続 聖夜の贈り物 - 大陸編 9章_1

「こんなに広いのに人の気配が全くしないって…不気味だよな…」
ナターリアに案内されて中に入って広いホールに足を踏み入れた瞬間、思わずそうつぶやいたロマーノの言葉に

「不気味でごめんね」
といきなり声が降ってくる。
文字通り…正面にある階段の上から階段を使わずにス~っと滑るように一行の前に降ってきた大柄な男。

うあぁぁ~!!!!
と悲鳴を上げてロマーノはギルベルトの後ろに隠れ、アントーニョはアーサーを、ルートヴィヒはフェリシアーノをそれぞれ背後に隠す。

そんな一行の態度を気に留める様子もなく、男、イヴァンは
「ナターリヤ、僕のために宝玉関係者を連れてきてくれたんだね。ありがとう。これでようやく宝玉が完成するよ。」
と、にこやかに妹に礼を言った。

それに一瞬嬉しそうな顔したナターリヤは、しかしすぐ表情を引き締めた。

「兄さん、違うんです。」
「違う?」
イヴァンは大男に似合わぬ可愛い仕草で首を傾ける。
「はい。今日は兄さんが宝玉を完成して何をしたいのかをこの者達に説明して頂きたくて」
「説明…ねぇ…。ふ~ん?」
そこでイヴァンは初めて一行に目を向けた。

「君が…“選ばれし者”だよね?そんな魔力を感じる」
イヴァンは音もなくアーサーに近づき、その腕を取ってアントーニョの後ろから引きずり出す。
そこで一行は初めて身体が動かない事に気付いた。

いつのまに…!
人間でないためその魔力の効果を受けなかったアルが慌てて飛び出そうとするのを手で制して、ナターリヤは自分が兄とアーサーの間に割って入った。

「兄さん、術を解いて下さい。そして説明して下さい。」
「なんで邪魔するの?可愛いナターリヤ。」
「お願いします。話をして…そして話を聞いて下さい」
懇願するナターリヤをイヴァンは不思議そうに眺める。

「話してもきっと聞いてもらえないよ。外の人達は僕達とは違うもの」
まるで無邪気な子供のような口調でそう言うイヴァン。
「それじゃあダメなんです。私も兄さんも…」
「ふ~ん…まあいいや。何をしたいか話せばいいの?」
「はい。お願いします。」

「僕はねぇ…ヒマワリを咲かせたいんだ。」
「は?」
宝玉を使ってわざわざヒマワリ?
ぽか~んとする一同。
その反応はイヴァンのお気に召さなかったらしい。
むぅ~っと拗ねたように口をとがらせ、
「ほら、変な顔されたじゃない?」
とナターリヤを振り返った。

「い、いや、ちょぃ待て!だってそれってすげえ大変な思いして集めないといけない宝玉の力を使ってまでする事なのか?ヒマワリ自体は悪いとは言わねえけどさ…」
あわててフォローに入るギルベルトに
「世界征服したい…とでも言って欲しかった?」
とにっこりほほ笑むイヴァン。
いえ、ヒマワリで結構です…と、ギルベルトはぶんぶん首を横に振った。

「本当はね僕も世界征服したいとは思うんだ」
少し遠い目をして始めるイヴァンに思い切り引く一同。
「宝玉の力でこの一帯以外を不毛地帯にしちゃえば皆僕と一緒にいてくれるかな~って思わないでもないんだけど…。
でもそれじゃあここまで来れる子しか会えないじゃない?
移動手段なくて飢え死にするしかない子の中にも僕と仲良くなれる子がいるかもしれない」

「君は馬鹿かい?」
全員を固まらせたイヴァンの独白を空気を読まずに遮ったのはアルだった。

「単にヒマワリが植えたいなら暖かい地域に引っ越せばいいし、友達が欲しいなら待ってないで自分で探しに行けばいいじゃないかっ」
と、腕を組んで仁王立ちで言い放つ。

うん…まあそうだよな、と、一同は心の中で同意する。

「あ~、そんな事考えてもみなかったなぁ…。み~んな僕の方に取りこんじゃえば良いとしか考えてなかった。」

大陸一の深淵なる呪術師…呪術としては看板に偽りなしなのかもしれないが…中身はアーサー並みやん…と、アントーニョは失礼な事を考えていた。
もちろん、他も似たり寄ったりの事を考えている。

ただ一人ナターリヤだけは彼が自分の兄なのだと納得した。
能力がありすぎるがゆえに、それを上手に活用する術が身につかなかったのだ。
さきほどの戦闘で周りを見ずに力技で押そうとしていた自分と同じだ…と。

