続 聖夜の贈り物 - 大陸編 1章_1

「お待たせ~♪」
待ち合わせ場所の街外れの広場で、フェリシアーノは一足先に待っていたアーサーに抱きついた。
「装備…揃えたか?」
アーサーを実家から救出したその足で大陸に渡ったため、その時に武装していたアントーニョとルートヴィヒはとにかくとして、ほぼ丸腰だったフェリシアーノはそのままではまずかろうと、大陸の街についてすぐ、ルートヴィヒと装備を買いに行ったのだ。


しかしアーサーの問いに
「うん♪」
と元気よく答えた割には、フェリシアーノは特に武器も防具も装備している様子はない。

「フェリ…俺には何も装備してないように見えるんだけど、気のせいか?」
と、アーサーが首をかしげると、フェリシアーノは
「重いからさ、ルートが持ってるよ」
と、後ろから従者よろしくフェリシアーノの荷物をかかえてついてくるルートヴィヒを指さす。

そのムキムキの両手には軽そうなランスと腕につけて使うタイプの白い盾、バックラー。
訂正…ムキムキの腕に抱えられていると軽そう…なのかもしれない。

事実
「あれってルートが持ってても意味ないやん。武器防具はちゃんと装備してへんと意味ないんやで?」
と、RPGで最初の街に出てくる説明役のNPCのごとくアントーニョが極々当たり前の指摘をするのを、フェリシアーノは
「だって…重いんだもん」
と、一言で片づける。

「装備買った意味ねぇ…」
と、普段はボケ役であるはずのアーサーですらつっこまずにはいられない。


「俺が付いて行ってやった方が良かったんかな…。装備できひん武器防具買うてもしゃあないで」
アントーニョのもっともな意見に、ルートヴィヒは
「これでも店で一番軽量な物をと選んでもらったんだが…」
と困ったように眉を寄せた。

「いや、そもそもこれランスって前衛装備やん。なんで後衛装備にせえへんの?それやったらもうちょぃ軽いもんあったんちゃう?」
さすがに現場生活が長いアントーニョは普段はこだわらないようでいても、そのあたりの突っ込みは適切だ。
それはルートヴィヒにもわかっているらしく
「そうなんだが……な」
と、珍しく歯切れの悪い言い方をする。
そこで……
「だって俺だって誰か守ってみたいんだもん♪」
言いあぐねていたルートヴィヒに変わって、フェリシアーノが笑顔で宣言した。

「あちゃあ……」
天真爛漫に要望を通そうとするフェリシアーノに、それでなくても彼に弱い生真面目なルートヴィヒがかなうわけはない。
武器屋で行われたであろう、ほぼ一方的な攻防が想像できすぎて、アントーニョは額に手を当てて天を仰いだ。

ルートヴィヒがダメだとすると…これはもう自分が説得するしかないんだろうなと、アントーニョは腹を決める。
「あのな、フェリちゃん」
「ん?」
「武器防具なんも装備できひん状態で、他人どころか自分の身も守れんのとちゃうん?」
「大丈夫っ!戦闘の時になったら頑張って装備するよっ♪」
「いやいやいやいや…城の午前試合とちゃうからな?戦闘っていきなり始まるんやで?始まってから装備じゃ間に合わへんがな。ルートかて即戦闘態勢に入らなあかんから、フェリちゃんに装備渡してる余裕ないで?」
最悪…フェリシアーノが戦力外になるのは目をつぶるとしよう。
しかし、このメンバーで自分以外では唯一戦力になりそうなルートヴィヒまで道連れにされるのはさすがに厳しい。

「…じゃ…盾だけは自分で持つよ。ランスは戦闘になったら放り出しておいてもらえれば…」
少しトーンの落ちるフェリシアーノに、あともうひと押し、と、アントーニョは続ける。
「盾だけで何するん?敵が来てる時に地面に落ちたモン拾うのは危ないで?隙できすぎや。上級者やったら盾だけとかランスだけとかで攻防まかなえたりする事あるけど、フェリちゃんにはそんな真似できへんし、片方だけや意味ないで?」
「…だって……」
「…だってやあらへん。何度も言うけど、試合やないんやで?実戦で負けるっていうのは即命落とすってことやからな。悪い事言わんから後衛装備にかえてこよ?」
たたみかけるアントーニョにフェリシアーノは無言になるが、それでもあくまで“うん”とは言わない。
流されやすそうに見えて、意外に頑固だ。

「武器防具の両方装備できればいいんだよな?」
双方にらみ合ったまま無言になる二人の間で冷や汗を流すルートヴィヒ。
そんな微妙な空気を破ったのはアーサーだった。

「やから、それができひんて言うとるから、もめとるんやで?」
「両方はちょっと重すぎだよ~。動けないよ~」
と、その時だけは声を揃えるアントーニョとフェリシアーノだったが、アーサーは
「フェリ、そのペンダントって…もらっちゃってもいいか?」
と、フェリシアーノの胸元、アーサーを救出する前にフランシスからもらったペンダントを指さす。

