ローズ・プリンス・オペラ・スクール第二章_8

「ギルちゃん、随分ご機嫌だねぇ」

朝早いギルベルトと違って朝に弱いフランシスはふわぁあ~とあくびをしながら、妙に浮かれて笑みを浮べている悪友の一人に声をかけた。

『一人楽しすぎるぜ~』が口癖の男だったが、いつまでも対が決まらず一人だと本格的な戦闘に入れないとボヤいていたので、今日の対面式が楽しみなのか…と、思っていたら、それだけではないらしい。

何故か鳥の雛を頭に乗っけたままドヤ顔で
「俺様、昨日パートナーに会ったんだぜっ」
と、嬉しそうに笑う。

おやおや、随分好みのタイプだったのかねぇ…っていうか、良くも悪くも他人に執着しないギルちゃんにしては珍しい…と、フランシスが器用に片眉をあげて説明を促すと、ギルベルトは昨日の出来事、小鳥さんとの出会いを語ってくれた。

「なるほどねぇ…それで小鳥さんを頭にのっけてるわけ?」
「おうっ!あいつも会いてえだろうしなっ。」
ケセセっと幸せそうに笑うギルベルトに、フランシスは自分のパートナーを思い浮かべて少しうらやましくなった。

――ギルちゃんも冒険活劇卒業…かねぇ?
これまではあまり色っぽい場面の多い台本が好きではなかったギルベルトだが、そんなパートナーとなら演るのもやぶさかではないかもしれない。

まあ自分はパートナーがパートナーだから恋愛モノは他からヒロインを連れてこないと出来ないのでやりにくくなるし、丁度いいのかな?と、フランシスは思った。



「で?お前はパートナーと一緒じゃねえのかよ?」

歴代大抵は一度パートナーが決まったあとはほぼ一緒に過ごすものだが、フランシスはあまり自分のパートナーと一緒にいるのを見たことがない。
「うん、まあほら、あの子はもうあっちこっち飛び回らずにはいられない子だから。」
と、曖昧に笑うフランシス。

ギルベルトも単に聞いてみただけなので追求する気もなく、ただ
「俺様は…たぶんずっと一緒にいんだろうなぁ」
と、その様子を想像したのか、顔を綻ばせた。

「お、噂をすればっ!!お~い!!」
人混みの中でも決して見失ったりしないその愛しい姿を目指して走るギルベルトをフランシスは慌てて追ったが、

「おはよう、ギル。」
とにこやかに挨拶する可愛らしい少年の横には何故かもう一人の悪友がピッタリと寄り添っていた。

「あ~、おはよう。なんだ、トーニョ知り合いなのか?」
嫌な予感に一瞬言葉に詰まったギルベルトだが、すぐそう悪友に声をかけると、アントーニョの方は不快感を隠しもせず、アーサーをさりげなく逆方向に押しやって、
「自分こそアーティのなんなん?この子親分の対やさかい、あんま馴れ馴れしくせんとってな。」
と、ギルベルトを睨みつける。

「え?ちょ、待ったっ!!」
寝耳に水の話にギルベルトはぽか~んとする。

「対って…もう宝玉に対面したのかよ?」
「いや、まだやで。でも親分太陽の石の適応者やさかい、自分の対やってなんとなくわかるねん。」
「いやいや、まだわかんねえだろっ!」

どことなく喧嘩腰のアントーニョに釣られてはダメだと思いつつ、自分の方の声音も若干刺々しくなっていくのをギルベルトも自覚する。

なにしろアントーニョが馴れ馴れしく肩を抱いているその天使は自分の対の緑の石の適応者なのだから…。

「ね、じゃあさ、ちょっとまだ時間は早いんだけど、石に対面させてもらっちゃう?
俺達が頼めば対面させてもらえると思うけど…」

そこで一瞬で事情を理解したフランシスがそう提案すると、双方憮然とした顔で…しかし
「そうだ(や)な。」
と、うなづいた。

早く自分の対だとはっきりさせたい…二人の顔には同じ言葉が書いてある気がして、フランシスは深くため息を付いた。



こうして4人は対面の間へ。

部屋の中央に安置されている2つの宝玉、月の石と緑の石。

適応者が近づくと光るその石に、3人に促されてアーサーがおそるおそる近づいていく。

薄暗い室内でぽぉっと光を帯びたのは……なんと両方の石だった…。






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