ローズ・プリンス・オペラ・スクール第十二章_2

太陽は燃えるのか翳るのか…


使いを出して数時間後…ローズ・プリンス・オペラ・スクールの理事長室に姿を現したその大男はひどい顔色をしていた。
普段から仮面で顔を隠しているような男だが、その仮面の上からでも十分に憔悴ぶりが伺える。

「俺は…最終通告を受けるんですかい?」
しゃがれた声で男はいうと、後ろ手にドアを閉めた。

まるでそれは自分で自分の退路を断っているようにも見えた。



通常、パートナー同士でも太陽と月は特に真逆の性質を持つだけに仲が良いを通り越して、まさにベターハーフ、己の良き半身である事が多い。
まだ心が柔らかい学生時代からパートナーになっていれば尚更だ。

自分もそうであったし、男…サディクもそうだ。

今校内ではアントーニョのパートナーに対する執着ぶりがまるで特異な事のように語られているが、太陽の適応者に限って言えばそれは特殊な事ではない。

対である月は自分達にとっては心の一番奥深く、柔らかく繊細で美しい部分全てを体現しているような存在で、よしんば外側の存在である自分の手や足の一本がもげようと、その大事な部分さえ無事なら生きていける…それほど大切な相手だ。

自分とて在学中は他の輩が対に指一本触れる事を許さなかったし、サディクも確かそれで上級生を少しばかし仕置しすぎて停学を食らった事があったはずだ。

アントーニョが自分の対にちょっかいをかけた新入生を急所2発で沈めたなんてものは、まだまだ甘い。可愛いもんだ。

普段どれだけ温厚に見せてようと、人当たりを良くしていようと、その部分だけは無神経に触れられたら激怒する…いわゆる龍の逆鱗というやつである。

それだけ大事な大事な己の半身だ。
月を亡くした時の太陽の衝撃とダメージも、全属性一なのは当然の事だ。

生きる気力を失ってあとを追う者…自暴自棄になって無謀な戦闘に身をゆだねて命を落とす者、その死を認識した瞬間に気がふれる者……

最強を誇る太陽達が暴走の果てに爆発して消える瞬間を何度も見てきた。

ローマ自身がそうならなかったのは死の間際の対に託された対自身の血も引く卵に対する責任感に他ならない。

対の忘れ形見を絶対に魔に帰する生き物にしてはならない。

そのためには自分は血反吐を吐こうが生き残って、心が凍りつくほど辛かろうが、自分でダメだった時の保険に、卵をよく導いてくれる人間に渡すという使命を受け継ぐ子孫を残さねば…。

そしてそれを託した今は…託した人間が卵をきちんと導ける環境を…と言うのが支えではあるのだが、目の前の男に何を支えに戦闘に赴けと言えば良いのか、正直わからない。

深い愛情で結ばれた魔力が最愛の対の死をすでに伝えているのだろう…いつも太陽のように豪快で温かな笑顔を浮かべていた男の顔には当然ながら笑みはない。

あるのは憔悴と悲哀…。
それでもまだ普通に人の言葉に反応して対応出来ているのは対を失った太陽としてはかなりマシな部類だ。

「桔梗ちゃんの事は…残念だった、」

もしかしてその哀悼の言葉すら無神経なのかもしれない…そう思いつつもかける言葉がなく、仕方なしにそう舌に乗せると、男…サディクは、ガン!!と、理事長室の入り口横の壁を右手で殴る。
恐ろしいことに素手であるのに壁に亀裂が入った。

「…で?俺を呼んだってことは…その関係の仕事ですかい?」
ぎりぎり感情を押し殺した声に、どこまで話すか正直悩む。
しかし隠したところでいずれはわかることだ…と、ローマは全てを話すことにした。

「つまり…桔梗さんの敵の親をぶっ殺して、卵を壊せって事ですね?」

ローマの説明を黙って聞いていたサディクは最終的に自嘲的な笑いを浮かべた。

「てめえだけで何とか出来ねえかなんて考えた結果がこのザマだ。
桔梗さんがあんなふうに辱めを受けてることを隠してやりたいなんて甘えこと考えてねえで、さっさとあんたに相談してりゃあ、魔界に渡る手立てがあるってわかって、助ける事は出来ないにしても桔梗さんを1人ぼっちで逝かせたりしねえですんだのによ。」

ソファに身を沈めたまま両手に顔を埋めるサディク。
その場合…この男には果たして対を手にかけることが出来たのだろうか…などと、対の死に立ち会ってあまつさえその命を手にかけたローマは考えても栓無い事を考えた。

死に立ち会えても立ち会えなくても地獄には変わりない。

「今回は…一組、太陽とさっき話したその対の月の姫さんも放り込む。」
その空気の重さに耐え切れなくなって話題を変えたのはローマの方だ。
まあそれも軽い話ではないことは確かだが……

「そいつぁ……」
サディクの思考は一瞬そちらへと向けられたようだ。
対を失って絶望に陥れられてもなお失っていなかったらしい親分肌の…慈愛深い部分が頭をもたげたらしい。

「やめといてあげておくんなせえ。
こんな思いすんのは俺らだけで十分だ。」

狼の群れの中を子羊連れで疾走するようなものだ。
みすみす食い殺されるのがわかっていて連れて行くなど正気の沙汰じゃない。

「俺がその分働きまさぁ。
なあに、もう失うモンなんて何にもねえんだ。
最後に死に花咲かせてもらいます。」
ブンと振り下ろす手の中には大ぶりのカットラス。

「こいつも…桔梗さんの敵に一太刀浴びせてやりてえって唸ってますしね…。」
対がいた頃の包み込むような優しさはすでに失われて、触れるモノを全て焼きつくす刃。

自らの炎で焼き尽くされるのも本望…それはひどく暗い希望でローマを暗雲とした気持ちにさせたが、それでも

「まあ…今、今年の風が太陽の説得に行ってる。
そいつが説得失敗したら、仕方ねえ、お前さんに頑張ってもらうことにするか…」
と、ローマはそれを了承して窓の向こう、適応者たちの離れがある方に視線を向けた。



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