聖夜の贈り物1章_2

いつのまにか意識を失っていたらしい。
(というか…こいつは誰だ?)

体中の痛みに思わず目を開けた瞬間…
「良かった~~~!!!ほんま良かったっ!!」
絶叫と共に目からダ~っと滝の涙を流しつつ笑うという器用な真似をしている男。


アーサーと同じグリーンの瞳だが、淡い色の髪の人間ばかりの自国、東の国ではほとんど見ない黒い髪。
肌の色も褐色ときたら……考えたくはないが、自分がいるのは現在戦争真っ盛りの敵国、西の国らしい。

北の国も東の国同様、色素の薄い人種が主だが、拾われたであろう場所が東西の国の戦場なわけだから、相手も自分が東の国の人間だという事はわかっているはずだ。

見たところ捕虜を収容しておくような施設には見えないが、実は自分が魔術の名門カークランド家の人間で東軍の兵だと言う事がばれていて、何か特別に尋問を受けるために隔離されているのだろうか?

現状が全く理解できず硬直したまま黙りこくっているアーサーの様子を見て、男は何を思ったか、横たわったままのアーサーの頭をソッとなでた。
「大丈夫やで。ここは安全やから。大人の戦争に自分みたいな子供巻き込んでもうて堪忍な。」

…ばれてはいないらしい…。
が、やはり状況がわからない。
確か自分は子猫をかばって怪我をして…おそらくその後意識を失ったはずだ。
しかし相手が敵国の人間である以上、うかつな事は言えない。

藪蛇にならないように情報を聞き出すには…と、頭を悩ませた結果、出た言葉は
「お前誰だ?俺はどうしてここにいるんだ?」
というシンプルなものだったが、それは限りなく正解に近かったようだ。
男は本当に申し訳なさそうに、
「堪忍な」
ともう一度謝った後に、話し始めた。

要約すると、男は今日の戦いに参戦していて、停戦後帰路につきかけるも、落とし物を探しに戻った時、何かを訴えるように猫にまとわりつかれてついて行ってみると、どうやらその猫の子供らしい子猫が血まみれのアーサーに寄り添うようにして鳴いていたという。

「俺が自分を抱えあげたら、その猫の親子も安心したみたいに離れていってん。」
男の言葉にとりあえずあの子猫が無事だった事を知ってホッとするが、そこで言葉を切ってジッとこちらを見ている男の視線に、アーサーは再び緊張を取り戻した。

とりあえず兵士ではないと思われているらしいが、ではどうして戦場にいたのかを聞かれたらどう答えればいいかわからない。
少し考えて見るが痛みと疲労でだんだん色々面倒くさくなってくる。
いっその事こちらから話を振ってやろうか?
まあ最悪死ぬだけだ。
一度は死んだつもりだったわけだから、今更なんじゃないだろうか…。
もう半分投げやりな気分でアーサーは言ってみた。

「で?戦場で拾ったってことは、敵兵って可能性高いだろ。俺が敵兵だったらどうすんだ?
俺をここに連れてきた事ちゃんと軍に報告してんのか?
してないんなら、ばれたら敵兵かばったとかになってお前がやばいだろ?しておけよ」

そんな事は考えてもみなかったらしい。
男はアーサーの言葉にぽか~んと口を開けたまましばらく呆けていたが、次の瞬間、苦笑してまたアーサーの頭を撫で始めた。
「なん?自分ホントに兵なんやったら、所属と階級は?言うてみ?」

「所属と階級?んなもん知らねえよ」
長兄の命令でいきなりあちこちの戦場に放り込まれ、適当な場所で攻撃魔法を放っているだけだ。
本当はあるのだろうが、あまりにコロコロ変わりすぎて、アーサー自身も把握などしていない。
なので事実ではあるのだが、これでアーサーが敵国の兵だと元々信じてなかったっぽい男には、完全に子供のたわごと認定されたらしい。
「で?なんで子供があんな危ない場所にいたん?」
と、結局聞かれるのが面倒な質問が返された。

どうやら本当の事を言うという選択肢は選ばせてはもらえないらしい。
何か信じたくなるような話を作り出せと言うのか…と、アーサーは内心頭を抱えた。

しばらくどう言えば良いのか…とアーサーが考え込んでいると、
「あのなぁ…」
と男の方から口を開く。
「自分見つけた時の恰好な、普通のシャツとズボンだけやで?あと側におった子猫が引きずっとったベスト?
どこの世界に防具も武器もつけんと戦場にくる兵がおるん?」

「あ~…」
確かに子猫に警戒されて遠くへ脱ぎ捨てたなぁ…と今更ながらに思い出した。
それを言うのは簡単だが、まがりなりにも敵兵にあの強力にして高価な装備を拾いに行かれても困るわけで…

沈黙=一般人と認めたと男の中では決定づけられたらしい。
「心配せんでもええ。俺は結構偉い親分やさかい、東の国の人間かて子供の一人くらいやったら拾った事知られても全然困らへんよ。」
男はよいしょ、と声をかけてベッド脇の椅子から立ち上がると、
「ちょっと飯温めてくるから待っといてな」
と声をかけて、部屋を出て行った。


「なんだ、あいつ?」
パタンとドアが閉まった瞬間、思わず口をついて出たのはそんな言葉だった。
参戦していたと言うなら軍人なんだろうが、それにしては警戒心がなさすぎる気がする。
これが東の国の…例えば自分の兄達なら、子供だろうとなんだろうと尋問部屋行きだろう。
というか、子供じゃない。
童顔+肉体労働をほぼすることのない魔術師家系で小柄なため実年齢よりは下に見えるが、アーサーももう18才。
15才で初陣が当たり前な今の世の中では立派な大人である。

まあそれはさておきこれからどうするか…だ。
戦闘とは全く無関係な事で大怪我をして、敵国である西の国の軍人に助けられました…なんて帰って兄達に報告するなんて、死ぬより100倍怖い。
今こうしている事自体は変えようのない事実として……とりあえず何か土産になるような成果をあげなければ帰るに帰れまい。

「どこまで偉いやつなのかわかんねえけど…何も成果ないよりマシだよな。
うん、居座るかっ」
引き出せる情報引き出して、状況によってはその首を手土産に帰ろう…。
最悪死ぬだけだし…とアーサーは再度そう心の中でつぶやくと、居座る理由を作るべく、頭をフル回転させ始めた。 


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