ぺなるてぃ・らぶ・アナザー4章_5

ここに来てずっと変わらぬ習慣。
それは朝食こそベッドの上だが、そこからの食事は基本的にダイニングで摂る事だ。
だからまず着替えてダイニングへ。

当たり前に用意されている食事。
イギリスは一瞬考えて、これだ!と思った。

――離れていると寂しいから隣に座りたい…

自分なら好きでもない相手にそれを言われたら重いと思う。
しかし悪意ではなく好意から来るものなら断りにくい。
まあスペインなら自分と違って普通に断れるのかもしれないが…。

そう…断られる事前提で……。
自分の側は気分が良いわけはないが、まあ仕方ない…そう思って口を開こうとするが、何故かズキンとした胸の痛みに一瞬躊躇する。

おかしい…嫌われる事すら慣れてるじゃないか。
せっかく日本が良い方法を教えてくれたのだ、頑張れ俺!
イギリスは手の震えを止めようとインナーの上に上着代わりに羽織ったシャツの裾を握りしめ、ギュッと目をつぶって自分を叱咤激励したあと、思い切って顔をあげた。


「あ…あのなっ、隣…良いか?
いや…あのっ…その………
は…離れてるのがなんとなく寂しいから……とか…」

なんだかスマートにはいかなかったが、とりあえず頑張ったっ!頑張ってみたっ!
……これが限界だ。

スペインの反応が怖くて目を合わせられないでいると、なんと気づいたら思い切りハグされていた。
幼い頃はよく嗅いでいた…近頃は全く感じた事のなかった、ホッとするような落ち着かないような太陽の匂い…。
一瞬気を失うかと思った。

「え?ええ??ちょ、スペインっ?!!!」
ひたすら慌てるイギリスに、スペインは
「もうなんなんっ!!!」
と、少し怒ったような口調。

しかしそんな風に怒るくらいなら断ってくれればいいのに、何故かひきずるように自分の隣の席にイギリスを誘導して、黙って正面の席にセッティングしたイギリスの分の食事を移動させる。

よくはわからないが手間暇をかけさせた事を怒っているのだろうか…。
『手間をかけさせてすまない…』と謝罪した方がいいのだろうか…。

黙って自分のフォークに手を伸ばしかけるスペインを視界に入れつつイギリスはそんな事を考えて、しかし実際に出てきたのは、さきほどまでの“素直に甘える”という作戦で…気づいた時にはその袖口をつかんで言っていた。

「怒っちゃやだ…ばかぁ…」


言ってしまってから自分でも気持ち悪いんじゃないかと思った。
これはない。成人した男の言葉じゃない。

しかしズド~ンと脳内落ち込みかけたのも数秒で、一瞬後には

「逆やっ!自分可愛すぎんねんっ!!!」
と謎のセリフを叫んだスペインに抱きしめられて、唇を塞がれていた。

え?ええ??えええええっ????
声を出そうとするも、返って開いた唇の間からぬるりと何かが入り込んでくる。
それがスペインの舌だと気づいた時には上顎を舐められ、舌を絡めとられ、唾液を流し込まれて頭が真っ白になった。

怖いとか不快とかそんな感覚すらない。
何をされているのかもうよくわからない。
ただ熱い舌が自分を蹂躙していくのを呆然と受け入れている。

――日本…日本…これどういう事だ?何がどうなっているんだ?
まるで現実逃避のように脳内で策を授けてくれた親友に問い続けるが、当然答えはない。

上がって行く熱を炊きつけるように大きな手が身体を這っていく。
体中がひどく感覚を敏感に拾い始め、よくわからないウズウズした感じに翻弄された。

落ちる…と感じたのは精神だったのか肉体だったのか…
とりあえず力が抜けきって椅子からずり落ちそうになっていたのは確かで、そんなイギリスをスペインはヒョイっと抱え上げた。

え?ええ???ご飯は???
そのまま立ち上がるスペインの行動を理解することなく、イギリスはこの期に及んでまだ食卓が遠ざかる事にしか注意がむいていない。

このままフラグが立つのかフラグクラッシャーの名にふさわしく見事真っ二つに折ってみせるのか…それはイギリス本人にすらいまだわからないのだった。






0 件のコメント :

コメントを投稿