ぺなるてぃ・らぶ・アナザー7章_5

「お前、何すんだよ、ばかぁ!!」

抱え込んでいるスペインの手を振り払い、殴られて壁にふっとばされてそのまま気を失ったフランスに駆け寄るイギリスに、スペインの機嫌は急降下する。


「なんでフランスかばうん?」

イギリスにはいつもとてつもなく優しいが同時に独占欲の強いスペインが次に言い出す言葉は決まっている。
家に帰ろう、もうフランスに会うな。

まあ会うなと言われれば別に当分会わないでも構わないのだが、口止めをきちんとせずに帰った日には、絶対にあかんと言うスペインにスペイン自身の同行を条件に説得してまで今日ここにくる許可を得た意味がなくなる。

こういう感じになる事も予測済みだったので、イギリスは予め用意しておいた…ここに来るために使ったセリフをもう一度言う。

「だから…これからは二人になる事は避けるって言っただろ…。
これは結婚前に決まってた事なんだから、仕方ないじゃねえか…。
国の事情は俺達の身体にも影響すんだぞ…。
お前は俺が体調崩したり……下手すると消えたりして欲しいのか……」

視線が怖い。このところ優しかっただけにガチで怖い。
更に言うなら、この嘘がバレて芋づる式に罰ゲームの事がバレたりしたら…と思うと、恐ろしさのあまり声が震え、自然と涙で視界がぼやけた。


すると途端に殺気が消える。

「堪忍な~。」
と、駆け寄ると、スペインはギュッとイギリスを抱きしめる。

「親分が悪かったわ。泣かんといて。
ああ、もうそんなに泣いたら、可愛いおっきなお目々が溶けてまうよ?
そうやんな。ヒゲと二人とか胸糞悪いけど、しゃあないやんな。
わかってんねん。でもアーティかわええから心配やねん。」

と、顔中にキスを落とされ、くすぐったさにイギリスは身じろいだ。

「可愛くねえ」
「かわええよ。ホンマかわええ。
あ~、もう食べてまいたいわ。」
「ちょ、おまっ、どこ触ってるんだっ!!」

大きな手がネクタイをゆるめ、胸元のボタンを外していく。
そしてはだけたシャツの間から中に入り込んだ手がけしからん動きを見せ始めたので思わず叫んだ唇は、スペインのそれによって塞がれた。

強引に入り込んだスペインの舌がイギリスの口内を這いまわり、逃げる舌を追い詰めると、重ねた唇の合間から淫猥な水音が漏れ始める。


…………

……ねえ、お兄さんどうしたらいいの?
身内と悪友の濡れ場とか、さすがのお兄さんもちょっと勘弁なんだけど…。
ていうか…いつ目覚めればいいの?
今目を開けたらとても色っぽい事になってそうな坊ちゃんが目に入りそうだし、この調子だとそんなもん視界に入れたら、お兄さんスペインに殺されるか、良くて目をつぶされそうだよね?
そんな事を考えながら冷たい床に横たわるフランス。
その下には涙。

何故自分の家で死体のふりをさせられているのか、もうよくわからないが、命は惜しいので、気が済むまで終わらせてイギリスかスペインのどちらかが自分の存在を思い出してくれるまでは、こうして死んだふりをしていようと決意する。
命は惜しい。本当に惜しい。
うん、大事なことなので二度いいましたよ、お兄さん…。

フランスがそんな事を考えている間も隣では艶っぽい場面が繰り広げられている気配がする。
イギリスのくぐもった切羽詰まった声がして、次にぐったりとした気配がする。
ああ…これイカされたのかなぁ…などと他人ごとのように――実際他人ごとなのだが――思った。

これが全くの他人だったらなかなか興奮するところなのだが、相手が相手だと全然そんな気にならないことをフランスは今更ながら知った…うん、お兄さん何もそんなこと知るような状況に置かれたくは本当になかったんだけどね…とも思っている。



――…こんなとこで……ばかぁ……

グスっと鼻をすすりながら泣くイギリスはまるで小さな子どものようで、

――堪忍な~。アーティ可愛すぎなんやもん。大丈夫、口でしたったからあとは残らへんし、こいつ寝とるからわからへんて。

と、謝る気が全然なさそうなもうベタベタに甘い声で言うスペインには、

お兄さん起きてます、起きてるからねっ!
でもお前ちょっと色々加減してやんなさいよっ。
傍から見たら危ないペドの立派な児童虐待だからねっ!と、苦言を呈す。
………命が惜しいので心の中でだけ……。

その後何故か首元に手が伸びてきて、冷やりとするが、どうやらネクタイを外されただけらしい。
それで手を縛られる。
え?何が起こるの?!と思っている間に、おそらくスペインのネクタイで足も……。

一体これから何が起こる?!と思っていると、いきなり担ぎ上げられる身体。

そのまま運ばれてどうやら居間のソファに投げ出される。


「親分ちょっとトイレ行ってくるさかい、アーティはキッチンで紅茶淹れといて。
リビングには入ったらあかんよ?一応縛ってあるけど、意識が戻って襲われたりしたら危ないさかいな。」

「いや…こいつに限ってそんな気には…」
「アーティー…」
「……わかった。」

優しいが有無を言わさないスペインの口調に、少し拗ねたような口調で、それでも渋々と了承するイギリス。

その軽い足音がキッチンの方へと遠ざかって行くと、重い足音がフランスが放り出されているソファに近づいてくる。

――親分な、自分のモンにちょっかいかけられんの好きやないねん。
親分の大事なあの子におかしな事吹き込んだら…スペインブーツだけじゃすまさへんで?
……なあ、フラン?
歌うような口調と共に頬を撫でる手は温かいのに、フランスは全身が凍りつくような寒気を感じた。



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