青い大地の果てにあるものオリジナル _3_4_未来の夢

「...タカ、メール来た?」

ピピッっと鳴る携帯で受信したメールを見て、なずなは風呂から上がってバスローブのまま居間のソファーに座るひのきに声をかけた。

「いや、まだ見てない。ああ、来てるな。次回は8月3日予定らしい。
次はなずなも遠征組か?」
タオルで頭を拭きながら片手で携帯をいじるひのき。

「うん。みたいね。
一応コーレアさん、トリトマさん、ユリちゃん、ホップさん、あとタカと私予定」

「ああ、そう書いてあるな」
最後まで読み終わってひのきはうなづいた。

「もしなずなが内組だったら明後日にでもシザーを脅しに行こうと思ってたんだが...」
ひのきの言葉になずながちょっと困ったような笑みを浮かべる。

「タカ...そういうワガママは...でも何故明日じゃなくて明後日?」
料理をテーブルに並べながらきくなずなの手を取って引き寄せると、ひのきは軽く口づけた。

「当然。今日明日は二人でゆっくりする事に決めてるから」
言ってまたなずなの手を放す。

「一ヶ月も全く触れないですごしたんだ。あれくらいじゃ全然足りん」
「ゆっくりって...そういう意味?」
思わず苦笑いするなずなに
「もちろん」
と力一杯言うひのき。

「...いやか?」
一応ちょっと気遣わしげに聞いてくるひのきの言葉になずなは
「嫌じゃないけど...お手柔らかに」
とやっぱり苦笑した。

食事の支度が全て終わると、なずなもひのきの正面に座る。

「...やっぱり...隣座っていい?」
食事をするひのきをじ~っと眺めていたなずなが唐突に言った。

「聞くまでもないだろ。来いよ」
ひのきが言うとなずなは立ち上がってひのきと並んで座ると、スリっとすり寄った。

「どうした?」
ひのきが少し箸を止めて振り向くと、なずなはうつむいて小さく首を横に振る。

「ううん。ただ...帰ってきてくれたんだなぁって...ね」
膝の上で握った小さな手にぽつりと涙がこぼれ落ちた。

「何泣いてんだよ」
ひのきは小さく笑ってなずなの頭を引き寄せる。

「うん。信じてはいたんだけどね...一人ぼっちになるのは怖いかなぁって」
ポロポロ涙をこぼすなずなの頭をなでながら、ひのきは少し後悔した。

「ごめんな。もっと毎日でも電話すれば良かったな」
「ううん。ちゃんと戻ってきてくれたからいいの」
なずなは涙を拭って言う。

「でも...私ももっと強いジャスティスだったら良かったな。
私...最弱ジャスティスだし」
なずなは言って肩を落とした。

「んなことないだろ。貴重な唯一の治癒系だし。加護系もボイスも神性能だろ?」

「でもなくても皆戦えるし。ボイスなんてほぼタカの羅刹のためだけにあるようなものだし。タカいなかったら私には何の価値もないよ?タカいなくなったら私本当に終わっちゃう」
なずなは子犬のような目でひのきを見上げる。

「それ逆だと思うけどな。
俺いなくなったら他の奴が大挙してなずなの気を惹きに押しかけてくるけど、なずないなくなったら俺は今の交友関係ほとんどなくすぞ」
ひのきはクスクス笑いながら言った。

「俺はジャスティスとしての戦闘能力取ったらなんにも残らないけどな、なずなはそれなしでも飯うまいし...」
言ってひのきは煮物を口に放り込む。

「顔可愛いし、声可愛いし、性格可愛いし、家事完璧で、マジやばい。
ちょっと油断するとちょっかい出してくる奴いるしな。
たまに...子供でも作ってやろうかと思う事ある」

「なんで子供?」
「ん、いや、子供でもできればさすがにちょっかいかけようって奴いなくなるかなと。
ま、今の状況じゃ無理なんだけどな。数少ないジャスティスが出動できなくなると終わるし」

「だね。...でも子供いいなっ。タカみたいにね、運動神経良くて強い男の子っ!」
なずなが想像して楽しそうに笑った。

「いや...俺はなずなみたいな女が良いんだけど。
でな、年頃になって結婚したいなんて男連れてきたら”許さん!”とか言ってみたい」
ひのきも笑う。

「ま、男でも女でも良いけどな。家庭欲しいな。絵に描いたような極々普通のやつ。
父親と母親と子供2~3人くらいで。
普通に同じ食卓囲んで普通に買い物とか行って、たまには家族旅行とかな」
「タカは...家族いたんじゃないの?」
ひのきの言葉になずなは不思議そうにひのきを見上げた。