「あ。うん。フランシス兄ちゃんにもらった物だけど別に良いよ」
フェリシアーノはそう言って迷うことなく首からペンダントを外す。
「さんきゅ」
それを受け取ると、アーサーは今度はルートヴィヒを振り返り、
「盾と槍をそこに置いてくれ」
と、地面を指さした。
「ああ。ここに置けばいいんだな?」
ルートヴィヒも不思議そうな顔をするものの、その指示に従う。

「じゃ、ちょっと離れてろよ。」
アーサーはパサッとローブを翻して杖を構えた。
呪文を唱えながらフェリシアーノから預かったペンダントを杖を持つ手と反対の手でかざすと、ペンダントが光に包まれ、パリン!と音を立てて割れ、光は重なって置かれたランスと盾を包み込む。
そのままクルクルと回って全てが光に溶け込むと、ポン!という軽い音と共に、光の中から何かが飛び出した。

「盾…どこ行っちゃったの?」
少し警戒して遠巻きにするアントーニョとルートヴィヒを尻目に、フェリシアーノは煙の消えきらない中駆け寄って、ランスを手にした。
「うん、でもちょっと軽くなってる気がする。」
ブンっと降ってみるフェリシアーノに、アーサーは説明する。
「盾はさっきのベンダントと融合したんだ。旗みたいなの付いてるだろ?それ。盾の粒子を使って丈夫な布を作って、ペンダント自体が魔法体制の属性を持っていたから、それと融合させる事で、物理系の攻撃は力を逃して受け流す形で、魔法にも体制もある生地型の防具のできあがりだ。ついでにランスからも余計な重さを抜いておいた。」

「うっわ~~~すごいねっ!アーサーすごい!ありがと~~!!!」
ランスを持ったままのフェリシアーノに抱きつかれ、少し照れたように顔をそらすアーサー。
「魔法工学は得意なんだ。今まであまり使う機会なかったんだけど…」
「俺さ、魔法って何か攻撃したり壊したりするだけだって思ってたけど、こんなすごい事もできるんだねっ。俺これでアーサー守るよっ!」
アーサーを抱きしめたままぴょんぴょん飛び跳ねるフェリシアーノ。

「何言うてるのん?アーサーは俺が守ったるから、フェリちゃんはそれで自分の身守っとき。」
そこでようやく我に返ったようにアントーニョがフェリシアーノからアーサーをひきはがして抱き寄せた。
明らかに機嫌の悪いアントーニョに、フェリシアーノはあっさりひきはがされ、少し困った顔でルートヴィヒを振り返る。
ふられたルートヴィヒは諦めのため息をついた。
口下手なアーサーも感情のまま口走るフェリシアーノも説得には向かない。

「確かに戦闘経験の全くない、守られた事しかないフェリシアーノに他人を守りきるのは無理だ。」
いきなりのルートヴィヒの言葉にフェリシアーノは
「え~?!」
と不満げな声をあげ、アントーニョは
「そうやろ」
と満足げにうなづく。
しかしそこで続きがまだあった。
「だが実際問題、魔術師のアーサーは呪文詠唱の間は無防備になるから、たまよけは必要だ。そして…それを俺やアントーニョがやると、攻撃が手薄になりすぎるし、逆に相手に攻め込まれる。だから……緊急時以外のアーサーへの流れ弾避けをフェリシアーノに任せて、アーサー自身がターゲットになった時は、俺かアントーニョが下がるという形ではどうだろうか?
もとよりフェリシアーノが前に立って戦うというのは無理があるだろうし…アーサーのように魔術師ではないから、後衛といっても弓を使うくらいしかできないわけだが…後ろから味方に射抜かれたくはないだろう?」
「…う……それは……」

さすが戦術だけではなく、フェリシアーノの事も知り尽くしているルートヴィヒの説得だ。
アントーニョも反論できない。
ルートヴィヒはそういうつもりはないのだろうが、後ろからの味方の攻撃…というのはある意味脅し効果抜群だ。
アントーニョはは~っと不機嫌にため息をついた。

「みんながそうする言うならそうしたらええわ。行くで」
気持ちの整理がつかないまま、アントーニョが背を向けて歩き始める。
「あ…アントーニョ、待てよ」
と、アーサーが慌ててそれを追った。

「ヴェ~。アントーニョ兄ちゃん怒らせちゃったね…。」
「うむ…。でもまあ…他にどうしようもあるまい。」
旅の第一歩で早くも怪しい雲行きに、ルートヴィヒはいつも深い眉間のしわをさらに深くしたのだった。





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