温泉旅行殺人事件_救出失敗1

嫌な予感がする…。

犯人の指示で警察を含む全ての人間が外庭に出るのを禁じられているので、ギルベルトは不安な表情で母屋から外庭に向かうルートの後ろ姿を見送った。

まあ…おそらく自分は心配性なんだろうと思ってはみるものの、嫌な感じがぬぐえない。


(やっぱり俺様が行けば良かったな…)
ロビーのソファに座ってため息をつくギルベルト。
恋人が無事救出済みでが側にいてくれるのがせめてもの救いだ。

それにしたって、もう1時間たっている。

犯人にしてもルートにしてもいい加減何か言って来てもいいじゃないか、露天までだってゆっくりゆっくり行ったとしてももう着いてるだろうし一体どこまで行ってるんだと、ギルベルトは落ち着かない。

待ってるのは苦手だ。
目の前の困難を打ち砕くのは得意でも、不安を抱えて待つのは本当に苦手だと思う。


ソファに座るギルベルトの足の間に抱え込まれる様に座って旅館側が用意してくれた軽食をつまんでいたアーサーは、相変わらずそんなギルベルトの不安を紛らわせようとしてか

「そう言えば…ちゃんと離れによって全部お香変えてるんだな」
と、緊張感のない話を始めた。

「さっき他の人達が通った時に色々な香のかおりがした。
俺は俺達の部屋の香が一番好きだけど」


なるほど。
さっき立ち止まっていたのはそういう事だったのかととりあえずは納得した。
自分はなんでも注意深くチェックしているつもりだったが、そういうところは本当に疎い。
全く気にしてもいなかった。


「あ…そういえば、それで思ったんだけど…」
と、気づいたのはそれだけじゃなかったらしくアーサーが話を続けようとしたその時、フロントの電話がなった。



『どうなってるんだ?何か画策してるのか?
前回身代金を受け取る前に人質を返す手配をしたからといって、今回も同じだと思わないで欲しい。おかしな真似をしたら人質の命は保障しないぞ』
和田がオンフックにした電話から流れる犯人の声。

その言葉にギルベルトがはじかれたように立ち上がって電話にかけよった。

「どういう事だっ?!
こちらは指示通り身代金を持たせて外庭に出るのを見送っただけで何もしてないぞ!」

不安で心臓がバクバクする。
まさか…ルートに何かあったのかっ?!

『こちらはもう受け渡し場所は指示した。
だが、もういくらなんでも着いていても良い時間だが一向に来る気配がないぞ。
連絡をいれても出ない』
その犯人の言葉でギルベルトの顔から血の気が引く。

『まあ…いい。刻限まであと1時間は約束通り待つ』
そう言って犯人からの電話は切れた。



一体何が…?
周りのざわめきを他人事のように遠くに聞きながら、ギルベルトは可能性を探った。

事故…はないだろう。
真ん中の道には例の吊り橋がかかっていた崖があるが、左右の道はそういう意味では何もない。
道を外れたところで草や土、せいぜい小川で足や服を汚す程度だ。
暗くても月あかりもある。
道を外れない限り迷う事もない。

ルートが大金を持って歩いている事を知った第三者に襲われた?
しかしルートがこの時間に身代金を運ぶ事を知っていたのは警察関係者と自分とアーサー、それに旅館の支配人くらいだ。

どの道を行くかは自分達ですら母屋からルートが進むのを見て初めて知ったのだ。
待ち伏せなんてできるはずがない。

わからない…一体何があったんだ?
ギルベルトは頭を抱えた。




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