人魚島殺人事件 後編_2

夢のお化け


それを見送って、ギルベルトはロヴィーノを振り返った。

「で?なんだって?」
ギルベルトが聞くとロヴィーノは少し迷い、そして
「夢見てえな話なんだけど……信じてくれるか?」
と少し不安げにギルベルトを見る。

「当たり前だろうが」
ギルベルトはそれに即答した。

あまりに早い返事にロヴィーノは返って信じられない視線を送るが、そこでギルベルトが
「アーサーの幸せを見守る会の相棒だろうがっ。相棒信じねえでどうすんよ」
と、いつものケセセっという特徴的な笑い声をあげると、なんだかそんな自分の後ろ向きさがバカバカしくなった。

「お前は素直じゃねえとこあるけどさ、いたずらに嘘付くような男じゃねえ。俺様は信じるぜ」

再度そう言うギルベルトの言葉にロマーノはホッとしたように笑った。
一見おちゃらけて居るように見えて実は生真面目で誠実な男だ。

いつも弟と比べられて何かにつけて周りに軽んじられたり馬鹿にされたりと言う事が多い自分だが、こいつのことは信じたい…信じようと思う。

「で?何を見たんだ?」
ギルベルトが聞くと、ロヴィーノは口を開いた。

「えとな、…トーニョの部屋から逃げて空き部屋に駆け込んだ時、俺寝ちゃって夢見たって言っただろ?」
「ああ、言ったな」
「あの時の夢なんだけどさ、壁にお化けがいてう~う~ってうなってたんだ。
で、そのお化けってのがプールに浮かんでた仮面になんだか似てる気がすんだよな」

「ちょっと待て…。それって…もしかして壁にあれがかかってたとかじゃないのか?」
「う~ん…今思えばそうかもしれないけど…でも、う~う~ってうなり声がしたのはホントだぜ?
ただの仮面なら声なんかしないだろ?」

「壁って…どっちの壁だ?フランの部屋の側?それとももう一つの空き部屋の側?」
「えっと…空き部屋…かな?」

「ちょっと一緒に来てくれ」
ギルベルトはロヴィーノの腕を掴んで二階の寝室へと向かった。
そしてロヴィーノが最初に逃げ込んだ空き部屋に入り、明りをつける。

「あれ?ない。やっぱり夢だったのかな…」
空き部屋側の壁には何もない。

それを見たロヴィーノの言葉に、黙って壁を探っていたギルベルトは
「いや…」
と、答えた。

「画鋲の跡があるから、元々ここに飾ってあったんだろう。
…ということは…ちょっと隣行くぞ」

ギルベルトはまたロヴィーノの腕を取って、今度はさらに隣の空き部屋へと足を運んだ。
今来た空き部屋とはうってかわってガランと何もない。

「こっち側は…ベッドかクローゼットあたりか」
ギルベルトはつぶやいて、手袋をするとまずベッドのシーツを調べ、次にクローゼットを開けた。

丹念に中をさぐって、何かを拾い、明るい所でその少し茶色がかった糸のようなものをかざす。

「…髪の毛?」
不思議そうな目を向けるロヴィーノにうなづくと、ギルベルトはそれをビニールにしまった。

「ここで調べたもの、見つけたものとかは他には言うなよ」
ギルベルトは厳しい顔で言ってロヴィーノをまた部屋の外にうながす。

最初に消えた斉藤…。
いなくなったのはいつだった?

最後に見たのは着いて最初に皆が集まったリビング。
それから古手川の言葉で部屋を出て行って荷物を置いて部屋に戻った時にはいなかったらしい。

あの時の状況を考えれば犯人はおそらくあの人物だが…しかし何故?

とりあえずいったん自室に戻って濡れた服を着替えると、ギルベルトはロヴィーノを伴って皆が待つリビングへと戻った。

本当のターゲットは誰で全てが終わったのかこれからも何か起こるのか全くわからない。
警察がくればおそらく犯人が確定するまでは拘束される事になるかもしれない。

しかし警察が来たからと言って確実に安全が確保されるという保証もない気がする。
最悪…アーサーとロヴィーノだけでも安全な所に逃がしたかったが、こうなっては無理だ。


「トーニョ…」
ギルベルトが呼ぶとアントーニョが駆け寄ってくる。

「ちょっとトーニョ借りたいんだけど、いいか?」
と、アントーニョがしっかり抱え込んでいるアーサーに声をかけると、アーサーは離れようとするが、アントーニョはそれを拒否する。

「一瞬ちょっと注意しておきたいことがあるだけだから。
体調悪いアーサーに負担かけたくねえ。
少しだけロヴィとフランに預けておいてくれ」
と、それにギルベルトが耳打ちすると、アントーニョは渋々アーサーから離れた。

そうしてアーサーが離れて確かに二人の所に行った事を確認すると、ギルベルトはやや声をひそめた。

「俺はこれから多分色々に奔走することになるから、覚えておいてくれ。
これから絶対に俺ら以外の人間と少人数にはなるな。
不用意にあちこちを触るのも厳禁。
飲食物は俺が毒味するから、それ以外の物は一切口をつけるな。誰に勧められてもだ。いいな?」
ギルベルトの言葉をアントーニョはモゴモゴと繰り返し、咀嚼する。

「よっしゃ。あーちゃんに他の男近づけへん。
手ぇはちゃんと握って他の場所触らせへん。
食べ物はギルちゃんが食うて、死なへんかったもんしか食わせへん。
これでええな?」

「…なんか曲解されてる気がしないでもねえんだけど…ま、いっか。うん。
とにかくいつもの調子でアーサーを抱え込んでてくれ」

なんだか…違うきがする…と思いながらも、ギルベルトは額に手を当ててため息を付いた。



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