ローズ・プリンス・オペラ・スクール第六章_4

聖と魔を併せ持つモノ



理屈がわかってルッツの誕生した経過を知ってしまうと、別にアントーニョを信頼していないわけではないが、やはりアーサーを戦場に出したくない。

もちろん悪友達も大事なのだが、あの二人に限って素直に取り込まれるなんて気がしない…というか、魔もあんまモン取込みたくねえよな?俺様だったら嫌だ…と言うのが本音だ。

こうしてとりあえずルッツとの戦闘練習をしたいという口実を設けて、それ以来戦闘は全部自分が引き受けている。

対面式後、封印を解かれたルッツは普段は普通の小鳥の姿でいるが、二段階、黒鷲になると人間の言葉を操れるようになる。
ちなみに三段階目は黒竜の姿なので、ある程度のスペースがないとつらい。

理事長の言う人型にはまだ成れないようだが、成れるようになって一緒に離れで暮らせたらそれはそれで楽しそうだ…と、ギルベルトは思った。

呼び方も最初は【主(あるじ)】だったが、それもちょっと仰々しくも寂しいと悩んでいると、『では“兄さん”にするか?人間は親しい目上をそう呼ぶのだろう?』と、何か勘違いした知識を身に着けているルッツの言葉に、でもそれもいいか、と思って、それ以来【兄さん】と呼ばせている。


まあそれは置いておいて、ミイラ取りがミイラにならないよう気をつけながら進むギルベルトに、空からルッツが、
「兄さん、南東25mほどのところだ。どうやら撤退中らしいな。」
と、敵の位置を知らせる。

こういう事は空を飛べない対では出来ないし、ルッツならではだ。

「お~けぃ、お前本当に出来た相棒だぜ、ルッツ。」

撤退中と言うことはすでに犠牲者が出た後だが、これを逃せば魔物が新たに生まれる元になる。
ゲートに辿り着く前に倒さねばならない。

「風向きがわりいな…」
急いで向かいたいところだが、ペロリと指を舐めて風向きを調べると、南東はどうやら風上だ。

このまま向かうと異臭をまともに浴びながら戦う事になる。
それは頂けない。

かと言って風上に回る時間もないな…と悩んでいると、ルッツが上空から

「俺がこちらから南東に向かって風を起こして、兄さんの位置を風上にするということでどうか?」
と提案してくる。

「さすがルッツ。俺様の相棒だぜ」
ケセセッと笑って夜道を急ぐギルベルト。
ルッツも上空からそれを追う。

そして敵が近づいてきたところで、ルッツが大きく羽を広げて羽ばたきを繰り返して風を起こした。

こうして風下になった南東の方角にはズルリ…ズルリ…と、タコのような足を引きずって逃げる魔物の姿。
悲鳴を上げ続けているのはおそらく取り込まれた人間だろう。

追いすがるギルベルトを頭部から生える触手が攻撃してくるが、それを切り裂いて避け、避けて切り裂きしながら、本体へと接近する。

そして…宝玉の形状を剣から槍に形状を変え、魔物を後ろから思い切り刺し貫く。

耳を覆いたくなるような犠牲者の悲鳴…。

1年の頃はおそらく犠牲者がまだ出ないような感知したてか人里から離れた現場を選んで配属されていたのだろう。

この後味の悪さを対に選ばれたばかりでまだ戦場に出ていない1年生組はもちろん、悪友二人も知らない。

出来れば…知らないままにしてやりたい。
こんなモヤモヤとした気持ち悪さを抱えるのは自分だけで十分だ…。

「ルッツ、ありがとな。お前のおかげで本当に助かった。」

魔物が息絶えた後には取り込まれた犠牲者の遺体と共に、魔物の魔力が凝縮した結晶が残されている。

ギルベルトはそれを拾うと、ルッツに食わせてやる。

竜であるルッツは基本的には肉食で、普通に身体を維持するのには普通の人間の食べ物でも構わないが、成長するためには魔界の生物の結晶が必要なのだ。

「んじゃ、腹膨れたところでもう一頑張りしてもらえるか?」

というギルベルトの声に応えてルッツは大きなドラゴンに姿を変え、遺体を灰になるまで焼き払った。

サラサラと風が舞いその灰が跡形もなく土に還って行くのを見届けて、ルッツは黄色の小鳥に戻ってギルベルトの頭の上に…。


――良い夜だな、ルッツ。

口笛を吹いて空き地から出てくる銀髪の青年を気にするものは誰もいない。

ただ、街ではたまにロープリのスターの一人の最近の趣味はペットの小鳥共に真夜中に散歩する事らしい…などというまことしやかな噂が広まって、ファンに待ちぶせされないためにギルベルトも少しばかりの変装の必要を余儀なくされることになったのは、余談である。



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