オンラインゲーム殺人事件あなざーその4・魔王探偵の事件簿_1

Some Day My Prince Will Come(11日目)


その日は良い日なはずだった。

母親が亡くなって以来ずっと1人だった自分を異母兄が気にかけていてくれたらしい。
会いにくくなる前に会いたいと言われて会う事になった。

それをトーニョに伝えたら、自分の大事な兄だからきちんと挨拶をしておきたいということで、贈り物を届けてくれた。

それはたいそう立派な腕時計で、トーニョが帰ったあとアーサーから受け取った兄も、驚いてはいたものの、喜んでくれたようだ。

食事は自分があまりにその手の場所に慣れてなくて注文がうまくいかなくてというちょっとしたトラブルはあったものの、今回の森陽学園への転入はずいぶん急なうえ、特殊な形だったため、兄はずいぶん心配してくれてトーニョについてなど色々聞かれて色々話せた。

話が一通り終わったあと、兄がすぐ帰ってしまって、1人取り残されて食べきれない料理を前にどうしよう…と途方にくれていたら、所用をすませた帰りだというトーニョにばったり会い、そのまま合流。

そうとは言わなかったが、アーサーが食べきれなかった料理を食べて、代わりにアーサーが食べやすいようなモノを注文してくれたのは、おそらくトーニョの気遣いだと思う。

本当に…トーニョに出会ってからの毎日は、まるでおとぎ話の主人公にでもなったようにふわふわと幸せだ。

そうして食事を終えると、ここ数日がそうであるように二人でマーケットに行って食材を買って、マンションに帰るとトーニョがおやつを作ってくれる。
今日は出来たてで熱々のプリン。
母親が生きていた頃も手作りのおやつなどなかったし、出来たてのおやつがとても美味しいのを知ったのもトーニョと出会ってからだ。

形式的な試験が明後日に決まった事、その日にもう結果が出る事、そうしたらすぐ寮に入れるように準備している事など、今後のアーサーの身の振り方の話や、そろそろミッション4に行けるかも…などというゲーム内の事などを話しているとあっという間に夕方で、夕食をつくってくれるトーニョの後ろ姿を見ながら一応試験勉強というのも、ここ数日の日常である。

ひとりぼっちではない、誰かが居て一緒に食べる手作りの夕食。
それはほんわりとした温かさに包まれる幸せな時間だ。

食べ終わるとトーニョが帰ってしまうのは少し寂しいが、1時間ほどしたらディスプレイ越しだが一緒に遊べる。

――1人で怖かったり寂しかったりしたら、遠慮なく電話してきてな。
と携帯の番号も教えてくれたので、いつでも話せるという安心感もある。

トーニョはアーサーなら大丈夫だと言ったが、この試験の合否でずっと一緒に居られるか否かが決まるのだからと、アーサーはトーニョが帰ってからゲームまでは日々勉強に励んでいる。

明後日の試験…それがすぎたらどのくらいでトーニョのところに行けるのだろうか。
即日…というわけにはさすがに行かないだろうから、1週間後くらいだろうか…。

そんな事を考えながらふと時計を見ると8時前になっていて、アーサーは慌ててPCを付けた。



ゲーム内でも今日は色々が楽しくも順調だった。
何か用があるというトーニョとギルを待つ間、トーニョが貸してくれた釣り具で初めてゲーム内の釣りを体験した。
釣れた魚はあとで店に持って行ってさばいてもらえば色々な道具やお金になるし、釣れる感覚というのはゲーム内でも楽しい。

その後はギルが以前からアーサーが欲しいと思っていたエンジェルウィング取って来てくれた。
魔法を使うため杖を軽く動かす動作をするたび、手にはめたエンジェルウィングから光の粒がキラキラと舞って、とてもきれいで嬉しくなる。

そしてミッション4初挑戦。

途中でフランのミスで沸かしてはいけない敵を沸かしたりもしたが、ギルの活躍で無事死人も出さずにクリア。
意気揚々と帰還する…はずだったのだが……



(アーサー、今どこ?一緒に遊びに行かない?)

それはミッションの帰り道に送られてきた一件のウィスだった。
知らない…わけではないが、一度しか会った事のない相手、オスカー。
以前第二の殺人が起こった時にアゾットが音頭を取って全員集まった時にいたアーチャーである。

「アーサーってリアルでもやっぱり可愛かったりする?!」
から始まって、
「リアルもさ、そんな感じ?可愛い系?服とかどんなの好き?
体格は?やっぱり華奢なのかな?
制服は学ラン?ブレザー?アーサーのイメージだとブレザーって感じだね。
寝る時ってさ、パジャマ?Tシャツ?それとも着ないで寝ちゃったりとか?
あ~、そだ、トランクス派?ブリーフ派?…………」

と、すごい勢いで絡まれて追いかけまわされて、正直怖くて怯えていたら、トーニョが間に入ってくれたのだ。

だって聞いてくる内容がどう考えても何かおかしい。
まるで女の子に粘着する男のようだ。

そう、確かにおかしいとは思うのだが、何故かリアルでも実際、そういう輩にはよく出会う。

学校ではさすがにいないものの、通学中の満員電車の中で何故か後ろに立っていた中年男に荒い息を吐きかけられたり、股間をおしつけられたりしたことも、1度や2度ではない。

学校には制服で行っているし、男だと言う事はわかるはずなのに、何故かそういう痴漢もどきがあとを絶たない。

一度など冬に着ていた制服のコートに白いモノをべったりと付けられて、駅のトイレで泣きながら洗い落した事がある。

1人暮らしなのもあって、尾けられたら怖いので、そんなことがあった日は、まっすぐ家に帰らずにグルグルとあちこち回って帰っていた。

もちろん帰ってすぐ鍵をしっかりかけた上でチェーンもかけて、カーテンは怖いから開けないまま、窓の側にも近寄らないようにしている。




0 件のコメント :

コメントを投稿