

コメントを投稿