目撃者
（あの夜…？…夜っ？！）
もう茫然自失で”夜”という単語だけがクルクルと回っている。
今日は久々に早く帰れる日で、アントーニョと外でデートで…これから一緒にマック行って…ゲーセン行って…のはずだったのだ。
妹のベルに少し渡したい物があるからというアントーニョを駅の改札で待っていたアーサーは女子高生の”ギルベルト・バイルシュミット様”の声で足を止めたわけだが…
その後に続く言葉が衝撃的すぎて、もう足が凍り付いた様に動かない。
その場で動かなくなった足とは裏腹に、涙は止まる事なく流れた。
頭がもうグチャグチャでどうしていいかわからない。
別に自分の事ではないわけだが、ギルベルトは自分の親しい友人で…同じく弟のようにも思っている親しい友人のロヴィーノと夏休みに起こった前回の事件をきっかけに付き合い始めたと思っていた。
いや、思っていたではなくそのはずだ。
そのギルベルトが女子高生と浮気？浮気なのかっ？！
ロヴィーノも自分も恋人が同性だ。
でもやっぱり異性と付き合えるなら、みんな異性が良いのだろうか……。
まさか…アントーニョも？！
最初はロヴィーノの心情を慮っていたのが、いつのまにか自分の身に置き換えてすっかり気分は当事者だ。
何故そこまで飛躍する？と、誰かそばにいたならそうツッコミを入れるところだが、ここには悲観主義者のアーサー本人しかいない。
重い足を引きずる様に反転して、アーサーはそのまま改札をくぐってホームへ辿り着く。
そして泣きながら携帯をかける。
ワンコールでつながる電話。
『あーちゃん、何かあったんっ？！』
シャクリをあげる声に電話の向こうで驚いて聞いてくるアントーニョに
「…家…帰る」
と一言告げて電話を切り、電車に乗るからと電源を落として、アーサーは涙を拭いて電車に飛び乗った。
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