ローズ・プリンス・オペラ・スクール第三章_2

「せやかて、おっちゃんっ…」

驚いたことに後ろの壁にはヒビがいっているのに自分はさしてダメージもなく立ち上がるアントーニョが――正直…フランシスから言わせれば丈夫さ加減が人間の域を軽く超えていると思う――幼稚舎からいる気軽さでそう言って不満気に斧を収めると、ローマは

「慌ててんじゃねえ。てめえは力に訴えすぎだ。話し聞けっ」
と、デコピンをする。

…ったいわ…と、額を押さえながら――あれ…自分だったら死んでるかもしれない勢いの力のデコピンだとフランシスが思う程度には強い力だったと思う――それでもアントーニョはその場にあぐらをかいて座り込んだ。

どうやら聞く体制に入ったらしい…。

キレたアントーニョをしずめられる――気を鎮める、力で沈める両方の意味でだ――唯一の存在…ロープリの現理事長であり、かつては同じく太陽の石の適応者であったローマ。
その孫はアントーニョの幼馴染の可愛らしい双子である。


「たまにな、複数の宝玉が反応することってのがあんだよ。」
ローマは自分もその場にドスンと座り込んであぐらをかくと、グシャグシャと頭をかいた。

そして…

――その前に……

と、ギルベルトに視線をやり、

「そこの2つの石をもちっと部屋の隅にやってやれ。
お姫さんが石の力にあてられちまってるから。」

と、残り2つの石の方を顎でしゃくった。

「了解っ!」
と、速攻立ち上がって石のケースを端にやるギルベルト。

そのギルベルトは戻ると直立不動だ。
まあ…その肩にはさきほど斧を避けて避難した小鳥さんが止まっているせいで、今ひとつシリアスさにかけるわけだが……。

そして最後、フランシスは抱えたままのアーサーをソファに寝かせて、ソファを背もたれに座り込む。

こうして各々が聞く体制になったところで、ローマはポリポリとまた頭を掻きつつ口を開いた。

「面倒だから説明してなかったんだがよ…」

で始まるあたりで、ギルベルトの頬がヒクリとひきつった。
が、あとの二人は気にしない。

それどころかアントーニョなどは

「面倒な話なん?」
と嫌そうな顔をして

「てめえは黙って聞け」
と、ピシッっとまたデコピンをされる。


「宝玉っつ~のはな、魔力を貸してくれて魔法使えるようになる便利な道具なんて思ってる奴がほとんどだと思うんだがな、実は逆だ。
宝玉は魔力なんざもってねえ。むしろ本人が持ってる魔力を引き出す道具なんだ。
ようは…元々持っているが使い方がわかんねえ奴を補助する道具っつ~のか。
まああれだ、赤ん坊が歩行器使うようなもんよ。」

ガハハっと笑うローマにアントーニョが

――もうちょっとマシな例えないん?
とツッコミをいれるが、ローマは軽く肩をすくめてそれを流す。

「ま、赤ん坊がいつか歩行器なしで歩けるようになんのと一緒で、魔力を引き出す事に慣れれば石なしでも魔力を引き出せるようになる。
そこのお姫さんなんかは魔法の名門カークランドの末っ子だから、そういう意味では実はもう石なんざ必要ねえんだ。」


――なんだかすごい子だったのね…

フランシスがチラリと後ろのアーサーを振り返ると、ピシっと何かが顔スレスレを横切った。
反射的に避けると、その…アントーニョがかち割ったらしい大理石の破片は後ろの壁に突き刺さった。

――だからてめえは力に訴えんなって言ってんだろうがっ

と、ローマに今度は後頭部をどつかれてアントーニョが沈む。

――んでだ、続けんぞ。

頭を床にめり込ませたアントーニョを完全にスルーでローマは続けた。

「で、石のもう一つの意味っつ~のが、魔力の種類を判別するって事で…炎ならパワー系、風なら器用さ、夢は幻影とかな、そっちの傾向に著しく秀でてると石に選ばれる。
属性にも相性っつ~のがあって、相性良い属性の奴と組めば連携とか使えるから、まあ相性いい属性の奴をパートナーとするんだがな。
で、石はこの学園内の人間の中で一番自分の属性の魔力が高い人間を選ぶわけなんだが、お姫さんの場合、魔力がちっと高すぎて、月と緑、両方の属性が学園で一番強かったから両方が反応しちまったと…まあそういうわけだ。
んでもって、石は魔力を引き出そうとするんで、倍の魔力を引き出そうとされてさすがにへばっちまったってことだな。」

