青い大地の果てにあるものオリジナル _3_10_医者兄ちゃんのカウンセリング室

「なずなちゃん、お待たせ。起きてええで」
ベッドの上に机を出してそこに盆をおき、なずなを助け起こしたレンは、椅子をベッドの脇に引っ張って来て座った。

「ま、お茶でも飲みながらお話しよか」
レンがニコニコとそう言ってなずなに紅茶を勧めると、なずなは礼を言って紅茶のカップを手に取る。

「えと...タカは?」
少し気遣わしげに言うなずなに、レンは
「ああ、フェイちゃんのとこやから心配せんでもええよ」
となずなの頭をなでた。

「なずなちゃん、なんか心配ごとでもあるん?
体よりもな心の顔色が悪そうやで?
タカに言えん事でも秘密にしといたるからお兄ちゃんに話しいな」

レンは自分も紅茶のカップを取って美味しそうに紅茶をすする。
なずなは言われて少し迷う。

「心配かけへんようにって思って言わんといたらかえってそれで心配になるって事あるさかいな。
それを自分で判断できへんようやったら大人に聞いとき。な?」

うながすように言ってまたニコっと人懐っこい笑顔を浮かべるレンに、なずなは少し笑顔を返した。

「えと...私ねたまにね...怖くなっちゃうんです。世界って定期的に消えてくから...」

「うん。世界っていうのは...なずなちゃんにとっての日常って事やね?
具体的に聞いてもええかな?」
柔らかい口調できいてくるレンになずなはうなづいた。

「えと...私両親ともジャスティスで...基地内の狭い私室で3人並んで寝る~みたいな感じで育ってたんですね。
5歳までそれが当たり前で...5歳で母が亡くなって、でもすぐユリちゃんが来て、母の代わりにユリちゃんが加わった感じでやっぱり狭い部屋で3人並んで~みたいな生活してたんです。
だけど9歳の時父が亡くなって、母が亡くなった時は父がいたんですけど、父が亡くなった時はユリちゃんいなくなっちゃって...
結局1週間ほどで戻って来たんですけどね。
その一週間て世界全部が消えちゃったみたいで...
暗い空間に自分一人取り残されてるような感じですごく怖かったのを今でも覚えてます。
それ以来一人になるのがすごく怖くて...。
でもユリちゃんとはいつも任務も一緒で、だんだん離れててもちゃんと戻ってくるんだなってわかってきて、離れるっていうのと無くなるっていうのが別の物だってわかってきて...
あの...わかりにくいです?」
途中で少し心配そうに聞くなずなにレンは笑って首を横に振った。

「いや、わかるよ。
いつもいつも一緒にいなくても最終的にちゃんと戻ってくるならええって事やね?」

「はいっ、そうなんです」
理解されてた事にホッとした様子でなずなはうなづく。

「それで?」

「えと...それで...しばらくはそんな感じで慣れて来て、本部に異動になることになって...私生まれたのがすでに極東支部だったし両親亡くなってから育ててくれたのも極東支部のブレインのお姉さん達で、移動元が本部でも任務で世界回るし、今回も無くなるんじゃなくて離れるんだと思ってたんです。」

「ああ...それは...ショックやったね」
そこでレンはあらためて極東支部壊滅の報を聞いた時のなずなのショックの大きさを理解した。

「それが母、父に継いで3回目の世界の消失で...なんていうか...立っていたはずの地面がだんだん崩れていっちゃうみたいな感じですごく怖くて...。
でもユリちゃんいたし、ユリちゃんだけは平気みたいにある種依存してた部分あったんですけど、それから数日後、ユリちゃん死にかけて...なんかすごく一人な気がしてきて、怖くて怖くて...消える世界と一緒に自分も消えちゃえればもう怖くなくて良いのにとか思ってきて...」

レンはそこでようやく合点がいった。

「つまり...その時のなずなちゃんにとっての鉄線ちゃんが、今はタカなわけやね?
んで、今日なんだかそんな事考えたりして、それつぶやいてみたりしたん?」

「わかります?」
レンの言葉に驚いて顔をあげるなずなに苦笑するレン。

「そりゃあなぁ...動揺するなぁ、タカも。
なずなちゃん、あれやろ?
要はタカがずっと生きて帰ってくるかどうかって不安になる瞬間があるんやね?
んで、取り残されるくらいなら逆に自分の方が先に消えれば悲しくないだろうなと」

