続本田菊の策略_1

世界のお兄さんのため息


日本での世界会議後、危うく巻き込まれかけた騒動からは、プロイセンの手でなんとか救出されて、その後の1週間の有給はオタクの聖地、秋葉原や中野、池袋などを回って満喫した。

泊めてもらったお礼にと、オタ仲間である日本の原稿を手伝ったりもして、すっかりオタ充して上機嫌で帰宅したフランスは、何故か窓から明かりが漏れている自宅を見て、嫌な予感を覚えた。

自宅の合鍵を持っているのは悪友二人…あるいは弟分で腐れ縁の隣国島国。

そして…悪友の一人スペインは長年片思いをしていた隣国イギリスと、今は仲良く日本で過ごしているはずである……何もなければ……そう、何もなければ……だ。

残る一人、悪友のプロイセンであれば全く問題ない。

…が、フリーダムな俺様に見えて、意外に生真面目で律儀なあの男は、合鍵を持っていてもアポなしで上がり込んだりはしないだろう。

……ということは………

これが自宅以外であれば、寄らないで帰るという手もあるのだが、あいにく、フランスの帰る場所はこの家だ。

そして、大抵においてイギリス関係のトラブルは、放置したら終わる。
本人は全く無自覚ではあるのだが…というか、むしろ曲解して正反対の事を思っているのだが、あちこちでの愛され度が半端ない。

出会って以来1000年近く片思い中の元覇権軍事国家であるスペインはもとより、世界の超大国でブラコンを拗らせすぎて恋情へと変化を遂げたアメリカ…世界各国に散らばる英連邦はもちろんの事、恋情ではないものの、東の島国日本のイギリスに対する友人、萌え対象としての執着は、下手な恋情よりもすさまじい。

例えフランスが全く関与していない事であっても、【愛するイギリス】が困っているであろう事に関して放置して逃げ出したとなれば、社会的に抹殺されかねない。

まったくもって恐ろしい…。

さきほどまでの軽い足取りが嘘のように重くなるが、仕方ない。



「ただいま~」
と、おそらく誰かいるであろう家の奥に向かって声をかけると、

「遅いっ!何してたんだっ!!」
と、理不尽な言葉と共に、リビングからクッションが飛んできた。


(ああ、坊っちゃんの方か…)

と、その声にホッとする。

いや、出来れば誰も居ないほうが良いのだが、イギリス絡みで気がたっている時のスペインに比べれば、落ち込んでるくせに強がっているイギリスの方がまだ扱いやすい。

とりあえず美味しい物を与えておけば、それがなくなるまでは手が出ないし……。


「遅いって…お兄さん有給取ってそのまま日本にいたんだもん。
仕方ないでしょ。坊っちゃん来るとか言ってなかったしさ。」

リビングのソファに膝を抱えて泣きべそをかいているイギリスに苦笑すると、フランスは上着をハンガーにかけて、リボンで髪を後ろにまとめながらキッチンへと向かう。

「坊っちゃん、紅茶だよね?自分でいれる?それともお兄さん?」

別にフランスが淹れてもそこそこ美味しいのだが、紅茶だけはイギリスが淹れた方が美味い。
だから、茶菓子や料理はフランスが用意しても、紅茶だけはイギリス自らが淹れることも多いのでそう聞くが、リビングからは意外な答えが返ってくる。

「…ミルク……。ホットミルクにしろ。カフェインはダメだ……」

「はぁ?」

紅茶を否定するイギリス……って……ありえないっ!天変地異の前触れっ?!!

「お前、どうしたのよっ?!何かあったっ?!!
スペインと紅茶の事か何かで喧嘩したのっ?!」

当たり前に手にしていた紅茶の缶をテーブルに置いて、フランスは慌ててリビングに戻った。

いや、どうしたら紅茶とスペインが結びつくのかわからないが…とにかく状況的にはそれしかないわけで……

そんなフランスの様子に、イギリスは投げつけたのとは別のクッションを抱え込んで、グスグスと泣いている。

あ~…どうしよう……。

フランスは少し迷ったが、少しでも落ち着くように、紅茶がダメなら…と、

「じゃあコーヒー淹れようか?」
と提案するも、また抱えていたクッションを投げつけられた。

「だから、カフェインだめだって言っただろぉ!!
何かあったらどうすんだっ!!!」

と、目に涙をいっぱいためて叫ぶイギリスに、いよいよフランスはわけがわからず目が点だ。

「え~っと…ごめんね、坊っちゃん。
お兄さんもう何がなんだかわかりません。
お前がなんだか500年くらい前に戻って声がでなくなって、それをスペインが連れ帰ったとこまではぷーちゃんから聞いてるわけなんだけどさ、そのあと何があったの?
絶対にからかったりしないからさ、お兄さんに教えて?」

そう、イギリスが若返ったとかは、もう驚かない。
伊達に不思議国家と1000年以上も隣国づきあいをしているわけではないのだ。

そして…普段からかったり喧嘩したりしていても、お兄さんは世界のお兄さんであるずっと前から自分ではイギリスのお兄さんのようなものだと思っているわけで……

たぶんイギリスもそれはわかってくれていると思っている。

だからソファの前にしゃがみこんで、真剣さが…心配していることが伝わるようにと、膝を抱えて泣くイギリスを見上げて視線を合わせてみる。

そしてそれはイギリスにも伝わったようだ。

フランスを見下ろして

「…かくまえ……」
と、命令口調ではあるが、どこか心細げな様子で言ってくる。

「うん、いいけどさ。スペインからってこと?」

と聞くと、イギリスは素直にコックリとうなづいた。


「じゃ、とりあえず話聞く前に、リクエストのホットミルクいれるけどさ、ブランデーとか垂らす?」
まだシャクリの止まらないイギリスから話を聞くのも難しそうだと、立ち上がってキッチンへとまた戻るフランスの背中に

「アルコールもダメだ。ミルクに蜂蜜。」
と、声がかかる。

「了解。うんと甘いやつね?」
と、答えてフランスはミルクパンに牛乳を入れて、火にかけた。




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