オンラインゲーム殺人事件再びっ6章_1

「ギルちゃん、フラン、俺転校する事になってん。自分らはどうする?」

早朝、戻ってくるなりそう言うアントーニョに、ギルベルトは目が点だ。


「もう…帰ってくるなりなんなのよ、トーニョ」
とこちらは意外に動揺を見せないフラン。

「お前さ…全然驚かないのってなんなんだよ?」
と、珍しく一人動揺しているギルベルトに、フランはクスクス笑みをこぼしながら、コーヒーのお代わりを注いだ。

「だってさ、前回のゲームの時だってお兄さん全然やる気ないのにさ、いきなりお前らがやる気満々の電話やメール送ってきたおかげで今これよ?
もうこういう星の下かなぁって思うじゃない?
毒食らわば皿までって言うしね。お兄さんはいいよ?で?どこ行くのよ?」

と、フランは、お疲れ様、と、アントーニョにもコーヒーのカップを渡す。

おおきに、と、アントーニョはそれを受け取ると、チラリとギルベルトに視線だけで問いかけた。


何故いきなりそういう話になったのかがわからない。
というか…アントーニョが突拍子もないのはいつもの事として…フランのこの順応性は異常だとギルベルトは内心ため息をつく。

まあ…手本とならなければいけない弟妹もなく、親が事業をやっているために最悪でも将来の職は確保されている…という気楽さはあるのかもしれないが…。

そういう意味では自分は長男だ。親には負担はかけたくない。

高校と言う事ならあと1年。
そのくらいならその気になれば私立でも先日の賞金で行けなくはない。

しかしあれはできれば無駄遣いせず、一所懸命真面目に勉強にいそしんでいる弟ルッツが何か費用のかかるような進路に進みたくなった時のために備えてやりたい

たとえ兄馬鹿と言われようと、弟だけには片親しかいないという事で苦労はさせたくないし、自分の行きたい道に進んで欲しい。

金銭的な負担が少ない選択だったとしても、母親がいない男所帯で仕事が忙しい父、勉学に励む弟、双方が心おきなく本分に励めるようにと、家事の大半は比較的余裕のある自分が引きうけているため、できれば家事の時間が著しく取れないような遠くの学校には行きたくないのが本音だ。

そんな諸々の事情を鑑みると、フランのように即答はできない。

「転校の理由は?あと、通うのに遠い所か?」

気楽には返答はできない…それでもそんなギルベルトの家庭事情はわかっているであろうアントーニョがわざわざそう言うには理由があるのだろうと、ギルベルトはそれを尋ねた。

どんな学校かというのは問題じゃない。

生活を変えるだけの理由があるのか、あとはどれだけ生活を変えないといけないか…重要なのはその二点だけだ

一人深刻な顔で問うギルベルトにアントーニョが返した答えは、予想のはるか斜め上をいくものだった。

「転校の理由はあーちゃんのために決まってるやん。
他に何がある思うてんのん?ギルちゃん。
で、転校先は当たり前やけど海陽学園な」

はあぁぁぁ?!!!

海陽?海陽学園?!!!何が当たり前なのかよくわからない。
思わず叫ぶギルベルト。

ちょ、待て!!なんでいきなり海陽行けるんだ?!!

東大進学率全国ナンバーワン!
少し勉強ができる男子学生なら垂涎の超名門進学校だ。

かく言うギルベルトとて行けるものなら行きたかった。
いや、試験を受けるだけでも受けて見たかった。

小学校時代、私立で幼稚舎から一貫教育の学校で中学までしか外部からは取らない海陽学園を、今後弟の進学等で費用がかかるかもしれないし、自分が中学から私立などとんでもないと、学力的には入れるかもしれないところを試験すら受けずに泣く泣く諦めたのだ。

なのにそんな都合の良い話があって良いのだろうか…。

信じられない気持で言うギルベルトにアントーニョはあっさり言い放った。

「ローマの爺ちゃんのコネで入れる事になってん。学費も一切あっち持ちな。
そのかわりそういう事情やから内部では特別扱いで入った奴って目で見られんで。
せやから周りの目が痛かったらやめとき?
俺は他の奴らからなんて言われようと、あーちゃんと一緒におれるんやったらかまへんから行くけどな」

行くっ!!悪口じゃ人は死なねえよっ!!

高校時代…たったあと1年でも憧れの海陽に行けるのなら、行きたい!
あの全国一の進学校の中で自分を試してみたい。

そのためなら別に中傷にさらされようが内部でイジメまがいの扱いを受けようが構わない。
それこそコネでという言われ方をするなら、テストの結果で示せばいいのだ。

珍しく本気で感情的に叫ぶギルベルトに、

「なんやギルちゃん、ほんまにあかんかったらええんやで?家の都合もあるやろし…」

アントーニョはこちらも珍しく気遣わしげな眼をむけた。

泣かんといて…と、そこでそう付け加えられて初めてギルベルトは自分が泣いている事に気付いた。
それに自分で驚いて手を自分の顔にやると、確かに温かい液体が頬を伝っているのが確認できる。

小学校6年の時、自分よりも成績が下の人間が海陽学園中等部の補欠にひっかかったのを知って、自分なら受けたら受かったんじゃないかと悔しくて部屋で一人泣いたのをギルベルトは思い出した。

あの時とは丁度真逆な理由だが、やっぱり海陽学園の事で泣いている自分がおかしくて、ギルベルトは一人それを笑った。

「ギルちゃん…大丈夫かいな?別に無理なら無理でええんやけど…」

いきなり笑うギルベルトに、普段は他人を気にしないアントーニョもさすがに心配するが、他を全く気にしないで生きてきたアントーニョとは丁度真逆で他人を非常に気遣う性質のフランはギルベルトの海陽に対する思いも知っていたので

「ああ、大丈夫。
ほらギルちゃん昔からめちゃ頭良かったからホントはすごく海陽受けたかったんだけど家の事情で一度諦めてんのよ。
だから積年の思いが実って感動中ってとこ。しばらく放置してあげて」
と、アントーニョにフォローを入れた後、所在なさげにしていた香達に

「と言う事で、ギルちゃんしばらくそれどころじゃなさそうだから、トーニョに留守中のギルちゃんからの話とか説明してあげてよ」

と、うながした。




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