ローズ・プリンス・オペラ・スクール第二章_2

その雛鳥をみつけたのは偶然だった。

高等部に憧れていつも高等部との境界に来ていたアーサーは、ちょうど木から黄色い塊が落ちてくる所に遭遇した。

ピィピィと鳴きながら羽をパタパタしているが、怪我をした様子はない。
小鳥というのは存外に丈夫な生き物なんだな…と思いつつ、それを落ちてきたのであろう巣に戻してやって、また高等部に視線をやっていると、それから数十分後、また雛が落ちてきた。
不思議に思ってそれでもまた戻すが、また落ちてくる。
どうやら巣の中で一番遅く生まれたそのチビすけは、他の兄弟に狭い巣の中から押し出されてしまうらしい。

それはあたかも4人兄弟の末っ子で、上3人は仲良くしているのに1人嫌われて家に居づらくなった自分自身を見ているようで、放っておけなくなった。

3,4回も巣に戻すと、他の雛達も押し出すのに疲れたのか、親鳥が帰ってきてそれどころじゃなくなったのか、落ちてくることがなくなって、その日はアーサーも安心して中等部に戻った…が、翌日になって見に来ると、また落とされてピィピィ鳴いている。

それから3日間…中等部から高等部に移るその日まで、その雛を巣に戻す事がアーサーの日課になった。




その夢の日は、アーサー達が高等部の寮に入寮する日だった。

いつものように雛を巣に戻そうとして、少し前から降ってきた雨に足を滑らせたアーサーはそのまま木から滑り落ちた。

――まずい!
入寮初日から怪我とか言ったら、ここに来るためこっそりと置いてきた親友の双子の兄弟達に思い切り怒られそうだ…などと一瞬思ったが、落下の止まったアーサーの身体にはほとんど衝撃がない。

――おわっ!!
と、どうやら雨宿りでもしていたのだろう…驚いた声をあげながらも一人の青年がアーサーを受け止めてくれたのだ。

新入生の入寮でみんなそちらに気を取られている中、こんな中庭のハズレに人がいるなんて、それだけでも十分現実離れしているが、おかしいのはそれだけではなかった。

ふと見上げると日に透ける銀色の髪に紅い目をした整った顔が自分を見下ろしている。
この顔には…というか、この紅い目には見覚えがあった。
こんな場所で出会う事など絶対にない顔…。

案の定青年は
「俺様はギルベルト・バイルシュミット。風の石の適応者だ。」
と、アーサーが思った通りの名前を名乗る。
この時点でこれは夢なんだな、と、アーサーは思った。

宝玉の適応者とこんな場所でこんな出会い方をするなんてありえない。
ただ、どうせ夢ならアントーニョが良かったな…と、アーサーは少し残念に思った。

まあ顔立ちは、整っているといえば宝玉の適応者3人の中ではこの青年が一番整った顔をしていると思う。
ただ…舞台では常に精悍だが厳しい性格の男を演じていたせいだろうか…どこかストイックな空気をまとっていて、近寄りがたいというか…少し怖い印象がある。

キッと穴が開きそうなくらい自分を凝視している紅い目に落ち着かない気分になってきて、アーサーが
「降ろしてもらえますか?」
と声をかけると、青年はようやく降ろしてくれて、やっとその厳しい視線から開放されたことに、アーサーはホッとした。

ひどく緊張しながらも一応ここは自分の方も名乗らなければと名を名乗るが、ギルベルトの関心はアーサーが手の中に抱えたままだった小鳥の雛の方へと向けられていたらしい。

そこで状況を話すと、なんと飼ってくれるという。

「俺様、適応者だから離れ住んでるし、鳥の1羽や2羽くらいどうってことねえよ。」

自分も動物が好きだから…と小鳥に向けられる笑みは意外に優しい。
キツイ顔立ちをしているために余計にそう見えるのだろうか…。

まあ夢なのだからアーサーがこうあって欲しいと思う人物像なのかもしれないが……

普通に厳しくて怖い人間の思いもかけない優しさに触れると、普通の人間の優しさよりも心に染み入る気がする。

止まない雨に諦めて走って戻ろうとなった時も、ギルベルトはさりげなく自分の上着をアーサーにかけてくれた。
派手さはないがさりげないその優しさに、心がほんわり暖かくなる。

ギルベルトは自分の離れに向かうことなく、そのまま寮までアーサーを送ってくれようとしたが、それはさすがに申し訳ないので、寮と離れの中間地点で分かれて、アーサーは一人寮に向かった。





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