根本が似ているからナターリヤは兄を愛しいと思い、根本が似ているから兄は自分をあまり見たくないのではないだろうか…とも思う。

そして唯一性質を同じくしない姉だけが外の世界へと飛び立っていった。

でも私や兄さんは重すぎる能力を抱えて飛べる翼がない…と、ナターリヤは思う。

「でもさ~、いきなり知らない所に行って友達作ろうとするより、こっち連れて来ちゃった方が確実だと思うんだけど…」
「そういう後ろ向きな考えだから友達できないんだぞ!」
大陸1の呪術師様の言葉を一刀両断にするアル。

うあ~~とナターリヤをのぞく全員が内心頭を抱えた。

そしてただ一人ナターリヤはポツリと
「そうかも…な。」
とつぶやく。
「決めた。私はお前と行くぞ!」
「ほんとかいっ?!」

もういきなりすぎて誰もついていけずに反応しない中、アルだけが即ノリの良い反応を返す。

「ナターリヤ……君まで僕を置いていくのかい?」
ナターリヤはそこで初めてくらいイヴァンに気にとめられた気がした。
たぶん…自分も兄も自分からは環境を変えないし、環境が変わる事も想像してないし、だからこそ変わる事に拒絶反応を起こして変えまいとするのだろう。

しかしそこから抜け出さない事にはいつまでたっても自分達は変わらない。

「兄さんも…行きましょう?」
ナターリヤは片手でアルの手をつかみ、もう片方の手をイヴァンに差し出した。

「こいつは無神経で弱虫で泣き虫でどうしようもないダメな奴だが…きっと私達を変えてくれます。」

その言い草にアルは口をとがらせてブーブー文句を言うが、
「だまれ!100キロ先に置き去るぞ!」
と、ナターリヤが脅すと、
「卑怯だぞ!」
と言いつつも黙る。
「う~ん…僕無神経な子は嫌だなぁ…」
「俺だって後ろ向きなごつい呪術師なんて嫌なんだぞ!」
「……100キロ先に……」

「君……ひどいんだぞ」
恨めしそうな眼を向けるアル。

しかし次の瞬間
「でもお前はそういう私が好きだろう?」
と、花がほころぶような満面の笑みを浮かべるナターリヤ。

「…ぅあ……」
ぽか~んとアルが見惚れている間に、スッと元の無表情に戻る。

「ということで…こいつに文句は言わせないので、行きましょう、兄さん」

そうこうしているうちに、とりあえず呪術は解いてくれたらしい。
全員動けるようになって各々身体をほぐしている。

「女は強いなぁ…」
と感心するアントーニョに
「うん。でも素敵な強さだよね♪やっぱ女の子いいよね~。」
とニコニコ応じるフェリシアーノ。
「そうだな…ナターリヤ美人だし…」
と、そこでアーサーが口をはさむと、
「親分かて、ええ男やろっ!」
と、アントーニョは慌ててナターリヤに向けているアーサーの視界を遮った。
「でも…髪とかサラサラだし、スタイルいいし…」
「あ~、もうええわっ!」
アーサーの言葉を遮って、アントーニョはつかつかイヴァンに駆け寄った。

「もうヒマワリ咲かせるでも、妹とどっか行くでもどうでもええから早く決めたって!」
「男の嫉妬はみっともないよ?」
詰め寄るアントーニョににこやかに言うイヴァン。
「確かに僕の妹だけあってナターリヤは美人さんだしねぇ…」
ううっ…と恨めしげに黙り込むアントーニョ。

そこでアルが
「じゃ、そう言う事で俺達は行こう!ナターリヤ。」
と、すかさずナターリヤの手を引っ張った。

それを見たイヴァンはまたにっこり…
「やっぱりアントーニョ君よりアル君の方がからかい甲斐ありそうだなぁ。そっちにしよっと♪」

うぁ…性格悪ぅ~と思わずつぶやくアントーニョに
「何?やっぱりゆっくり考えて欲しい?」
とイヴァン。
「いえいえ、行ったって下さいっ。」
と、アントーニョは慌てて首を横に振った。

「じゃ、そういう事で行こうか♪」
イヴァンは鼻歌を歌いながらアーサーの腕を掴んでナターリヤ達の方へ向かいかける。

「ちょ、待てや~!!!」
そこでアントーニョがアーサーを奪い返した。
「なに人のモン連れてこうとしとるんやっ!」
「え~?だって彼魔術師だから♪ヒマワリ綺麗に咲かせてくれそうだし」
「そんなん自分でやればええやん!」
「呪術じゃ花は咲かないんだよ?」
「じゃ、自分で努力しっ!」
「ふふっ。じゃ、それは努力するよ。ということで…ひまわりの花と同じ色の髪と葉と同じ色の瞳が可愛いからもらってくね♪」
「や~め~!!!アーサーも少しは抵抗しっ!」