「ん~。家族って感じじゃなかったからな」
ひのきは食事を終え、食後のお茶をすすりながら少し伏し目がちに湯のみに目を落とした。

「俺は親に甘えた記憶とかってねえし。
母親とか兄弟ん中で俺にだけ敬語なんだよな。弟達はさ呼び捨てで呼ばれてそれなりに甘えたり怒られたりしてんだけど、俺だけはさん付けでな。
親父には叱責された記憶あるけど、母親には怒られた記憶すらねえな。
食事とかもな、俺と父親は差し向かいで、母親と弟達は別室。
ダチもいねえし。
5歳の時にな、初めて同じ年頃の分家のガキがわらわら来て、最初はな、喧嘩ふっかけてきたりいたづらしてきたりとかで、それなりに普通らしきつきあいできんのかなって思ったら、その日の夕方には忠誠誓われてた」
ひのきは少し顔をゆがめた。

「なんかな、俺は人として大切な物を学べないまま育っちまったんだろうな」

「えと...ね、遠征が一通り終わってレッドムーンが壊滅するか沈静化した頃赤ちゃん欲しいね」
唐突にひのきの腕をつかんでなずなが見上げる。

「そしたらえっと...大きなお炬燵買おう!
でね、夏は布団とってテーブルにして、冬はお炬燵囲んでご飯食べるのっ。
たまにはみんなで炬燵で寝ちゃったりして...」

「いいな、それ」
なずなの言葉にひのきは微笑んだ。

「なずなみたいな母親に育てられたら子供は幸せだろうな」
「そんな事ないよ~。そもそもうちの親も一般的じゃないし」
「そうなのか?」
「うん。私が生まれた時って両親共17だったし。
父親も極東支部のジャスティスだったから育ったのってここよりもっと狭いジャスティスの私室でね、冬とかね、本当に親子3人でお炬燵で寝てたのよ?
生まれた年からそれってありえないでしょ?
分かれて食事しようにもそんなスペースないのっ。本部よりずっと部屋狭いんだもん」

「そういう方がいいな。暖かそうで」
想像してひのきは目を細める。

「ん~、でも狭かった。
お炬燵もね、このテーブルくらいしかないし。この倍くらいのおっきいお炬燵欲しかったな」
人差し指を唇に当てて真剣な顔で言うなずなに、ひのきは笑いながらうなづいた。

「そうなったらでかいの買ってやるよ。ここ畳敷きにして」
「ほんと?!」
なずなが思い切り嬉しそうに見上げる。

「ああ、んで、炬燵でミカンでも食うか」
「うんうん!」
「じゃ、とりあえず次の遠征の時にでも改装頼むかな、床の。家具とかも和風の揃えて」
ひのきの言葉になずなはちょっと首をかたむけた。

「遠征終わるのなんてまだまだ先だよ?もう変えちゃっていいの?」

「ああ。別になずなが来るまでは寝に帰るだけだったから、なずなが持ち込んだ物以外は全部用意されたままの状態だったし。
別にこだわりないから、なずなの過ごしやすいように何でも変えていいぞ」

ひのきの言葉になずなは食器を片付けながら
「いいの?タカ無理してない?」
と聞くが、ひのきは
「いや、むしろ変えてくれ。自分ではどういうのが良いのかわかんねえから」
と答える。

「なずながいればあとはもうどうでもいい」
ひのきはキッチンに行って洗い物をするなずなを後ろから抱きしめた。

「...抱きたい...」
耳元でささやくひのきになずなは真っ赤になって硬直する。

「...もう...!」
なずなが恥ずかしそうに小さくつぶやくその様子に可愛いな、と思わず笑いがこぼれる。

なずなの手から皿をとりあげてシンクに置くと、ひのきはなずなを抱き上げた。

そして
「タカ、まだ終わってないっ」
あわてて言うなずなの唇を自分の唇でふさぐ。

「んんっ!」
なずなが腕の中でわたわたするが、
「今度はちゃんと優しくするから」
と、ひのきは構わずそのまま寝室へ足をむけた。






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