ローズ・プリンス・オペラ・スクール第一章_2

3馬鹿とヒーローと天使な双子


「俺な…これはもう運命やと思うんや。
高等部に入ってすぐ太陽の石に選ばれて1年待ったわけやけど、今年はほら、ロマが高等部くるやん?
次の演目は歴史風ラブロマンスやし、ロマとラブラブせいって事やんな?」

「あ~、お兄様か~。マジありうるな。お前ら幼馴染ってのを超えて仲いいし。」

「あの子美人だから確かに舞台は楽しそうだけど、戦闘は厳しくなりそうだねぇ、トーニョ。」

去年入学と同時にそれぞれ太陽、風、夢の石に選ばれた3人、アントーニョ、ギルベルト、フランシスは職員室で次の舞台の台本を受け取り、寮へ続く廊下を話しながら歩いている。

3人は中等部からずっと同じクラスで、今もまた同じクラス。
性格も出身も何もかも違うのに何故か気があって良い事も悪い事もいつも一緒にしてきた悪友だ。

そんな、3馬鹿…と、教師にはしばしば説教を食らっていた3人が揃って高等部に進むと同時に伝説の石に選ばれるとは世も末である。

まあ、揃って顔と運動神経だけは宜しいので、石も全く出鱈目に選んでいるわけではないのかもしれないが……。

そういう意味では今年高等部に進級した、アントーニョが溺愛している1歳年下の幼馴染ロマーノが、そのパートナーに選ばれるというのもあながちない話でもないかもしれない。


「そうすっと…あとパートナーが決まってねえの俺だけか~。」

ギルベルトの言葉にフランシスは深く深くため息を付いた。

「いいね…まだ希望があっていいね…」
ヨヨと泣き崩れるフリをするフランシスに悪友二人、さすがに同情の視線を送った。

「あ~…うん。まああれだ。
芝居の方は…ヒロイン必要なようなモンだったら他から選べばいいし…ほら、俺様の番の時に冒険活劇とかだったら代わってやっから。」
「親分も喜んで代わったるで~♪ラブロマンス演りたいわ~。」

と、ギルベルトは心底気の毒そうに、アントーニョは楽しげに、それぞれ言う。

フランシスがこう言われているのにはわけがあった。
フランシスのパートナーはなんと春休み中に判明しているのだ。



…というのも…

『俺が石に選ばれないなんてはずないんだぞっ。なんてたってヒーローだからねっ☆』

という理由でまだ春休みだと言うのに待ちきれずに高等部に忍び込んだ強者がいて…嘘のようなホントの話というか…なんとかの思いは岩をも通すのか…本当に石に選ばれてしまったのである。

とてもとても体格の良い…少し体格が良すぎるかもしれない坊やなのだが……。


フランシスは自分の持つ夢の石と対になる鋼の石に選ばれた少年に引き合わされた時、正直
『どうしよう…』
と、思った。

いや、誤解がないように言っておくと、決して横に立つのが嫌なほど醜いわけではない。

ただ…主役である太陽、風、夢の石の適応者の相手役…つまりヒロインをしばしば務める事のある対の石の適応者としては、ちょっとアレな体格なだけである。

そして少年は少年で、こちらもまことに失礼なのだが、自分のパートナーとして引き合わされたフランシスを一目見て、
『Oh~Noooo~!!!』
と頭を抱えた。

どうやら彼は自分が持つ石がメイン…主役の対に当たる方だと思っていなかったらしい。

こうしてお互い微妙な距離を保っている、しかし非常に腕力がある…――下手をすればアントーニョにも勝るとも劣らないほどの力を持つ――少年は、舞台の方はともかくとして、戦闘ではかなり心強いパートナーになってくれそうだ。

…というか、もうどうしようもないではないか。
ヒロインが必要な時は…最悪一般生徒から募集するという事で、双方諦める事にしたのだった。



そんな事情もあって、逆に舞台では見栄えがしそうだが戦闘ではあまり役に立たなさそうなアントーニョの幼馴染とどちらが良いか悩むところだが…というフランシスの言葉に、

アントーニョは
「あ~…弱々しいとこもめっちゃ守ったりたいって感じでええねんけどな。
なんだかちょっと会わんうちに、ロマもたくましくなってもうたらしいで。」
と、むしろ残念そうに肩をすくめた。

「へ~。あのお兄様がねぇ…。あれか、弟のフェリちゃんいるからか。」

ヘタレとして名高いアントーニョの幼馴染には、さらにヘタレとして名高い双子の弟がいる。

弟のためとなればヘタレと言われていても兄は奮起するのか…と、ギルベルトは思ったのだが違ったらしい。


「あ~うん。フェリちゃんと二人でお守りしとるお姫さんがおんのやて。
ありえんやろ?
ロマやフェリちゃんより可愛くて、ロマやフェリちゃんよりか弱くて、ロマやフェリちゃんより守ったりたいな~なんて思わせる男の子なんて絶対にありえへんやろ?」

若干ペドっているアントーニョが言うとちょっと変態くさいが、言っている事にはギルベルトも心から同意する。


アントーニョの幼馴染の双子は特にそういう趣味のなかったギルベルトから見ても壮絶に可愛い。
もう自分たちとは別の生き物かと思うくらいに可愛い。

そんな二人がお守りしているお姫様?
あれか?森のリスがプルプル震えながら白雪姫でも匿っている…そんな感じか?


「あの二人より可愛いって…どんだけだよ…」
と思わず言うギルベルトに、アントーニョは不満気に

「可愛いかどうかはわからへんで?単にお守りしとるってだけで…。
ロマよりかわええ子なんてこの世におらんと親分は思うんやけど…」
と口を尖らせる。

「とにかく、これから親分ロマとフェリちゃんの引越し手伝うてくるから、自分らはこんといてな。」

「え?なんで?お兄さんも手伝ってあげるよ?」

お礼は目の保養でいいから…と言うフランシスを容赦なく蹴り飛ばすと、スペインは良い笑顔で

「絶対に近寄らんといてな?親分の楽園壊す輩はハルバードの刑やで?」
と、宣言する。

自分はメタ坊やに餌付けでもしとき、と、さりげにひどいセリフを吐きながら、アントーニョは足取りも軽く宿舎の方へと戻っていった。



そして残される二人。


「さて…」
と、フランシスはイタタと、足を押さえながら苦笑した。

「お兄さんも離れに帰ってメタ坊や餌付けしてくることにするわ。
ちょっとちゃんとした食事で体重管理してやんないと、舞台にも戦闘にも響くからねぇ」

と、口調はやれやれと言った感じだが、実は料理が趣味のこの男は必ずしもそれを嫌がっていないことを付き合いの長いギルベルトは知っている。

自分が作った美味しい料理を美味しそうに食べてくれること…それがフランシスが一緒に過ごす相手に求める絶対条件だ。
そういう意味では石はすごく適正の人物を彼の対に選んだのだろう。

「んじゃ、俺様はちょっと1人楽しく散歩でもしてくら。」

1人あてのないギルベルトはそう言ってヒラヒラと手を振るフランシスに背を向けた。



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