「とりあえず、アントーニョがうるさいからお前はこっちな。」
ロマーノが呆れたようにため息をつくと、アーサーの腕をつかんで自分の後ろに隠す。
「あの…イヴァン?」
ロマーノの後ろからおずおずと声をかけるアーサーに
「うん、それは君へのプレゼント。君の魔力の雰囲気は覚えたからまた遊びに行くね♪」
と、イヴァンはヒラヒラ手を振った。

「ありがとう。お前良いやつだな。」
と返すアーサーに、イヴァンは一瞬ぽか~んと呆けて、次にニッコリ微笑む。
「そんな事言われたの初めてだ。やっぱり僕君の事好きだなぁ。そのお日様が暑苦しくなったら、僕の所に涼みにおいでね♪」

そう言い残して、今度は本当にナターリヤとアルの方へ向かう。

「君…無理に来なくていいんだぞ?!なんならあっちの暑苦しいおっさんと一緒に遊んでたらいいんじゃないかい?」
「それ以上言ったら100キロ……」
「うぅ…わかったよ!君も一緒でいいから、世界平和を守るために出発するんだぞっ!」
そんなやりとりを交わしながら、3人は仲良く箒で飛んでいく。

それを見送ってため息。

「あ~!!!」
いきなりフェリシアーノが叫び声をあげた。
「土の石!あれないと宝珠完成しないよっ!」
「うぁ、フェリちゃん、おっかけようぜっ!」
と同じく慌てるギルベルト。

そんな喧騒の中、アーサーはロマーノの腕をクイクイっと引っ張った。
「これ…さっきもらった。」
「おま…これって」
「ああ、土の石。」

「え???」
その言葉に全員が集まる。

「揃っちゃった…んだ…」
ぽか~んと呆けたようにつぶやくフェリシアーノにうなづく一同。

「すげえな。伝説再びだぜっ!」
興奮するギルベルトにロマーノが冷ややかにつっこむ。
「でも島の平和とか抽象的な願いが叶うわけじゃないってわかったわけだし、何に使うんだよ?」
「あ~そうだよねぇ。ならいっそヒマワリでも良かった?」
「いや…ここ北でヒマワリ咲かせようって事になるとだ、それなりにこの土地熱くするって事だから、自然形態狂うし、下手するとここから温暖化が始まって、氷山とか解けだして、水没する国とか島とかでるぜ」
ギルベルトの言葉に、なるほど~とフェリシアーノはうなづいた。

「とするとや、下手な事頼まれへんわけやな?同じ理由でおかしなことになる可能性あるやん?」
「ま、そういう事だ。だから本来持っている特色を強めるのは良いけど、持ってない特色持たせるとかはやめた方がいいと思うぜ。」
「なんだか難しいんだねぇ…なんだか俺もういいや。ルートといられればどうでも」
「フェリシアーノ…」

見つめ合う二人にチッと舌打ちをし、ロマーノは自分が預かっている水の石をアーサーに手渡した。
「元々俺は部外者だからな。こいつはお前に任せる。」

「アントーニョ…どうしよう?」
自分は単にフェリシアーノのために集めていただけなので、それこそどうしていいかわからず、アーサーはアントーニョを見上げた。

「う~ん…俺かて自分おればなんも要らんのやけど……」
と考え込むアントーニョ。

「あ、そやっ!」
しばらくして、良い事思いついたとばかりに手を打った。
「なになに?なんか良い考え浮かんだの?アントーニョ兄ちゃんっ!」
フェリシアーノが駆け寄ってくる。

「スコ兄にやったらええやんっ!アーサーの結納代わりにプレゼントしたろっ!」
「結納ってなんだよ、結納って」
「え~、やって、可愛ええアーサーは親分がちゃんと責任持って頂きますって事で…」
というアントーニョの言葉はすこ~んとハリセンで後頭部をどつかれて遮られた。
「な、なんなん?ロマ」
涙目で後頭部を押さえて聞くアントーニョに、ロマーノはしれっと
「いや、アーサーの両手がふさがってたから代わりに殴ってやった」
「ロマ~」
ヒシっとロマーノにすがりつくアーサーの頭をロマーノはよしよしとなでてやる。
「すっかり二人兄弟みたいに仲良しだね~。兄ちゃんは俺の兄ちゃんでもあるからアーサーは俺の兄弟で親友って事で♪」
にこやかに言うフェリシアーノ。

「ま、とりあえずアーサーのお兄様に会いに行こうぜ。結納うんぬんて戯言はおいといて、でも一番安全に効果的な活用法考えられんのは確かにカークランドかもしんねえし」
最終的にギルベルトがそう言って、

「じゃ、力使うのこれで最後だね」
と少し寂しそうにフェリシアーノはアーサーをうながした。
こうしてアーサーに引き出させた風の石の力で一行は一気にまたカークランドの城へ向かったのだった。






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