続 聖夜の贈り物 - 大陸編 6章_1

「薬って……なに?」

ギルベルトの口から出てきた“薬”という言葉。

もちろんそれが治療薬だなどとおめでたい事はアントーニョとて思わない。
ただ信じたくない、考えたくない、そんな気持ちでアントーニョは聞き返す。


「拉致のための睡眠薬…くらいで済めばいいんだが…」
言いにくそうに言葉を濁すギルベルト。
その脳内には“麻薬”という言葉がうかんでいるのだろう。

「とりあえず…船出してや」
アントーニョはフランシスの腕を掴んで立たせると、出口へとうながす。
一刻の猶予もならないと思う。

「ちょっと待った。とりあえず港に連絡取る。で、船が出港してるようなら、特急便使うから…まあ…なんというか…使いたくないんだけどねぇ。使っても使わなくてもお兄さん死亡かなぁ…」
ブツブツ言いながら、フランシスは配下を呼び寄せ、指示をする。

イライラと待つ事数十分、
船の出航を確認した。

「しかたない…。島戻るよ。でも全員はたぶん無理。船じゃないから。」
「何人くらいいけるん?」
「ん~~どうかな~~3人くらい?」
「じゃ、俺とルートで決まりだねっ」
勢い込んで言うフェリシアーノに、本人以外の生温かい視線が集まった。

「アントーニョとルートは良いとして…お前行ってなにできんだよ?」
皆が遠慮する中、そこはさすがに兄弟。
ロマーノが的確な突っ込みを入れる。

しかしさらにそこはさすがに王子様育ち。
フェリシアーノは堂々と言い放つ。
「だって俺アーサーの親友だし、俺がいるとルートは2倍強くなるって言ったもん」

言ったのか…お前そんなこいつを調子に乗らせる事言ったのか?
と、今度は全員の生温かい視線がルートヴィヒに向けられる。

「…あ~……」
何と言っていいのか、ルートの方はさすがに気まずそうに言葉をなくす。

しかし結局
「あ~、もうええわっ!俺が戻れればあとは何でもええ!はようしてやっ!」
と、焦れたアントーニョの言葉によって切り上げられ、結局フランシスの邸宅までは全員で行く事になった。

ハルバードの柄でゴンゴン急かされ、痛い痛い叫びながら自宅に連行されるフランシス。

「とりあえず…お兄さん先に事情説明するから…お願いだから余計な事言わないでね」
と、邸宅のとある部屋の前でフランシスが懇願する。
「もうそんなんどうでもいいわ。とにかく急いでやっ!」
「はいはい、お兄さんだって急がないと自分の身が危ないから急ぎたいよ。だから余計な事言わないでね」
本気で半泣きでフランシスは部屋のドアをノックした。

「あっれ~、ウィル来てたんだ~♪久しぶり~♪」
フランシスがドアを開けた瞬間、中にいる人物の姿を認めたフェリシアーノはタタっとかけよって、ウィリアムの両手を取り、ぴょんぴょん飛び跳ねた。
「フェリ~、久しぶりだね~」
とこちらも嬉しそうに手を握り返すウィリアム。

「ウィル…お兄さんに対する態度と差ありすぎ。なんでみんなこんなに愛がないのよ」
「え~、だってフェリの方が可愛いし?」
「お兄さんだって美しいでしょ?!」
「髭キモい。全部抜いてからなら検討するっ」

「あ~!!!もうそんなんどうでもええわっ!!はようしたって!!!」
そんなやりとりにアントーニョがキレた。

「あ~そう!そうだよっ!!ウィル、お願いっ!南の国まで連れて行って!!」
そこでハタっと我に返ったフェリシアーノが手を合わせると、ウィルは
「いいけど?」
とあっさり了承する。

「でさ、何人くらい乗れる?」
「ん~フェリのお願いなら何人でも?でもさ、あそこ磁場のせいで魔法効かなくなるから、国境までになるけどいい?」
「うん!お願いっ!」
あっさり交渉が可決して、フランシスは
「お兄さんの立場は?何?そのお兄さんの時との差は…」
とつぶやく。

「髭は放置でっ。とりあえず急いでるみたいだし、事情は空で聞くと言う事でいい?」
と、ウィリアムは空飛ぶ絨毯を呼びだした。

そこで全員乗りこみかけて、ウィリアムはふと視線をマシューに向けた。
「そこの子供はやめておいたほうがいいね。あそこは磁力の干渉がひどくて魔法生物は下手すると壊れるから」

伊達に魔術師一家で育っているわけではないらしい。
ひとめでマシューを人間じゃないと見抜いたウィリアムはそう忠告する。

「どうしよう?誰か残る?」
とフェリシアーノ。
「僕なら一人で大丈夫なので…」
と言いつつ少し涙目なマシュー。
「あ~、ならあれだ。行きがけにあいつに預けて行こう」
ギルベルトがポンと手を打つ。

こうして…行きがけにマシューを預かってくれるようオランに頼む一行。
「大丈夫。お兄ちゃん、珍しく煙草に火ぃつけるくらい喜んでるさかい」
と、謎の言葉で請け負うベルの言葉を信じて、マシューを預けると、7人は再び故郷の島へと向かった。





0 件のコメント :

コメントを投稿