「レンさんて...どうしてわかるんですか?」
なずなの言葉にレンはにっこり
「お兄ちゃんやから」
となずなの頭をなでた。


「最初に会った時に言ったけどな、タカは死なへんで。
タカはな、ごっつい家の嫡男やさかい生まれたその瞬間から死なへん事が義務みたいなところがあったらしくてな、
戦闘中とかその場その場で生き残る能力はすごいねん。
怪我はようしてきたけど、絶対に致命傷は負わんちゅうかな。
せやから自分で生きる事放棄しない限り死なへんねん」

そこでレンは一息つくとチョコレートをつまんで口に放り込んだ。

「まあ...何度もそうやって身内なくしたりしてると不安になるのはわかるけどなぁ...。
タカは本当に大丈夫やさかい心配せんどき。
むしろ少し自分の体心配した方がええで、なずなちゃんは。
タカやないけど、丈夫やないんやし無理しすぎて過労死しそうで怖いわ」

「無理...してるつもりはないんですけど...。
ホントに何もしてませんし、最低限の事くらいで」
なずなの言葉にレンはがっくりと肩を落とした。

「あれで最低限て...なずなちゃんの普通って何が基準なん?
どう見てもな、他の数倍以上は働いとるで。
世の中やった方がええ事は多いけど絶対にやらなあかん事はそう多くはないんやで?」

「えと...でもでも、もし二度と会えなくなっちゃったら、あの時ああすれば良かった、こうしてあげれば良かったとか絶対に後悔する気がして...」

「...あのなぁ...それ今さっきタカぼんが思い切りしとったで?
自分が無理させすぎてなずなちゃんがどっか悪くしとるんやないかってな」

正反対なようでいて根本は実は似たものカップルなんじゃないだろうか...とレンは内心ため息をつく。

「まあな、気持ちはわかるんやけど、はたからみるとどう考えてもなずなちゃんの方がやばいから。
タカの事心配やったらまず自分が無理せんようにな。
疲れた時はちゃんと休まんとな。
たぶん今も昨日の一件とかで疲れて気が滅入っとるんやと思うで。
心身どっちでも疲れてるのに休みにくい時は遠慮せんでここおいでな。
色々心配されたりするの嫌やったら俺の仮眠室貸してあげるさかい」

遠征組中、留守組に気を使ってようやく遠征組が戻ったら昨日の騒ぎでまた駆り出されてたぶん心身ともに疲れているのが一番の原因なのだろう。
ひのきに対してもなずなに対しても、周りは精神的なフォローや人間関係の仲裁など能力と関係ないあたりの事まで頼り過ぎだとレンは思う。
そしてコーレア以外の大人はあまりそれを疑問に感じてないのも問題だ。

(少し周りにはお灸据えておかんといかんなぁ...)
とレンはにこやかになずなと談笑しながら考えをめぐらした。

「ちょっと電話かけてくるから待っといて」
なずなに言いおくと席を立ち、電話するふりをして後ろを向いて医療棚から薬を出す。

「お待たせ~。あ、紅茶おかわりいれるなっ」
「あ、いえ自分で...」
あわててポットに手を伸ばすなずなをレンは制した。

「ああ、ええって。ここいる時はお客さん...もとい患者さんはなんもせんのがルールなんやで」
そういいつつなずなのカップをとって袖口から薬をポトリ。その後紅茶を注いで
「はい。温かいとこ飲んどき」
と、手渡すと、なずなは
「ありがとうございます♪」
と、なんの疑いも持たずにカップの中身を飲み干した。

「...あれ...?なんだか...ねむ...」
少し雑談をしているうちに、なずなが言って目をこすりはじめる。

「ああ、疲れとるんやろ。丁度ええからそのままそこで寝ていき。
タカ呼んどいてあげるさかい」
「あ...はい。...すみません」
あまりの眠さになずなはそのままベッドに横になると、コトンとそのまま眠りに落ちた。

レンはその様子を見守ると、なずなが熟睡している事を確認する。

「本当はあまり睡眠薬って使いとうないんやけどね」
と苦笑しつつ、ガラガラと点滴台をひっぱってきた。

「ま、素人目にはなんだろうとわからんな。ブドウ糖でも打っておくか」
一人つぶやいて手早くなずなの腕に点滴を打つ。
そして少し離れて腕組みをした。

「う~ん、完璧やね。あとはターゲットは誰にするかなぁ...フェイちゃん...だとそこで止まりそうやしやっぱシザーはんかな」
レンは言ってにやりと笑いながら受話器を取り上げた。









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