――さあて…どうすっかな…

そこまで説明してローマは顎に手をやって考え始めた。

「結論としては、どちらの石の適応者でもあるってこと?」
サラリと綺麗な髪を揺らしてそう問うフランシスに、ローマは

――まあそういう事ではあるんだけどな…

と、少しむずかしい顔をした。

「さっきも言ったように石は自分の属性の魔力が一番たけえ奴を適応者として選ぶ。
だから今の時点ではお姫さんより月と緑の魔力がたけえ奴はいねえってことだが…2つの石抱えたらいくらカークランドでも衰弱死する。
かと言って石を持たねえとそれはそれでまだ別属性のやつと組んだ事のねえお姫さんは連携までは使えねえ。
だからどっちか選ばせねえとなんだが……石は常に魔力を引き出し続けるから最初は双方同じでも選んだ時点でそっちの魔力に特化し始めて、もう片方は弱まってく事になるからなぁ。
慎重に選ばねえと……。」

「そんなら親分の対って事でええやん。そのうち月の方だけになるんやろ?」
と、そこでヒョイッと床から顔を起こしてアントーニョが言うのを、ローマはまたガシっと頭を掴んで床にめり込ませた。

うあぁああ~~とフランシスは思わず自分の額を押さえるが、アントーニョの方は案外平気らしい。
押さえこまれたままワタワタと身を起こそうとしている。

一方のギルベルトはジ~ッとローマの話を聞いて考え込んでいたが、やがて顔をあげて

「…俺様もそれでいい……」
と、ローマに視線を向けて言った。

「ギルちゃん??」
気遣わしげな視線を送るフランシスに、心配すんな…と笑みを返すとギルベルトは

「その代わりいくつか条件がある。」
と、また視線をローマへと移した。

「おう、言ってみろ。」

ローマに促されて、ギルベルトは再度口を開いた。

「まずひとつ。
今回アーサーが2つの石に選ばれていた事はここにいる俺らだけの胸ん中に閉まって他言しねえこと。
でねえと、それでなくても対は嫉妬されやすいのに、嫌がらせとかひどくなりそうだしな。
ふたつ目。
理事長の話だと月選んだ時点で緑の力は弱まっていくっつ~ことだから、石は最終的にアーサーの次に緑の力つええ奴を適応者として選ぶんだろうが…選ばせないでくれ。
割り切れねえとか適応者失格なんだが、ワリイ、そこまですぐ割り切れねえ。
俺様が感情的に割り切れねえだけなら俺様の問題だからいいんだが、そんな状態でコンビ組むと、戦闘時にパートナー危険に晒すから。
みっつ目。
出来れば…アントーニョ達の戦闘の時には俺様も同行させて欲しい。
邪魔はしねえし、自分の舞台や戦闘にも影響させねえし、影響でねえ範囲でいい。
以上だ。」

「まあ条件としては飲めねえ条件じゃねえが…お前はそれで本当にいいのか?」

「…トーニョは譲らねえだろうしな。
間違ってもアーサーを衰弱死させるわけになんかいかねえし……。
ここに入った時点でアーサーは気分悪くなって記憶曖昧だろうから、今なら両方の石が光ってたって事も記憶違いで押し通せるだろ。
初めから月の石の適応者に選ばれただけって事にすんのがアーサーの心身に一番負担少ねえから……」

だからいいんだ…というギルベルトの頭をクシャクシャっと撫で、ローマは月の宝玉をアントーニョに放り投げる。

「今起こして渡すなり、目醒めてからはめてやるなり好きにしろ。」
と、そちらはもう放置で、ローマは

「いい子にはおっちゃんが最高のご褒美やるぞ。」
と、ギルベルトを別室にうながした。







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