迷探偵ギルベルトの事件簿前編9

こうしてサラダとクリームシチューとパンで夕食。

料理は好評だ。
しかし夕食自体は微妙な空気がただよっている。

一緒に食事を作っている最中のロヴィーノの言葉に勢いづいた紗奈が夕食中もずっとギルベルトに話しかけているためだ。

それを小川は自分は気持ちが移っても自分に向いていた気が他に向くのは別らしく面白くなさげに、中田は不思議そうに、瞳は少し困ったように遠巻きにしている。


「ちょ…中田も注意してみてよ。」
コソコソっと隣に座ってる中田に振る瞳。

「注意って言われても…俺ギルベルトさんの事ほとんど知らないし。
紗奈は言って聞く女じゃないじゃん」
振られて中田も困ってる。

「紗奈どう見てもギルベルト君にベタベタしすぎだよ。
太一も今までまとわり付いてた紗奈がいきなり手の平返して機嫌悪そうだし…。
せっかくの旅行で修羅場って嫌じゃん。中田男なら頑張れっ!」

ベタベタしすぎ…といいつつ自分が巻き込まれるのは嫌らしい。
瞳はひたすら中田をせっつく。

「あ~…ギルベルトさんは…」
しかたなしに中田が若干裏返った声で始めた。

「はい?」
それに対してギルベルトはホッとしたように中田の方を向き直る。

そして始まる取りとめのない会話。
隣で苛々する紗奈。

そこでさらに重くなる空気を気遣って、瞳が一番平和そうなあたりに声をかけた。

「アントーニョさんとあーちゃんて何がきっかけで付き合い始めたの?」

その質問にそれまで恥ずかしがるアーサーに半ば強制的に自らのフォークでア~ンと食事をさせていたアントーニョが目を爛々と輝かせて顔をあげた。

「あ~、それなっ。あーちゃんが親しい子と揉めてめっちゃ落ち込んでて、世界中で誰も自分の事なんて必要としてへん言うた時に、親分側にいてん。
もうありえへんやろ?あーちゃんこんなに可愛えのにっ!
これもう言うしかないやん?せやから言うたってん!
誰もあーちゃん要らん言うなら親分が全部まるごともらったる』って。
取り消しはきかへんで~って言うたから、その時からあーちゃんはまるごと全部親分のもんなんや。
その代わりな、世界中の他の奴なんか必要ないくらい、親分あーちゃんの事めっちゃ大事に大事にしたることにしてん。
あーちゃんの保護者に頭さげて頼み込んで、あーちゃん家一緒に住んでおはようからおやすみまで家事とか全部色々やっとるし、猛勉強して海陽学園転入したんも、それがあーちゃんの保護者に認めてもらう条件やったんや」

「うあ…すごいね。本当にお姫様だ」
と、目を丸くする瞳。

小川ですらぽか~んと呆けている。


さらにジェニーが

「確かにさ、高校2年の夏くらいまでのトーニョって、うちの学校でも成績中くらいだったもんね。
前一緒に旅行行った時にあーちゃんに勉強見てもらってていつか東大入るんだって言ってたの、本気で冗談だと思ってたけど、今の状態だと行けそうだもんねぇ…」
と言うと、

「え?ええ??ジェニーと一緒の学校って都立星雲高校だよね?
そこで真ん中くらいの成績だったのに半年で海陽の転入試験受かったのかっ。
すごいなっ!どんな勉強したの?!」
と、中田が真顔で身を乗り出す。

「愛の力は偉大ねぇ…」
と、しみじみ呟く瞳。


そんな中で中田の注意がそちらに向いたところで、紗奈が再びギルベルトに声をかけた。

「ギルベルト君は?」
「え?俺様がなに?」
「アントーニョ君みたいに一緒に住みたいな~とか思う相手いないの?
いないならどんな子がいい?」

にこっと笑みを浮かべながら上目遣いに見あげる様子は可愛いなと、紗奈とは反対側のギルベルトの隣で食事をしながら、ちらりとそちらを見てロヴィーノは思う。

しかしギルベルトはどうやらそういうタイプが苦手なのか、グイっとロヴィーノの首に腕をまわして引き寄せると、

「こいつっ!俺様達すげえ気があってるからっ」
と宣言する。


おいぃぃぃ~~!!!!
と、焦るロヴィーノ。

見る見る間に降下する紗奈の機嫌。


「あたし部屋に帰るっ!」
と、立ち上がって部屋を出て行った。


「おっ…まえ、空気読めよっ!ベッラに恥かかせんじゃねえよっ!」
と思わず立ち上がっていうロヴィーノ。

なんとなく…なんとなくだが心が軽く感じるのはきっと気のせいだ。


そんなロヴィーノに、

「読んでんだろ。そのうえで言ってるに決まってんだろうがっ」

と口を尖らせるギルベルトに、ぱちぱちとそれまで黙って料理を咀嚼していたアーサーが拍手する。
それに釣られるようにジェニーも拍手。

「俺様攻撃するタイプだし?迫られんの苦手なんだよ。
それにほら、俺様みてえに良い男には女より相棒が似合うっつ~か…ハードボイルド?」

「あ~、もうお前自分でも何言ってっかわかってねえだろっ」
と、その言葉にしかめっつらを保っていたロヴィーノもとうとう噴出した。


そこで完全に和んだ空気に、中田が

「でも…紗奈放っておいて平気?」
と瞳に声をかけると、瞳は

「太一、ずっと何もやってないんだから見てきてよ」
と言う。


しかしふられた太一は不機嫌全開で

「そこは怒らせた奴が見に行くべきだろうよっ」
と、ギルベルトに視線を送り、ギルベルトが少し困惑した表情を浮かべたところでロヴィーノが

「ああ、俺食べ終わったし見に行ってくるな」
と、立ち上がった。


「いや、それなら俺様が…」
と、さすがにそれにはギルベルトが立ち上がりかけるが、それを制したロヴィーノは

「お前行ったら余計もめるだろ。その代わり片付けよろしくな」
と、ひらひらと手を振りながら部屋を出て、私室の並ぶ2階への階段を上って行った。


こうしてロヴィーノは一路二階の端っこの紗奈の部屋へ。

「紗奈さん、俺、ロヴィーノだけど…」

シンとした部屋の前でまずドアをノックしたが返事がない。
怒って無視されているのか、トイレやシャワーで聞こえてないのか…。

「どうするかなぁ…」

普段助けてもらいっぱなしのギルベルトを珍しくフォロー出来るチャンスだし、なんとなくここで引き返すのも嫌な気がした。

ドアの前で待つか…と思って30分ほどドアの前で立ち尽くしていたが、なんとなくドアノブに手をかけたら鍵がかかってない。


「紗奈さん…入るぞ」
一応声をかけてドアを開けてみるが真っ暗だ。

「…?」

不思議に思って一歩部屋に足を踏み入れたロヴィーノの目にうっすら映ったのは床に仰向けに倒れた人間…紗奈だ。


「え?…ええっ??紗奈さんっ、どうしたっ?!!!」
思わず声を上げた時、後ろから

「どうかしたの?」
と瞳の声がした。

「あ、瞳さん。なんで?」
「えと二人何か揉めて話しあいなのかなと思ってあがってきてみたんだけど…どうしたの?」
と、瞳は答えて部屋の中に目をやって息を飲んだ。

「ロヴィーノ君っ、救急車!あと下のみんなに伝えてきてっ!!!」
咄嗟に何もできないロヴィーノと違って瞳がキビキビと指示をする。


それに少し安心してロヴィーノは

「ああ、わかったっ!」

とリビングに向かって駆け出した。





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